米サンフランシスコの生成AI企業Higgsfieldは、AI画像モデル「Soul」と連携する新機能「Steal」を2025年7月24日に公開した。
Chrome拡張を介し、ウェブ上の任意画像からスタイルを抽出してユーザーのSoul IDキャラクターに即時適用できる。拡張はChrome Web Storeからも配布されているが、記事作成時点では開発者モードでの手動導入も可能で、閲覧履歴の取得などセキュリティ面の懸念がある。
著作権やプライバシー侵害への批判が強まる一方、同社は画像部分編集が可能な「Inpaint」やGoogle「Veo 3」との動画連携も展開している。
From: Higgsfield’s Latest AI Tool Wants To Help You Steal Any Image On The Internet
【編集部解説】
Stealのポイントは、画像生成AIが従来頼ってきたテキストプロンプトをほぼ不要にし、視覚的リファレンスだけでスタイルや構図を瞬時に再現できる点です。これによりプロンプト設計の習熟度に左右されにくく、誰でも「ワンクリック」で高度なビジュアルを得られる可能性が開けました。
その一方で、著作権者の許諾を得ずにスタイルを複製できる仕組みは、創作者の経済的インセンティブを直接揺さぶります。法制度が現行の「引用」や「フェアユース」を前提としている限り、Stealのようなツールはグレーではなくブラックに近い領域へ踏み出す恐れがあります。
ブラウザ拡張をChrome Web Store経由でなく手動インストールさせる手法にも注意が必要です。拡張機能は閲覧ページを把握できる権限を持つ場合が多く、悪意あるコードが混入すれば個人情報や業務データの流出リスクが高まります。
生成AI規制をめぐる国際議論はまだ途上ですが、Stealの登場は「生成物」だけでなく「生成プロセス」そのものを監視対象とすべきだという声を後押しするでしょう。技術革新は歓迎すべきですが、透明性と責任を担保する枠組みが同時に整備されなければ、創作文化全体の信頼が損なわれかねません。
【用語解説】
STEAL(Style Trace Extraction & Adaptive Layer)
ウェブ画像の視覚特徴を抽出し、Soulで再合成する機能。
Soul
Higgsfield独自のフォトリアル指向画像生成モデル。
Inpaint
画像の特定領域だけをAIで自然に置換・修復する編集機能。
Soul ID
複数の自分の顔写真を学習させ、同一人物として一貫生成を行う個人化機能。
ブラウザ拡張機能
Chromeなどに追加して機能を拡張するプラグイン形式のソフト。
ディープフェイク
AIで人物の顔や声を高精度に合成して別人になりすます技術。
【参考リンク】
Higgsfield AI Official(外部)
画像・動画生成プラットフォーム「Soul」「Steal」を提供する米スタートアップの公式サイト
Google Veo(外部)
Googleが開発する高解像度動画生成モデルVeo 3の公式紹介ページ
【参考動画】
【参考記事】
Higgsfield Steal をリリース Web上の画像を参照できる拡張プラグイン(外部)
国内テックブログによる機能説明と使用時の注意点を解説
【編集部後記】
テクノロジーの進歩が私たちの創作活動を根本から変えようとしています。Higgsfield Stealが示すブラウザ拡張によるワンクリック画像模倣は、確かに革新的なアプローチです。プロンプトエンジニアリングという新たなスキルを習得する必要もなく、見たものをそのまま自分のキャラクターで再現できる——これは創作の民主化を大きく前進させる可能性を秘めています。
しかし、この技術的な躍進の裏には見過ごせない課題が潜んでいます。著作権侵害への懸念は単なる法的リスクに留まらず、創作者の経済基盤を揺るがす問題です。オリジナル作品に込められた時間、努力、創意工夫が、ワンクリックで複製される世界では、創作への対価をどう保証するのでしょうか。
さらに深刻なのは、セキュリティリスクです。Chrome Web Storeを経由しない拡張機能のインストールは、一般的なセキュリティ原則に反します。私たちの閲覧履歴や個人情報が意図しない形で収集される可能性を軽視すべきではありません。
最も考えさせられるのは、「模倣」と「オリジナリティ」の境界線です。アーティストは常に他者の作品からインスピレーションを得てきました。しかし、Stealが可能にする「完全再現」は、従来の「影響を受けた」レベルを超えています。この技術が普及した時、私たちは何をもってオリジナルと呼ぶのでしょうか。
innovaTopia編集部としては、テクノロジーの可能性を評価しつつも、その責任ある利用を考え続けたいと思います。読者の皆さんはこの技術革新をどう受け止めますか?創作活動に携わる方、AIツールを活用される方、それぞれの立場からのご意見をSNSでお聞かせください。技術の進歩と創作文化の共存について、一緒に考えていきましょう。