Anysphere、AIコーディングツールCursorに独自モデル「Composer」搭載

[更新]2025年10月31日08:13

Anysphere、AIコーディングツールCursorに独自モデル「Composer」搭載 - innovaTopia - (イノベトピア)

スタートアップAnysphere社は2025年10月29日、AIコーディングツールCursorのメジャーアップデート「Cursor 2.0」の一部として、初の自社開発LLM「Composer」を発表した。

Composerはほとんどのインタラクションを30秒以内に完了し、毎秒250トークンで生成する。これは主要な高速推論モデルの約2倍、同等のフロンティアシステムの4倍の速度である。モデルは強化学習とMixture-of-Expertsアーキテクチャで構築され、静的なデータセットではなく実際のソフトウェアエンジニアリングタスクでトレーニングされた。

Cursor 2.0は最大8つのエージェントを並列実行できるマルチエージェントインターフェースを導入し、各エージェントはgit worktreeまたはリモートマシンを使用した隔離されたワークスペースで動作する。

価格は個人ユーザー向けにFreeからUltra月額200ドルまでのティアがあり、ビジネス向けTeamsはユーザーあたり月額40ドルから提供される。

From: 文献リンクVibe coding platform Cursor releases Composer, its first LLM

【編集部解説】

AIコーディングツール市場において、Cursorの今回の発表は単なる新機能追加ではなく、開発体験の根本的なパラダイムシフトを示しています。これまでのGitHub CopilotやCursorの旧バージョンが「開発者の補助ツール」として機能していたのに対し、Composer搭載のCursor 2.0は「自律的なエージェントとの協働」を前提とした設計になっています。

特に注目すべきは、Composerが静的なコードデータセットではなく、実際の開発環境内でトレーニングされた点です。バージョン管理、依存関係管理、テスト実行といった実務で必要な作業を含めた学習により、従来のLLMが抱えていた「文脈理解の不足」や「実行可能性の低いコード生成」といった課題を克服する可能性があります。

毎秒250トークンという生成速度は、開発者が思考のフローを維持したまま作業できる水準を実現しており、これはAIツールの実用性を大きく左右する要素と言えるでしょう。30秒以内でのタスク完了という指標も、従来の「待ち時間」がもたらしていたストレスを解消します。

一方で、最大8つのエージェントを同時実行できる機能は、コードベースの複雑化や管理コストの増大といったリスクも孕んでいます。複数のエージェントが並行して異なるアプローチを試みる際、その結果を適切に評価・統合するスキルが開発者に求められるようになります。

月額200ドルのUltraプランという価格設定は、個人開発者にとっては高額ですが、企業の開発生産性向上という観点では投資対効果が見込める水準です。今後、このようなAI開発ツールが標準化されることで、プログラミング教育のあり方や、エンジニアに求められるスキルセット自体が変容していく可能性があります。

用語解説

Vibe coding
開発者が持つ曖昧な意図や感覚(Vibe)を自然言語で伝えるだけで、AIが対話的にコードを記述・修正していく開発スタイル。単にコードを生成・補完するだけでなく、リファクタリングやデバッグといったコードベース全体にわたる変更をAIと協働して進める点に特徴がある。従来の「コードを書く」作業から「AIに意図を伝え、結果をレビューする」作業へのシフトを象徴する。

LLM(大規模言語モデル)
膨大なテキストデータで学習されたAIモデル。文章生成、翻訳、要約、コード生成など多様なタスクをこなす。GPT-4やClaude、Geminiなどが代表例であり、近年のAI技術革新の中核を担っている。

Mixture-of-Experts(MoE)
複数の専門化されたサブモデル(エキスパート)を組み合わせたアーキテクチャ。タスクに応じて最適なエキスパートを選択・組み合わせることで、効率的かつ高性能な処理を実現する。大規模モデルの計算コストを抑えながら性能を向上させる技術として注目されている。

git worktree
単一のリポジトリから複数の作業ディレクトリを作成できるGitの機能。異なるブランチを同時に扱う際に便利で、Cursor 2.0では複数エージェントが互いに干渉せず並行作業するために活用されている。

参考リンク】

Cursor公式サイト(外部)
AIを活用したコードエディタの公式ページ。Cursor 2.0とComposerの詳細な機能紹介、料金プラン、ドキュメントが掲載されている。無料プランから始められる。

Anysphere公式サイト(外部)
Cursorを開発するスタートアップ企業の公式ページ。チーム情報や企業のビジョン、採用情報などが確認できる。

Cursor 2.0公式ブログ(外部)
Cursor 2.0とComposerの発表記事。技術的な詳細、ベンチマーク結果、新機能の解説が開発チームによって詳述されている。

Composer公式ブログ(外部)
Composerの技術的詳細に特化した公式発表記事。強化学習による訓練手法、Mixture-of-Expertsアーキテクチャ、パフォーマンス指標などが解説されている。

【参考記事】

Cursor 2.0 pivots to multi-agent AI coding, debuts Composer model(外部)
AI Newsによる分析記事。Cursorのファイル中心UIからエージェント中心UIへのパラダイムシフト、マルチエージェント協働の意義、GitHub CopilotやReplit Agentとの差別化ポイントを解説している。

Composer: Building a fast frontier model with RL(外部)
技術ブロガーSimon Willisonによる考察記事。強化学習を用いた実環境トレーニングの重要性、従来のLLMとの根本的な違い、開発者体験への影響について分析している。

Vibe Check: Cursor 2.0 and Composer 1 Alpha(外部)
Everyによるレビュー記事。Cursor 2.0の新しいエージェント中心アーキテクチャ、Composerのパフォーマンス、開発者ワークフローへの影響について詳細に検証している。

【編集部後記】

AIがコードを「補完する」時代から「協働する」時代へ―今回のCursorのアップデートは、私たち開発者とAIの関係性が新しいフェーズに入ったことを示しているのかもしれません。みなさんは、自分の作業を8つのAIエージェントに任せて、その結果を比較検討しながら最適解を選ぶという働き方を想像できるでしょうか。

プログラミング未経験の方でも、自然言語だけでアプリを作れる未来はもう目の前です。一方で、エンジニアに求められる能力が「コードを書く技術」から「AIを使いこなす判断力」へシフトしていくとしたら、私たちはどんな準備をすべきなのでしょうか。この問いに、一緒に向き合っていけたらと思います。

投稿者アバター
TaTsu
『デジタルの窓口』代表。名前の通り、テクノロジーに関するあらゆる相談の”最初の窓口”になることが私の役割です。未来技術がもたらす「期待」と、情報セキュリティという「不安」の両方に寄り添い、誰もが安心して新しい一歩を踏み出せるような道しるべを発信します。 ブロックチェーンやスペーステクノロジーといったワクワクする未来の話から、サイバー攻撃から身を守る実践的な知識まで、幅広くカバー。ハイブリッド異業種交流会『クロストーク』のファウンダーとしての顔も持つ。未来を語り合う場を創っていきたいです。

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