Space BD株式会社(本社:東京都中央区、代表取締役社長:永崎将利)とInovor Technologies Pty Ltd(本社:南オーストラリア州アデレード、CEO:Dr. Mathew Tetlow)は、2025年10月30日、日本とオーストラリアの宇宙産業における商業的協業の拡大を目的とした覚書(MOU)を締結した。

本MOUにより、Space BDはInovor社が開発する衛星に打上げ機会を提供し、衛星サブシステム・ユニットの販売を実施する。
両社は技術的・商業的情報の交換や共同での顧客開拓を通じ、両国間の宇宙ビジネスエコシステムの発展を目指す。Inovor社は2012年設立の南オーストラリア州アデレード拠点の小型衛星メーカーで、小型衛星バス「Apogee」シリーズや電源・通信などの高性能サブシステムを開発する。
Space BDは2017年9月1日設立で、2025年10月現在、衛星取扱い数100件超を含め600超の宇宙空間での実験実績を有する。
From:  PRTIMES Space BD、豪州・Inovor Technologies社と宇宙分野における日豪連携推進に向けた覚書を締結
PRTIMES Space BD、豪州・Inovor Technologies社と宇宙分野における日豪連携推進に向けた覚書を締結
【編集部解説】
日本の「宇宙商社®」Space BDとオーストラリアの小型衛星メーカー・Inovor Technologiesが覚書を締結したというニュースは、アジア太平洋地域の宇宙産業が大きく転換する瞬間を象徴しています。この動きが持つ意味を、いくつかの角度から読み解いてみましょう。
まず理解しておきたいのは、オーストラリアの宇宙産業が国際的な立場をどう変えているかという背景です。Inovor Technologies は2012年の設立以来、小型衛星バス「Apogee」シリーズなどの開発を通じて、南半球における自主的な宇宙開発能力の構築に取り組んできました。こうした企業の登場は、かつて限定的だった宇宙産業へのアクセスが、新興国や地域の企業にも開かれてきたことを示しています。
Space BDの役割は、単なる衛星の打ち上げサービスを提供することではありません。Space BDが掲げる「宇宙商社®」というコンセプトは、衛星開発から運用、関連サブシステムの販売に至るまで、宇宙ビジネスの川上から川下までを統合的にサポートするというビジネスモデルを意味しています。今回のMOUは、その統合的なサービス提供が実質的に機能していることの証といえるでしょう。
このパートナーシップがもたらす実質的な価値は、衛星サブシステムの販売にあります。電源や通信システムといった衛星の「内臓部品」ともいえるサブシステムは、開発難度が高く、信頼性が求められるコンポーネントです。オーストラリアの企業が開発したこれらのシステムが、日本を通じてアジア太平洋地域に流通する仕組みが整うことで、この地域全体の宇宙産業のエコシステムが厚みを増していきます。
同時に、Space BDが2025年10月現在で衛星取扱い数100件超、宇宙空間での実験実績600超を重ねているという数字は、日本の宇宙産業がいかに急速に成長しているかを物語っています。これらは単なる統計ではなく、宇宙を使った新しいビジネスや研究開発が、実際に次々と実現されていることを意味しています。
宇宙状況把握(Space Situational Awareness, SSA)という分野にもInovor社が取り組んでいる点は、看過できません。軌道上の衛星やスペースデブリの動向を把握することは、今後の宇宙開発の安全保障的側面において極めて重要です。オーストラリアと日本がこうした技術領域で連携することは、地政学的な観点からも意義があります。
潜在的なリスク要因としては、小型衛星メーカーの急増に伴うスペースデブリの増加が挙げられます。Apogeeシリーズを含む小型衛星の普及は、軌道上の混雑をさらに進める可能性があります。ただし、Inovor社がSSA分野に取り組んでいる点を踏まえると、こうした課題への対応意識を持ち合わせていることが見て取れます。
今回のMOUは、単一の商取引協定ではなく、「両国間の宇宙ビジネスエコシステムの発展」を掲げています。これは、今後さらなる企業間連携が生まれやすい環境づくりへの意思表示といえるでしょう。アジア太平洋地域における宇宙産業の自立と成熟が、確実に進行していることを、このニュースは示唆しているのです。
【用語解説】
覚書(MOU)
Memorandum of Understandingの略。事業や協力に関する両者の合意や意思確認を文書化したもの。契約ほどの法的拘束力は必ずしも強くはないが、今後の協力方針を示す重要な文書である。
小型衛星
明確な定義はないが、一般的に重量が数kgから数百kg程度の、従来の大型衛星より軽量・低コストな衛星の総称。開発期間が短く、多様なミッションに柔軟に対応できるため、民間企業によるビジネス利用が急速に拡大している。
衛星バス
衛星の基本構造体で、電源、通信、姿勢制御などの基本的な機能を提供するプラットフォーム。搭載するカメラやセンサーなどの「ペイロード」の下地となるもの。
宇宙状況把握(SSA)
Space Situational Awarenessの略。軌道上の衛星やスペースデブリの位置・軌道情報を監視・把握するシステムと活動。衛星衝突回避やスペースガード、宇宙の安全保障に不可欠な技術領域である。
スペースデブリ
軌道上で機能を失った衛星やロケットの残骸、衝突で生じた破片など、宇宙を漂う不要物体。衛星衝突のリスク要因となる。
低軌道(LEO)
Low Earth Orbitの略。地表高度200~2000km程度の軌道。小型衛星が多く配置される領域で、通信遅延が小さく、高解像度の地球観測が可能なため商用利用が増えている。
【参考リンク】
Space BD株式会社(外部)
日本の「宇宙商社®」として、衛星打上げ機会の提供からISS活用支援まで、宇宙ビジネスのワンストップソリューションを展開する企業。
Inovor Technologies Pty Ltd(外部)
南オーストラリア州アデレード拠点の小型衛星メーカー。Apogeeシリーズと高性能サブシステム開発で知られる。
【参考記事】
SSA(宇宙状況把握)とは〜日本の防衛省と国際状況(外部)
SSA定義、目的、観測システムを詳細に解説。高度650km地点で直径10cm級物体観測可能が記載。
JAXA|宇宙状況把握(SSA)(外部)
JAXA新型SSAレーダー性能向上を記載。観測可能直径が10cm級、距離が3000kmに拡張された。
H3ロケット試験機2号機に搭載された超小型衛星の技術(外部)
Space BD企業情報と実績。2023年11月時点での衛星取扱い件数約70件、実績約450件以上を掲載。
South Australia to launch Australian-first satellite mission(外部)
Inovor初期段階プロジェクト紹介。Apogeeバス開発背景と南オーストラリア宇宙戦略を明記。
Milestone reached in development of Apogee satellite bus(外部)
Apogee衛星バスの具体的機能と軽量モジュール構造を技術的に解説。サブシステム信頼性確保を記載。
【編集部後記】
軌道上の衛星の数が急速に増えていく時代、「衛星とは何か」「それがどう社会を変えるのか」—こうした問いについて、みなさんはどう考えていますか?
日本とオーストラリアの企業が手を組む動きは、宇宙産業が国を超えて現実のビジネスになっていることを示唆しています。南半球と北半球、異なる視点から宇宙を見つめる両国の連携。その先に見える未来のかたちを、ご一緒に想像してみませんか。




 
		



















