Eavorが示す可能性—火山帯のない場所でも地熱発電、ドイツで初の商用システム稼働へ

[更新]2025年11月5日07:42

Eavorが示す可能性—火山帯のない場所でも地熱発電、ドイツで初の商用システム稼働へ - innovaTopia - (イノベトピア)

カナダの先進地熱スタートアップEavorが、10月下旬にドイツのゲレッツリード(Geretsried)での地熱プロジェクトの2年間の掘削結果を公開した。

同社は掘削時間を50%削減し、技術改善を実現したと発表した。2023年7月に掘削を開始したEavorは、欧州連合のイノベーション基金から9,160万ユーロ(現在のレートで約162億円)の助成金を獲得している。

ゲレッツリード(Geretsried)の最初のループは地表下2.8マイルに到達する2本の垂直井戸と、1本あたり1.8マイルの長さの12本の水平井戸で構成される。同社は最初の8本の横方向井戸の掘削に100日以上を要したが、残りの4本の掘削時間を50%削減した。絶縁掘削パイプ技術の導入により、掘削工具の冷却を実現し、ドリルビット寿命を3倍に延長した。

ゲレッツリード(Geretsried)プロジェクトは4つのループで構成され、地域グリッドに8.2メガワットの電力と近隣の町に64メガワットの地域暖房を供給する予定である。また、2026年3月に2番目のループの建設を開始する計画である。同プロジェクトは同年に商業化される予定であり、その種の最初の商業システムになる。

From: 文献リンクNovel Geothermal System to Come Online in Germany

【編集部解説】

地熱エネルギーは、太陽光や風力とは異なり、昼夜を問わず安定して発電できる「ベースロード電源」として期待されています。しかし、地熱発電は従来、火山帯や温泉地といった限定的な地域でしか実現できませんでした。Eavorのプロジェクトが注目を集める理由は、この制限を打ち破ろうとしているからです。

Eavorが採用する「クローズドループ」技術は、従来の地熱発電とは大きく異なります。従来型では地下の温水を汲み上げて利用するのに対し、Eavorは地中に専用流体を循環させて、周囲の岩石から熱を「熱伝導」で吸収します。言わば、地球全体を一つの巨大な放熱器として機能させるアプローチです。この方式なら、温水がない地域でも、十分な深さと温度があればどこでも対応可能になります。

ドイツでのプロジェクトにおける「掘削時間の短縮」というマイルストーンは、単なる効率化ではなく、商業化への現実的な道筋を示しています。地熱企業にとって掘削ヤードの日当費用は一般的に約10万ドルと莫大な出費です。絶縁掘削パイプ技術やドリルビット寿命の3倍化といった改善は、プロジェクト全体のコストを劇的に引き下げます。同社が熱エネルギー出力をループあたり約35%増加させられる見通しを示したことも、経済性の向上を示唆しています。

重要なのは、地熱業界における比較検討です。同じく次世代地熱を手がけるFervo Energyは「強化地熱システム(EGS)」という異なるアプローチを採っており、ユタ州で1つのプロジェクトで10メガワットを達成しています。Fervoの方式は従来技術と比較して高い熱回収効率を実現していますが、水圧破砕を伴うため、ドイツなどフラッキング規制国では展開できません。対するEavorのクローズドループは、フラッキング禁止地域でも実行可能であり、地震リスクも低いとされています。

しかし、コーネル大学のJeff Tester教授が指摘するクローズドループ方式の根本的な課題も無視できません。パイプを通じた熱伝達には物理的な限界があり、流体温度と流量を経済的に成立させるレベルまで高めることが最大の課題なのです。Eavorがヨーロッパの「レベライズドコスト・オブ・ヒート」(メガワット時熱当たり50~100ドル)に対応できるという主張は、現時点でのモデリング結果に過ぎません。実プロジェクトでこれが実証されることが、業界全体の信頼を大きく左右する要素となります。

ドイツプロジェクトが「その種の最初の商業システム」になるという点も戦略的に重要です。EU Innovation Fundからの9,160万ユーロの資金援助は、ヨーロッパの脱炭素化目標との一致を示しています。同時に、4つのループで計64メガワットの地域暖房供給を予定している点は、デジタルデータセンターの急増による電力・熱需要の増加というグローバルな文脈とも合致しています。

地熱エネルギーが真の意味で「ユニバーサル」なクリーンエネルギーとなるには、こうした技術開発と実装例の積み重ねが不可欠です。Eavorのゲレッツリード(Geretsried)プロジェクトは、2026年に予定されている最初のループ稼働によって、その可能性を初めて実測データで示す局面を迎えています。

【用語解説】

クローズドループ地熱システム
地下に専用流体を循環させて、周囲の岩石から熱を吸収する地熱発電方式である。従来の地熱発電は天然の温泉水を利用するのに対し、クローズドループは完全に密閉された環流路で流体を循環させるため、地下水への影響がなく、フラッキング規制地域でも展開可能である。

強化地熱システム(EGS: Enhanced Geothermal Systems)
岩盤に水圧破砕(フラッキング)を施し、人工的に熱交換できる貯蔵層を作成する地熱発電技術である。Fervo Energyが採用しており、従来の地熱技術と比較して高い熱回収効率を実現できるが、地震リスクと地下水への影響のため、一部の国では規制対象となっている。

レベライズドコスト・オブ・ヒート(LCOH)
地熱プロジェクトの全ライフサイクルにおいて、単位熱量(メガワット時の熱)を提供する平均コストを指す経済指標である。従来の化石燃料やその他の熱源との経済性比較に用いられる。

ベースロード電源
昼夜を問わず安定して発電できる電源の総称である。太陽光や風力は天候に左右されるが、地熱、原子力、火力などがベースロード電源に該当する。

欧州連合イノベーション基金(EU Innovation Fund)
ヨーロッパの脱炭素化目標達成のため、革新的な低炭素技術開発に助成金を供給する組織である。ドイツのゲレッツリード(Geretsried)プロジェクトに9,160万ユーロを投資している。

【参考リンク】

Eavor Technologies Inc.(外部)
世界初のスケーラブルなベースロード電源を実現するカナダの地熱技術企業。

Eavor GmbH(Eavor Deutschland)(外部)
Eavorの子会社で、ドイツでのゲレッツリードプロジェクトを主導。

Fervo Energy(外部)
強化地熱システム技術を開発・展開するアメリカの地熱企業。

IEEE Spectrum(外部)
アメリカ電気電子学会が発行する先端技術関連の情報誌。

Canary Media(外部)
気候技術とクリーンエネルギー専門のニュース・分析メディア。

【参考記事】

The Potential for Geothermal Energy to Meet Growing Data Center Electricity Demand(外部)
Rhodium Groupが2025年3月に発表。地熱がAIデータセンターの電力需要の64%を供給できる可能性を分析。

Eavor’s next-generation geothermal project awarded €91.6 million(外部)
EUのイノベーション基金からの助成金獲得を報じるEavor公式発表。プロジェクト規模と戦略を示す。

Project Geretsried – Eavor Deutschland(外部)
ゲレッツリードプロジェクトの公式詳細ページ。8.2MW発電と64MW地域暖房供給の性能指標。

Deeper is Cheaper: New study points to opportunity of geothermal(外部)
2025年10月報告。より深い地層での地熱開発がコスト削減につながる市場分析。

Drilling commences for the world’s first commercial Eavor-Loop™(外部)
2023年7月掘削開始時の公式ブログ。プロジェクトのタイムラインと技術仕様を記載。

【編集部後記】

Eavorのプロジェクトが示しているのは、「地熱エネルギーはもう限られた場所だけのものではない」という可能性です。

火山帯以外でも、深く掘れば熱が手に入る。その技術が実際に動き始めようとしています。皆さんは、AI時代の莫大な電力需要を、どのエネルギーで賄うべきだと考えますか?太陽光や風力との組み合わせ、あるいは地熱の役割について、一緒に考えてみませんか?

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omote
デザイン、ライティング、Web制作を行っています。AI分野と、ワクワクするような進化を遂げるロボティクス分野について関心を持っています。AIについては私自身子を持つ親として、技術や芸術、または精神面におけるAIと人との共存について、読者の皆さんと共に学び、考えていけたらと思っています。

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