株式会社野村総合研究所(NRI)が実施した「ユーザー企業のIT活用実態調査(2025年)」は、日本企業517社のCIOなどを対象に、IT予算、生成AIやノーコード/ローコードの導入、レガシーシステム、人材・スキルの状況を明らかにしたものです。
2025年度は約半数の企業でIT予算が前年度から増加し、2026年度も約半数が増加を見込んでいますが、伸び率は前年より鈍化しています。
生成AIを導入済みの企業は57.7%に達し、導入済みと導入検討中を合わせると約76%となる一方で、「リテラシーやスキルが不足している」「リスクを把握し管理することが難しい」といった課題も浮き彫りになっています。
レガシーシステムはアプリケーションで47.3%、基盤で48.2%の企業に残存しており、ブラックボックス化や有識者不足、ベンダーサポート終了への懸念が指摘されています。
ITストラテジストを保有している企業は29.6%にとどまり、ニーズとのギャップが大きいことが、日本企業のデジタル化を進める上でのボトルネックとなっています。
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野村総合研究所、日本企業を対象に「IT活用実態調査(2025年)」を実施
【編集部解説】
この調査から見えてくるのは、「お金」と「仕組み」は動き始めている一方で、それを使いこなす「人」と「ルール」がまだ追いついていないという日本企業の現在地です。 IT予算と生成AI導入率は着実に伸びていますが、現場ではリテラシー不足やリスク管理の難しさが強く意識されており、単なるツール導入では解決できないフェーズに入っています。
レガシーシステムが約半数の企業に残っている事実は、技術の老朽化だけでなく、「変えなければならない」と「簡単には止められない」の板挟みを象徴しています。 ブラックボックス化や有識者不足への不安から、守りのITと攻めのデジタルを同じ少人数のIT部門に背負わせる構図が続き、結果として変革のスピードが頭打ちになっている企業も多いはずです。
わたしたちにとって重要なのは、「生成AIやノーコード/ローコードをどう入れるか」以上に、「ITストラテジストやプロジェクトマネージャーとして、どの業務を変え、どこまで自動化し、どこから人が責任を持つのかを設計できるか」という視点です。 世界的なレポートでも、生成AIのボトルネックは技術ではなくスキルとガバナンスだと指摘されており、日本の今回の数字はその国内版と言えます。
この調査結果は、「IT予算やAI導入の数字が良いから安心」ではなく、「人材戦略とガバナンスまで含めて初めて導入が実現する」というメッセージとして受け止めるべきだと感じます。アーリーアダプターとしてこのギャップを正面から捉え、組織の中で“次の一手”を具体化できる人が、これからの日本企業を大きく変えていくはずです。
【用語解説】
ノーコード/ローコード開発
プログラミング言語をほとんど、または最小限しか書かずに、GUIやコンポーネントの組み合わせでアプリケーションを構築する開発手法である。
市民開発
業務部門の非エンジニアが、ノーコード/ローコードツールを活用して、自部門向けの業務アプリケーションを開発する取り組みを指す。
レガシーシステム
メインフレームやオフコン、COBOLなどの古い技術で構築され、保守要員やサポートが減少している既存システムを指し、刷新の難しさが課題となる。
ITストラテジスト
デジタル技術とビジネス双方に精通し、事業戦略に沿ったIT投資やシステム構成を設計する専門人材で、日本では供給不足が指摘されている。
【参考リンク】
野村総合研究所(NRI)公式サイト(外部)
コンサルティングとITソリューションを提供し、IT活用やデジタル化に関する調査レポートも多数公開している。
ユーザー企業のIT活用実態調査 資料ページ(外部)
NRIが毎年実施するIT活用実態調査の概要や資料ダウンロード情報がまとまったページである。
日本企業のIT活用とデジタル化 2025(外部)
最新のIT活用実態調査を踏まえ、日本企業のデジタル化の進展と課題をNRIが解説するコラムである。
ChatGPT 公式ページ(外部)
テキスト生成や要約など多用途に利用される対話型生成AIサービスChatGPTの公式紹介ページである。
Google Gemini 公式ページ(外部)
Googleが提供するマルチモーダル生成AI「Gemini」関連サービスへの入り口となる公式ページである。
【参考記事】
課題は人材のスキル不足 NRIの2025年IT活用実態調査(外部)
NRIの2025年調査を基に、IT予算増と生成AI普及、人材スキル不足やリスク管理の課題を整理した解説記事である。
IT活用実態調査の結果から第20回 デジタル化の投資成果を高める条件(外部)
IT活用実態調査の結果を踏まえ、IT投資と人材・ガバナンスの関係からデジタル化の投資成果を高める条件を論じている。
Bridging the AI Gap – Japan(外部)
日本企業の生成AI導入状況とスキル・ガバナンスのギャップを分析し、政策と企業戦略の両面からの対応策を提言する英語レポートである。
AI Discussion Paper Version 1.0(Japan FSA)(外部)
日本の金融庁がAI活用に伴うリスクとガバナンスの考え方を整理した英語資料で、生成AI利用の枠組み理解に役立つ。
Artificial Intelligence 2025 – Japan(外部)
日本におけるAI活用と規制環境を国際的な視点で整理し、企業のコンプライアンス対応や戦略策定に示唆を与える英語レポートである。
【編集部後記】
数字だけを見ると、日本企業はIT予算も生成AI導入も順調に伸ばしているように見えますが、その裏側で「人」と「ガバナンス」に大きなひずみが生まれていることが、この調査から伝わってきました。
個人的には、レガシーを抱えたまま生成AIやノーコード/ローコードに踏み出さざるを得ない現場の苦しさを、どれだけ正面から語れるかが、これからのITメディアの役割だと感じています。
もしこの記事を読んで、「うちもまさにこの状態だ」と感じた方がいたら、ぜひ自社の中で一歩踏み込んだ議論を始めるきっかけにしてもらえたらうれしいです。 未来のITは、予算やツールではなく、意思決定と対話から変わっていくはずです。
























