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Google DeepMindのAlphaEvolve:AIが自ら新アルゴリズムを発見し実用化へ

Google DeepMindのAlphaEvolve:AIが自ら新アルゴリズムを発見し実用化へ - innovaTopia - (イノベトピア)

Last Updated on 2025-06-23 16:46 by 清水巧

Google DeepMindが開発した新しいAIシステム「AlphaEvolve」が、数学的発見と実用的な最適化を実現した。IEEE Spectrumが2025年5月に報じたこの成果は、AIによる独自の科学的貢献の可能性を示している。

AlphaEvolveは「キッシング問題」と呼ばれる数学的概念に取り組み、11次元における下限値を592から593に改善した。キッシング問題とは、同じ大きさの球体が1つの球体に何個接触(「キス」)できるかを数える問題である。

DeepMindの研究チームによると、AlphaEvolveは約50の未解決問題に取り組み、約75%のケースで既知の最適解を再現し、約20%のケースでは既知の解を上回る新たな最適解を発見した。また、行列乗算のための新しいアルゴリズムも開発した。これは1969年にVolker Strassenが発見した手法を56年ぶりに改良したものである。

実用面では、Googleのデータセンター運用を0.7%改善し、次世代のGoogle Tensor Processing Unit(TPU)の設計を最適化し、Geminiの学習時間を1%削減するカーネルの改良も実現した。このカーネルは行列乗算操作の分割方法を改善することで23%の速度向上を達成した。

AlphaEvolveはコードとして表現でき、別のコードで検証できるほぼすべての問題に適用可能である。このシステムは、大規模言語モデル「Gemini」と遺伝的アルゴリズムを組み合わせて機能する。ユーザーが問題を解決するプログラムと検証プログラムを提供すると、GeminiのFlashとProの2つのバージョンが候補プログラムを提案し、遺伝的アルゴリズムによって最適な解が進化していく仕組みである。

DeepMindの研究チームは今後、自然科学を含むより広範な問題への応用拡大を目指しており、研究者向けの早期アクセスプログラムを計画している。また、自然言語による仮説生成に焦点を当てた「AI共同科学者」プロジェクトとの統合も検討している。

References:
文献リンクNew AI Model Advances the “Kissing Problem” And More

【編集部解説】

GoogleのAI研究部門DeepMindが発表した「AlphaEvolve」は、単なるコード生成AIではなく、人間が考案した最先端のアルゴリズムを超える新たなアルゴリズムを自律的に発見・最適化できるシステムです。この成果は、AIが単に既存の知識を再現するだけでなく、真に新しい科学的発見ができることを示す重要な一歩といえるでしょう。

AlphaEvolveの特徴は、大規模言語モデル(LLM)の創造性と、その出力を評価・改良する進化的アルゴリズムを組み合わせた点にあります。具体的には、Gemini FlashとGemini Proという2つのバージョンのLLMを使い、一方が多様な候補プログラムを生成し、もう一方がそれらを詳細に分析するという役割分担をしています。

注目すべきは、このシステムがすでに実用段階に入っていることです。Googleのデータセンター管理システム「Borg」に組み込まれたAlphaEvolveのアルゴリズムは、全世界のコンピューティングリソースの0.7%を継続的に回復させています。これは一見小さな数字に見えますが、Googleの規模を考えると非常に大きな効率改善といえます。

また、AlphaEvolveは次世代のGoogle Tensor Processing Unit(TPU)チップの設計最適化にも貢献しています。不必要なビットを削除する提案を行い、それが実際に次期TPUに統合される予定とのことです。

さらに興味深いのは、AlphaEvolveがGeminiモデル自体の訓練プロセスも最適化した点です。行列乗算操作の分割方法を改善することで、重要なカーネルの速度を23%向上させ、Geminiの訓練時間を1%削減しました。AI開発には膨大な計算リソースが必要なため、この効率化は大きなコスト削減につながります。

数学の分野では、AlphaEvolveは50以上の未解決問題に取り組み、約75%のケースで最先端の解法を再現し、約20%のケースでは既知の最良解を上回る新たな解法を発見しました。

特に注目される成果として、「キッシング問題」における11次元での下限値の改善があります。これは同じ大きさの球体がどれだけ中心の球体に接触できるかという、300年以上前から数学者を魅了してきた問題です。AlphaEvolveは593個の球体による新しい配置を発見し、従来の592という記録を更新しました。

また、行列乗算のアルゴリズムにおいても、1969年にVolker Strassenが発見した手法を56年ぶりに改善し、4×4の複素行列を48回のスカラー乗算で計算する方法を見つけました。これは、行列乗算に特化した以前のシステム「AlphaTensor」よりも優れた成果です。

このようなAlphaEvolveの成功は、AIが科学研究の新たなパートナーとなる可能性を示しています。従来のAI応用(例えばタンパク質設計ツールAlphaFold)は特定のタスク向けに手作業で調整されたアルゴリズムを使用していましたが、AlphaEvolveは汎用的なシステムであり、幅広い領域の問題に適用できます。

今後の展望として、DeepMindは自然科学分野への応用拡大を目指しており、学術研究者向けの早期アクセスプログラムを計画しています。また、自然言語による仮説生成に焦点を当てた「AI共同科学者」プロジェクトとの統合も検討されています。

一方で、AlphaEvolveにも限界があります。例えば、評価に人間の判断が必要な問題(解釈を要する実験室実験など)には使用できません。また、新しい結果を生み出せても、それがどのように導き出されたかという理論的な洞察が限られているという課題もあります。

AIが自律的にアルゴリズムを改良し、それが再びAI自身の性能向上に寄与するという循環は、一部では「特異点」につながる再帰的自己改善AIの始まりと見なされる可能性もあります。しかし、DeepMindのチームはそれが目標ではなく、「人類に利益をもたらすAIの発展に貢献すること」を目指していると述べています。

AlphaEvolveの登場は、AIと人間の協力関係の新たな形を示唆しています。AIが創造的な提案を行い、人間がそれを理解・検証・実装するというプロセスは、今後の科学技術開発の標準的なアプローチになるかもしれません。私たちinnovaTopiaは、このような人間とAIの共進化が、より効率的で持続可能な技術発展につながることを期待しています。

【用語解説】

キッシング問題(Kissing Number Problem)
同じ大きさの球体が1つの球体に何個接触できるかを数える数学的問題。例えば、平面(2次元)では6個の円が中心の円に接触できる。日常生活で例えると、お皿の上にコインを並べる際、中央のコインに何枚のコインが接触できるかという問題に似ている。

行列乗算(Matrix Multiplication)
行列同士の掛け算のこと。AIや機械学習の基礎となる計算で、画像認識や自然言語処理などに不可欠。効率的な行列乗算アルゴリズムは、AIの処理速度を大幅に向上させる。

遺伝的アルゴリズム(Genetic Algorithm)
生物の進化過程を模倣した最適化手法。複数の解候補(個体)から良い結果を出すものを選び、それらを「交配」させて新たな解候補を生成する過程を繰り返す。AlphaEvolveでは、プログラムコードを「個体」として進化させている。

Tensor Processing Unit(TPU)
Googleが開発したAI専用の半導体チップ。通常のCPUやGPUと比べ、AI計算に特化しており、より高速・低消費電力でAIモデルを動作させることができる。

Borg
Googleの巨大なコンピューティングリソースを管理するシステム。世界中のGoogleデータセンターで実行されるタスクを効率的に割り当てる役割を持つ。

【参考リンク】

Google DeepMind(外部)
AIの研究開発を行うGoogleの子会社。AlphaGoやAlphaFoldなど革新的なAIシステムを開発している。

Gemini(外部)
GoogleのマルチモーダルAIモデル。テキスト、画像、音声、動画、コードなど複数の形式のデータを理解・処理できる。

AlphaEvolve外部)
Google DeepMindが開発したAIコーディングエージェント。Geminiを活用し、数学や実用的なコンピューティング応用のためのアルゴリズムを進化させる。

【参考動画】

【編集部後記】

AIが自ら新しいアルゴリズムを発見するという時代が到来しています。皆さんは自分の仕事や研究で、AIに「考える」部分を任せてみたいと思いませんか?例えば、AlphaEvolveのような技術を使って、日常の作業効率化や未解決の問題に新たなアプローチを見出せるかもしれません。今回の記事を読んで、「AIと人間の協働」について考えるきっかけになれば幸いです。AIが進化する時代だからこそ、人間にしかできない創造性や直感の価値も再発見できるのではないでしょうか。皆さんはAIとどのように共創していきたいですか?

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TaTsu
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