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トランプ政権の「AIアクションプラン」にみる世界競争意識、フェアユースの主張と日本との比較

 - innovaTopia - (イノベトピア)

Last Updated on 2025-07-25 16:18 by りょうとく

アメリカ政府は2025年7月23日(現地時間、日本時間7月24日)に「AIアクションプラン」を発表し、国内のAI基盤強化や規制緩和を推進している。加えて、トランプ大統領は発表会の場において、AI開発における著作権保護よりも、「AIの学習利用はフェアユースに該当する」との立場を強調する発言をし、中国とのテクノロジー競争で遅れを取らないことを最重要視している。

トランプ大統領はAIの学習に用いる著作物に対し、すべてに個別の対価支払いを義務付けることは非現実的であると発言。人が本や記事を読むことが著作権侵害でないのと同様に、AIが知識を獲得する過程も著作権を侵害しないと主張している。これに対し、クリエイター側や一部の議員はAI学習時の同意取得を求める法案を提出しているが、トランプ政権はこれに反対の姿勢を示している。

一方、AIアクションプランはディープフェイク対策にも言及し、2025年成立の「Take It Down Act」など、被害者保護のための法律強化を推進。また、連邦政府はAI関連の連邦資金を州の過度な規制に流用しない方針を示しており、「AI産業は単一の連邦基準で規制すべきだ」と強調している。これに対し、規制を重視するカリフォルニア州知事は反発を表明している。

このように、トランプ政権のプランは米中競争の激化を背景に、AI産業の発展と国際競争力維持を目的に著作権フェアユースの拡大解釈を推進しており、クリエイター保護とのバランス調整という課題が引き続き注目されている。

from:文献リンクTrump Says AI Companies Can’t Be Expected To Pay Copyright Holders For Training Content | Deadline

【編集部解説】

トランプ政権が発表した「AIアクションプラン」は、AI産業の発展と国際競争力強化を最優先に据えた政策として注目されます。イノベーションの加速(Accelerating Innovation)、AIインフラの構築(Building American AI Infrastructure)、国際外交と安全保障のリーダーシップ(Leading in International Diplomacy and Security)の3つの柱から成り立っています。これは、中国との激しいテクノロジー競争の中で、過剰な知的財産権規制が米国のAI産業の成長を阻害することへの危機感が背景にあります。

中国はAIの国家戦略を強力に推進していますが、著作権保護や倫理的側面では成熟しているとは言い難く、地政学リスクや規制の不透明さから世界の大手テック企業が撤退や慎重姿勢を取る例も増えています。こうした不確実性の中、米国がフェアユースを軸にAI産業を守りつつ技術覇権を目指す姿勢は、単なる産業政策を超えて国際的な競争戦略の側面も帯びています。

それと同時に、トランプ政権はディープフェイク問題などAIの社会的リスクにも目配りしています。ファーストレディのメラニア・トランプ氏も関与した「Take It Down Act」は、AIによる違法・非倫理的なコンテンツ拡散への法的対応例として評価されるものであり、技術進展と社会的倫理のバランスを模索する米国の姿勢を象徴しています。

現状では、著作権フェアユースの拡大とクリエイター保護の均衡はいまだ揺れており、AI開発の自由度と権利者の利益保護が綱引き状況にあります。州単位の厳しい規制と連邦政府の一元的規制推進との対立も顕在化しており、今後の法整備や産業動向が注目されます。

今回のAIアクションプランは、単なる政策文書を超えて、グローバルなデータ主権、知財の扱い、技術イノベーション、そして社会的信頼の構築といった複合的な課題を提起しており、長期的な視点で見守る必要があります。日本を含む世界の読者には、この動きを踏まえた主体的な議論と理解の深化を期待したいところです。

【用語解説】

フェアユース(Fair Use)
米著作権法において公益目的など特定条件で著作物利用を許可する例外規定。AIの学習利用も適用範囲に含まれるか議論が続けられている。

Take It Down Act
2025年施行。AI生成などによる同意ない性的画像などの拡散防止と被害救済を強化する米国の法律。メラニア・トランプ元大統領夫人が啓発活動。

AI推進法(日本)
2025年5月成立。日本のAIの研究開発と社会実装を促進する法律で、学習時の著作物無断利用を原則合法化している。

【参考リンク】

AIアクションプラン|ホワイトハウス公式サイト(外部)
米国大統領府公式サイト。AIアクションプランなどの政策・公式資料が掲載されている。

【参考記事】

Trump Rejects Idea of Paying Copyright Holders for AI Training | Variety
AI学習時の著作権対価支払いを否定するトランプ氏の発言および米中競争への危機感を解説。

Trump Says He’s ‘Getting Rid of Woke’ and Dismisses Copyright Concerns in AI Policy Speech | WIRED
トランプ政権のAIアクションプラン発表と、著作権保護へのスタンスを多角的に解説。

Hollywood Urges Trump to Not Let AI Companies Exploit Copyrights | Variety
ハリウッドがAI企業による著作権フェアユース拡大に反対し公開書簡を提出した背景を紹介。

【編集部後記】

今回のニュースは、トランプ政権が発表したAIアクションプランを起点に、アメリカにおけるAI開発に関する著作権フェアユースの議論が、いかに米中のテクノロジー競争と深く結び付いているかを示しています。AI産業のグローバルリーダーシップを目指す米国は、著作権保護と技術革新のバランスを取りつつも、過度な規制が産業を萎縮させることを懸念し、とりわけ中国のゆるやかな知的財産権運用に対抗する方針を強調しています。

米国では連邦政府と50州それぞれの規制方針が異なり、AIの著作権、個人情報保護、倫理規制など多様な議論が長期化する見通しです。この点は、米国内の規制の不統一が技術開発やサービス展開に複雑な影響を及ぼすため、業界関係者は注視を欠かせません。連邦レベルでの統一基準策定が進む一方で、カリフォルニア州のように独自規制を強化する州もあり、政治的・法的な対立は続くでしょう。

一方、欧州連合(EU)では人権尊重や個人データ保護の観点からAI規制が非常に厳格に進められており、AI法(AI Act)など法制面での強化が図られています。この厳格さはイノベーション推進と規制の均衡をめぐり激しい議論を引き起こしている点で、まさに世界的な潮流の一端を示しています。

日本はこれらの動きとやや異なるペースと方向性を持っており、2025年5月に成立した「AI推進法」によって、AIの研究開発や社会実装における著作物利用が比較的自由に認められています。この柔軟な制度設計は、AI産業にとっての追い風となる可能性が高いですが、同時に、国際的な著作権ルールや倫理基準が今後統一に向かうなかで、日本が「社会的責任や権利意識の低い国」と見なされるリスクも無視できません。事情は単純ではなく、グローバルな基準づくりに積極的に関与しながら、独自の立場を模索する必要があります。

こうした状況を踏まえると、今回のAI著作権問題が単なる法律の話題に留まらず、技術の進歩、国際政治、社会的信頼、産業成長の複合的な課題として捉えることが重要です。AIによる著作物利用の「フェアユース」概念は、米国の法解釈の下で進化しており、それを世界標準に据えようとする動きはまさに現在進行形の大きな技術・社会変革の一環です。

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