Hondaは2025年11月4日、イタリア・ミラノで開催されているEICMA 2025で、初の電動モーターサイクル「Honda WN7」を一般公開した。
WN7は新しい二輪電動事業のブランド方針を具現化したFUN領域向け電動ネイキッドモデルで、開発コンセプトを「風になる(Be the Wind)」とした。最高出力は50kWで排気量600㏄のICE車相当、最大トルクは100Nmで1000ccのICE車に匹敵する。
駆動バッテリーは新規開発した9.3kWhの固定式リチウムイオンバッテリーを採用し、急速充電器では30分でバッテリー残容量20%から80%まで充電でき、普通充電では残容量0%から100%まで2.4時間以内で完了する。フル充電時の航続距離は140㎞(WMTCモード)である。
車体骨格はアルミ製バッテリーケースを骨格の一部とするフレームレス構造を採用しており、軽量化とスペースレイアウトの自由度が実現されている。WN7は熊本製作所にて生産し、グローバル市場に供給する予定である。
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<EICMA 2025>Honda初の電動モーターサイクル「Honda WN7」を一般公開
【編集部解説】
ホンダが発表したWN7は、日本の四大二輪メーカーとしては、大型スポーツモデルに匹敵する走行性能を持つ初の本格的な電動バイクであり、同時に電動二輪事業における新たなブランド戦略の第一号機となっています。このタイミングでの発表には、ホンダの電動化戦略における転換点としての意味があります。
電動モーターサイクル市場において注目すべき点は、WN7が単なる「エンジンを電動に置き換えたバイク」ではなく、電動特有の性能を最大限に活かした設計思想が貫かれていることです。最高出力50kWは排気量600ccの内燃機関車に相当する性能値ですが、より重要なのは最大トルク100Nmが1000ccのICE車に匹敵するという点にあります。電動モーターは回転数に関わらず最大トルクを即座に発生させるため、発進加速や中速域での追い越しなど、実乗用時の体感加速性は排気量換算値以上になる可能性が高いのです。
充電インフラの互換性も戦略的な意味を持っています。WN7がCCS2規格とType 2規格の両方に対応しているのは、単なる汎用性ではなく、自動車用充電ネットワークとの統合を狙ったものです。急速充電で20%から80%まで30分という充電時間は、欧州における既成の四輪EV充電ネットワークとの親和性を高め、充電インフラ整備の効率化につながります。
フレームレス設計とバッテリー統合構造は、電動バイクの可能性を示す技術的なアプローチです。アルミ製バッテリーケースを車体骨格の一部とすることで、従来の鋼管フレームが占めていた重量と空間を削減し、軽量化と設計の自由度を同時に実現しています。217kgという車体重量は、これまでのバイク開発の常識を大きく変えるものではありませんが、9.3kWhのバッテリーを搭載しながら達成できた重さという文脈では、電動化による重量増加を最小化する技術的工夫が有効であることを示唆しています。
今後のリスク要因としては、電動バイク市場そのものの成熟度の問題があります。現在、ヨーロッパでもアメリカでも電動オートバイの販売台数は内燃機関車と比較すると依然少数派であり、消費者が「電動バイクは走行距離が短い」「充電に手間がかかる」というイメージを払拭する必要があります。140km(WMTCモード)という航続距離は日常用途には十分ですが、週末のツーリングや長距離走行を想定する伝統的なバイク愛好家には物足りないと感じられる可能性が否めません。
規制面では、欧州では2035年にガソリンエンジン新車販売禁止という規制枠組みが進行しており、WN7のようなFUN領域向け電動ネイキッドモデルは、この規制転換期における「選択肢の提示」として機能することになります。同時に、ホンダが定格出力の異なるバリエーションを用意しているのは、欧州のライセンス階級制度を意識したものです 。定格出力11kWのモデルはA1ライセンスに適合します 。一方、最高出力50kWを発揮する定格出力18kWのモデルは、そのままであればA2ライセンスの上限(35kW)を超過します 。これは、まず高性能モデルでブランドイメージを確立しつつ、A1ライセンス市場も同時に開拓するという、複数のセグメントを狙う戦略的な設計といえるでしょう。
このWN7発表は、ホンダが2050年に向けた全事業のカーボンニュートラル目標、およびより直近の2040年における二輪車100%EV化目標へと進むための実質的な始まりを意味しています。電動バイク市場そのものがまだ初期段階にある現在、従来の大手メーカーが本気度を示す事例は市場全体へのシグナル効果を持ちます。WN7がヨーロッパ市場でどの程度の販売実績を上げるかは、今後の電動二輪市場拡大のペースを左右する重要な指標となるでしょう。
【用語解説】
CCS2(Combined Charging System Type 2)
電気自動車の急速充電用コネクター規格の国際標準。欧州を中心に採用されており、WN7がこの規格に対応することで、四輪EV用充電ネットワークとの互換性を実現している。
WMTC(Worldwide harmonized Motorcycle Test Cycle)モード
バイク用の国際統一燃費・排ガステスト方式。WN7の航続距離140kmはこのテスト条件下での測定値である。
ベルトドライブ
チェーンドライブの代わりにベルトを使用した伝動方式。騒音が少なく、メンテナンスが簡単であるとされている。
【参考リンク】
Honda Global(外部)
ホンダの公式グローバルウェブサイト。新製品情報と技術開発、企業ビジョンなど全事業情報を掲載。
EICMA 2025 – Milan Motorcycle Show(外部)
ミラノ開催の欧州最大級オートバイショー。新型バイクのグローバルプレミア会場。
Honda WN7 Official Page(外部)
WN7英国向け公式情報。仕様、デザイン、試乗登録など製品詳細情報を掲載。
【参考動画】
【参考記事】
Honda Unveils Its First Electric Motorcycle, the Honda WN7, at EICMA 2025(外部)
ホンダ英国法人による公式発表。WN7の詳細仕様と開発コンセプト「Be the Wind」を記載。
New CB1000GT, global debut of Honda WN7 electric motorcycle(外部)
ホンダのEICMA 2025出展全体を取り上げた公式発表。市場導入戦略に関わる詳細を記載。
ホンダ、「EICMA 2025」で同社初の電動モーターサイクル「Honda WN7」や新型「CB1000GT」世界初公開(外部)
日本主要テック系メディア Impress による報道。競合分析と電動化規制との関連性を掲載。
2026 Honda WN7 First Look(外部)
米国有力バイク系メディア Cycle World による初報道。米国市場での位置付けを報告。
【編集部後記】
電動バイクの「静粛性」という特性が、実はライディング体験を根本から変えるかもしれないという点に、皆さんは気づいていましたか?WN7が掲げる「風になる」というコンセプトは、単なるマーケティング用語ではなく、エンジン音に邪魔されない中で周囲の音を感じながら走る、まったく新しい感覚を示唆しています。
これまで「バイク = エンジン音」という体験が当たり前だった私たちが、その常識を手放してみたとき、走る楽しさはどう変わるのか。WN7をきっかけに、バイク文化そのものの過渡期を一緒に目撃している気がしませんか?
























