MicrosoftがVisual Studio 2026のプレビューを発表した。2021年以来の大型バージョンアップデートで、AI統合とデザイン刷新を含む。
Visual Studio 2022はバージョン17.xで2021年11月にリリースされ、新バージョンは18.xとなる。プリンシパル・プロダクト・マネージャーのMads Kristensenが情報を公開した。
主な変更点は新ロゴ、Visual Studio PreviewからVisual Studio Insidersへの名称変更、MicrosoftのFluent Designシステム採用、Mango ParadiseとJuicy Plumを含む新テーマ、AI統合強化である。新機能にはプロファイラーCopilotエージェント、適応的ペースト、URLコンテキスト機能がある。ユーザーはAnthropic、Google、OpenAIから独自のLLMを選択可能となる予定であり、設定はJSONファイルベースとなる。コードカバレッジがVS CommunityとProfessionalでも利用可能になった。
Visual Studio製品ファミリーは5,000万人の開発者が使用しているが、その大部分はVS Codeユーザーである。チームは過去12か月で4,489件の問題と290件の機能要求を修正した。リリース日は未発表だが、11月の.NET 10と同時期の可能性がある。
From: Microsoft previews Visual Studio 2026: Now with deeper AI
【編集部解説】
Visual Studio 2026のリリースは、単なるIDEのアップデートを超えて、開発者の働き方を根本から変える可能性を秘めています。特に注目すべきは、これまでのプレビューチャンネルからInsidersチャンネルへの移行と、AI機能が「後付け」ではなく「織り込まれた」形で実装されている点です。
この違いは重要な意味を持ちます。従来のAIツールは既存のワークフローに対して外部から支援を提供する形でしたが、Visual Studio 2026では開発者の思考プロセスそのものにAIが統合されています。例えば、新しいコードベースに初めて触れた際に、IDEが自動的にコンテキストを理解し、そのプロジェクトで通常書かれるテストの種類を提案する機能は、学習コストの大幅な削減を意味します。
パフォーマンス向上についても、Microsoft公式ブログではユーザーからの「HOLY […] this is FAST」という率直な反応が紹介されており、これは開発者体験の質的変化を示唆しています。大規模なソリューションでの軽快さやx64・Arm64両対応での速度向上は、特にエンタープライズ環境での生産性に直結します。
一方で、記事で指摘されている技術的制約にも注目が必要です。NDepend開発チームが言及している通り、Visual Studio 2026のメインプロセスは依然として従来の.NET Frameworkで動作しており、これは拡張機能開発者にとって.NET 10への完全移行を阻む要因となっています。この技術的負債は、Microsoftが長期的に解決すべき課題と言えるでしょう。
LLM選択機能の導入は、開発者にとって重要な自由度を提供します。Anthropic、Google、OpenAIから選択可能になることで、企業のコンプライアンス要件や予算制約に応じた柔軟な導入が可能になります。これは特に、セキュリティ要件の厳しいエンタープライズ環境での採用促進につながる可能性があります。
月次アップデートの約束は、従来の年次リリースサイクルからの大きな転換を示しています。これにより、AI機能の継続的改善や新技術への迅速な対応が期待できる一方、企業環境での安定性確保との両立が課題となるでしょう。
【用語解説】
Visual Studio Insidersチャンネル
従来のPreviewチャンネルから名称変更された、Microsoftの開発者向け先行リリースプログラム。開発者が正式リリース前の機能を早期に試用し、フィードバックを提供できる仕組みである。
Fluent Design
Microsoftが2017年に発表したデザインシステム。シンプルな美しさ、直感的な操作性、一貫したユーザー体験を目指し、Windows 11やOffice製品に広く採用されている。
LLM(Large Language Model)
大規模言語モデル。膨大なテキストデータで訓練されたAIモデルで、自然な文章生成や対話、プログラムコード生成などの機能を持つ。GPT、Claude、Geminiなどが代表例である。
コードカバレッジ
単体テストがプログラムのソースコードのどの程度をテストしているかを示す指標。テストの品質を定量的に測定し、テストが不十分な箇所を特定するために使用される。
.NET Framework
Microsoftが2002年から提供しているWindows向けのアプリケーション開発・実行環境。2016年以降は後継の.NET Core(現在の.NET)が主流となっているが、従来アプリとの互換性のため依然として使用されている。
コンテキスト理解
AIがユーザーの作業環境、プロジェクトの性質、コーディング習慣などの背景情報を理解し、より適切な支援を提供する技術。Visual Studio 2026では、プロジェクト全体を分析してより精度の高いコード提案を行う。
【参考リンク】
Microsoft Visual Studio(外部)
Microsoftが提供する統合開発環境(IDE)の公式サイト。.NETやC++アプリケーション開発に特化し、デバッグ、テスト、配置機能を統合的に提供している。
Anthropic(外部)
2021年設立のAI安全性研究企業。大規模言語モデル「Claude」を開発し、AI安全性と解釈可能性の研究に注力している。元OpenAI研究者らが創設した。
OpenAI(外部)
2015年設立のAI研究企業。ChatGPTやGPTシリーズの開発で知られ、汎用人工知能(AGI)の実現を目指している。現在はMicrosoftが大きく投資している。
Google AI(外部)
Googleの人工知能研究部門。Gemini、Bardなどの大規模言語モデルや機械学習技術を開発し、検索、翻訳、画像認識など幅広い分野でAI技術を実用化している。
【参考記事】
Visual Studio 2026 Insiders is here!(外部)
MicrosoftがVisual Studio 2026の公式発表を行った記事。AI統合の深化、パフォーマンス向上、Fluent Designによる新UIなど主要な新機能について詳述。
Visual Studio 2026 Insiders is here! – C++ Team Blog(外部)
C++開発チームによる公式発表。C++開発者向けの機能強化、パフォーマンス改善、AI統合について説明し、AIを完全に無効化できる機能への要望にも言及。
Visual Studio 2026 Insiders(外部)
Visual Studio 2026 Insidersの公式プレビューサイト。Fluent Design、.NET 10サポート、C# 14対応、GitHub Copilotとの深い連携などの技術仕様詳細が記載。
【編集部後記】
Visual Studio 2026の発表を見て、開発の現場がどう変わっていくのか、ワクワクと同時に少し戸惑いも感じませんか?AIが統合されたIDEで、実際にあなたの開発スタイルはどんな風に変化すると思いますか?
特に、コードレビューがAIによって事前にチェックされるようになると、チーム開発での責任の在り方や学習プロセスも変わってくるかもしれません。これまでのコーディング体験で「ここがもっと楽になれば」と感じていた部分はありますか?読者の皆さんが期待する機能や、逆に心配に思うことがあれば、ぜひ教えていただけると嬉しいです。