10月28日、i-PRO株式会社が開発したAI活用型オブジェクト検索システム(特許第6989572号)が、公益社団法人発明協会の令和7年度九州地方発明表彰で発明奨励賞を受賞したことを公表した。
本システムは、AIを介して複数の監視カメラ映像を検索し、部分的な情報から特定の人物や車両の映像を迅速に提供する。
i-PRO Active Guardに搭載されており、主に欧米の警察署、公園、学校などの大規模施設の警備に活用されている。警察署では事件や事故発生時の捜査や証拠収集に、公園や学校では要注意人物を事前登録してリアルタイムでアラート送信することで少人数警備体制での事件・事故防止に役立てられている。
防犯以外に来客人数カウントなどのマーケティング用途でも利用されている。日本ではi-PRO Active Guardは未導入だが、映像監視および機能拡張ソフトウェアとして製品に利用されている。
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公益社団法人発明協会 令和7年度 九州地方発明表彰 AI活用型オブジェクト検索システムが、発明奨励賞を受賞
【編集部解説】
i-PRO株式会社は、パナソニックから2019年に独立したセキュリティカメラ専業企業です。60年以上にわたる画像センシング技術を継承し、2022年には社名から「パナソニック」の文字を外して完全独立を果たしました。今回の受賞は、同社が独立後に磨き上げてきた技術力が評価されたものと言えます。
今回受賞したAI活用型オブジェクト検索システムの最大の特徴は、「エッジAI」による処理にあります。従来の監視カメラシステムでは、映像データを中央サーバーに送信して解析する必要がありました。しかし、i-PROのシステムでは、カメラ内に搭載されたAIプロセッサーが人物や車両の特徴をリアルタイムで抽出し、メタデータとして記録します。
この仕組みには大きなメリットがあります。まず、ネットワークの負荷が大幅に軽減されます。フル解像度の映像を常時送信する必要がなく、軽量なメタデータだけを送れば良いからです。次に、高価なGPUサーバーが不要になります。処理がカメラ側で完結するため、システム全体のコストを抑えられます。
実用面では、捜査担当者が「赤いシャツを着た男性」といった部分的な情報だけで、複数のカメラ映像から該当する人物を迅速に検索できます。専門知識がなくても直感的に操作できる設計になっており、緊急時の対応速度を飛躍的に向上させています。
興味深いのは、このシステムが主に欧米で活用されている点です。i-PRO Active Guardは、Genetec、Milestone、Video Insightといった主要なビデオ管理システム(VMS)と連携し、警察署、公園、学校などで実装されています。リアルタイム監視だけでなく、事後の捜査においても強力なツールとして機能しています。
日本では製品としてのi-PRO Active Guardは未導入ですが、この技術の核心部分は映像監視ソフトウェアや機能拡張ソフトウェアとして活用されています。つまり、特許技術自体は国内外で広く利用されているのです。
監視カメラ業界では、エッジAIによるメタデータ生成が次世代の標準となりつつあります。AxisやVerkadaといった競合他社も同様の技術を展開していますが、i-PROは98種類もの属性情報を検出できる点で業界トップクラスの性能を誇ります。
今回の九州地方発明表彰は、大正10年(1921年)から続く歴史ある表彰制度です。全国8地方で実施され、各地域の科学技術振興に貢献した発明を顕彰しています。i-PROが開発拠点を置く福岡での受賞は、同社の技術開発力が地域産業にも貢献していることを示しています。
監視技術の進化には常にプライバシーとのバランスが求められます。i-PROは、エッジ処理により個人情報を中央サーバーに送信せずに済む点で、プライバシー保護にも配慮した設計を実現しています。AIが倫理的に活用され、堅固なサイバーセキュリティを備えることを企業方針として掲げており、技術と社会的責任の両立を目指しています。
【用語解説】
エッジAI
カメラなどのエッジデバイス内でAI処理を実行する技術。従来のクラウドやサーバーでの集中処理と異なり、データ発生源で直接処理を行うため、通信遅延の削減、帯域幅の節約、プライバシー保護の向上が実現できる。
メタデータ
「データについてのデータ」を指す。映像監視においては、撮影された映像そのものではなく、映像から抽出された情報(人物の性別、衣服の色、車両の種類など)を構造化したデータのこと。
VMS(ビデオ管理システム)
Video Management Systemの略。複数の監視カメラからの映像を統合的に管理・記録・再生するソフトウェアシステム。Genetec、Milestone、Video Insightなどが主要ベンダーである。
九州地方発明表彰
公益社団法人発明協会が主催する、全国8地方で実施される発明表彰制度の一つ。大正10年(1921年)から続く歴史ある表彰で、各地方の優れた発明や考案、意匠を生み出した技術者・研究開発者を顕彰する。
ポラリス・キャピタル・グループ
i-PROの親会社である日本の投資ファンド。2019年のパナソニックからの事業分離時に80%の株式を取得し、i-PROの独立を支援した。
【参考リンク】
i-PRO株式会社 コーポレートサイト(外部)
パナソニックから2019年に独立したセキュリティカメラ専業企業の公式サイト。企業情報や事業領域を掲載
i-PRO Active Guard 製品ページ(外部)
今回受賞したAI活用型オブジェクト検索システムを搭載した製品の公式ページ。技術仕様と機能を紹介
公益社団法人発明協会 地方発明表彰(外部)
大正10年から続く地方発明表彰制度の公式サイト。全国8地方での表彰情報を掲載
i-PRO Edge AI Solutions(外部)
i-PROのエッジAI技術の概要を解説。カメラ内でのAI処理による高度な映像解析を紹介
【参考記事】
i-PRO Active Guard | i-PRO Products(外部)
i-PRO Active Guardの技術詳細。ジェネレーティブAIを活用した自然言語検索機能と人物画像類似検索機能を解説
i-PRO Active Guard Version 3.0 | SecurityInfoWatch(外部)
i-PRO Active Guard 3.0の最新機能を紹介。2025年10月リリース予定のバージョンの特徴を報道
i-PRO成長戦略(外部)
パナソニックからの独立後の成長戦略を解説。オープンポリシーとタイムベース競争の2つの戦略を説明
i-PRO株式会社 | 事例紹介 – IBM(外部)
i-PROのシステム構築事例。2019年の独立から2022年の完全独立までの基幹システム移行を紹介
Edge AI: unlocking the power of edge computing | Axis Communications(外部)
監視カメラ業界におけるエッジAIの重要性を解説。リアルタイム分析とメタデータ生成の利点を説明
【編集部後記】
監視カメラの進化は、私たちの日常にどのような変化をもたらすのでしょうか。エッジAIによる処理は、プライバシーへの配慮とセキュリティの強化を両立させる可能性を秘めています。しかし、技術の進歩と社会的受容のバランスをどう取るべきか、私たち自身が考えるべき時期に来ているのかもしれません。皆さんは、AI監視技術の発展をどのように捉えていますか?innovaTopia編集部も、テクノロジーと社会の関係性について、読者の皆さんと共に考えていきたいと思います。
























