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Emotional Perception AI / Getty Images – 英国裁判所がAI特許と著作権の未来を左右する2大訴訟

 - innovaTopia - (イノベトピア)

Last Updated on 2025-03-28 17:05 by admin

英国の裁判所で、AIに関連する2つの重要な訴訟が進行中である。

・Emotional Perception AI Ltd対特許・意匠・商標総監督官事件
この訴訟は、感情反応に基づいてメディア推奨を提供する人工ニューラルネットワーク(ANN)の特許性をめぐるものだ。2024年7月、控訴院はANNをコンピュータプログラムとして扱い、Emotional Perception AI社の特許出願を拒絶した。同社は最高裁判所に上告し、2025年半ばに審理が予定されている。

・Getty Images対Stability AI Ltd事件
Getty Images社は、Stability AI社がGetty Imagesのウェブサイトから画像を無断で使用し、画像生成AI「Stable Diffusion」の学習に利用したとして訴訟を起こした。Stability AI社は一部の画像使用を認めているが、責任は否認している。2025年6月に責任問題の審理が予定されている。

これらの訴訟は、AIの文脈における特許、著作権、商標の伝統的な原則の適用に関する初めての控訴審判例となる可能性がある。判決は、アイルランドを含む他の国々にも影響を与える可能性がある。

from:AI and Intellectual Property Rights – Cases To Watch in 2025

【編集部解説】

Emotional Perception AI Ltd対特許・意匠・商標総監督官の訴訟は、感情反応に基づいてメディア推奨を行う人工ニューラルネットワーク(ANN)の特許性をめぐるものです。2023年11月の高等法院判決では、ANNは「コンピュータプログラム」ではないとされ、特許性が認められました。しかし、2024年7月の控訴院判決でこの判断は覆されました。

控訴院は、ANNもコンピュータプログラムの一種であり、その出力は技術的貢献ではなく意味的な質に依存するとしました。この判断は、AI技術の特許取得に高いハードルを設定したと言えるでしょう。

Getty Images対Stability AIの訴訟は、AIの学習データとしての著作物使用に関する重要な先例となる可能性があります。特に、AIが生成した画像が既存の著作物の「実質的な部分」を再現しているかどうかが争点となっています。この問題は、AIの学習データそのものの価値と、その収益化の可能性を浮き彫りにしています。

今回の英国での訴訟事例は、AIと知的財産権をめぐる世界的な議論の一端を示しています。

ここで注目したいのが、学習データの収益化に関する新たな動きです。例えば、Wirestockというプラットフォームは、写真家やアーティストがAIトレーニングデータとして自分の作品を提供し、その対価を得られるサービスを展開しています。これは、AIの学習データとしての著作物の価値を認め、その利用に対して適切な報酬を支払うという新しいビジネスモデルの出現を示しています。

このような動きは、AI開発企業と著作権者の間の対立を緩和し、両者にとってWin-Winの関係を構築する可能性を秘めています。例えば、AIモデルの開発者は高品質で合法的な学習データを入手でき、一方でクリエイターは自身の作品から新たな収入源を得ることができます。

しかし、この新しいビジネスモデルにも課題があります。例えば、どのように適切な報酬額を決定するのか、また、AIが生成した作品と元の学習データの関係をどのように評価するのかといった問題が挙げられます。

長期的な視点で見ると、これらの動きは、AI技術と著作権法の融合という大きな課題に対する一つの解答を示しています。今後、各国の法制度がAI技術の進歩にどのように対応していくのか、特に学習データの取り扱いや価値評価に関する新たな枠組みの構築が求められるでしょう。

【用語解説】

人工ニューラルネットワーク(ANN)
人間の脳の神経回路を模倣した計算モデル。多数の人工ニューロンが相互に接続され、データ処理を行う。例えるなら、大勢の人が手をつないで情報を伝達していくような仕組みだ。

特許性
発明が特許として認められるための要件。新規性(他にない新しさ)、進歩性(既存技術の単なる組み合わせではない)、産業上の利用可能性が必要とされる。

フェアディーリング
著作権法上の例外規定で、一定の条件下で著作物を許可なく利用できる。日本の「引用」に近い概念だが、より広範囲な利用を認める。

【参考リンク】

Emotional Perception AI Ltd(外部)
感情認識技術を用いたメディア推薦システムを開発する英国のAI企業。

Getty Images(外部)
世界最大級のストックフォト・映像素材のプロバイダー。高品質な視覚コンテンツを提供している。

Stability AI(外部)
オープンソースの生成AI技術を開発する企業。Stable Diffusionなどの画像生成モデルで知られる。

Wirestock(外部)
写真家やアーティストがAIトレーニングデータとして自分の作品を提供し、その対価を得られるプラットフォーム。クリエイターは自身の作品をGetty、Adobe Stock、Canvaなどの人気画像サービスにライセンス供与しながら、AI企業への学習データ提供も同時に行うことができる。

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りょうとく
主に生成AIやその権利問題について勉強中。
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