Diella、アルバニアが世界初のAI大臣を任命|公共調達の100%汚職防止を目指す

[更新]2025年9月13日07:27

Diella、アルバニアが世界初のAI大臣を任命|公共調達の100%汚職防止を目指す - innovaTopia - (イノベトピア)

2025年9月11日、アルバニアのエディ・ラマ首相は、世界初のAI生成閣僚として「Diella」(アルバニア語で太陽の意味)を公共調達担当大臣に任命すると発表した。

ティラナで開催された与党社会主義党大会で4期連続となる政府の構成を発表する中で、この任命を明らかにした。

Diellaは2025年1月から国のe-Albanaポータルでデジタルアシスタントとして稼働しており、これまでに36,600件のデジタル文書を発行し、約1,000件のサービスを提供してきた。ラマ首相は「Diellaは物理的に存在しないが、AIによってバーチャルに生成された初の閣僚である」と述べ、公共入札を「100%汚職フリー」にし、「入札プロセスにおけるすべての公共資金を完全に透明」にするとした。

ラマ首相は5月の選挙で再選され、2030年までのEU加盟を目指している。

From: 文献リンクAlbania puts AI-created ‘minister’ in charge of public procurement

【編集部解説】

このニュースは単なる技術的実験ではなく、深刻な汚職問題に直面する政府の根本的な構造改革を意味します。アルバニアでは公共調達分野での汚職が長年にわたり大きな社会問題となっており、2023年には元副首相アルベン・アメタジ氏が汚職罪で起訴されるなど、政府高官レベルでの不正が相次いで発覚していました。

e-Albaniaポータルは既に95%の公共サービスをデジタル化し、2025年までにサービス申請が40%増加するなど顕著な成果を上げています。このプラットフォーム上で稼働するDiellaは、これまでに36,600件のデジタル文書の発行を支援し、約1,000件のサービスを提供してきた実績があります。

今回の任命で注目すべきは、人工知能が単なる支援ツールから意思決定者へと役割が転換した点です。従来の電子政府システムが効率化を目的としていたのに対し、Diellaは汚職という人間固有の問題を解決するために設計されています。アルバニアは「国家AI戦略2025-2030」を策定し、公共調達、エネルギー、税収管理など複数分野でのAI導入を本格化させています。

しかし、この革新的な試みには重大なリスクも存在します。英国政府の2025年AI安全性報告書によれば、政治システムへのAI導入は民主的な参加や政府機関への信頼を損なう可能性が指摘されています。特に、AIシステムの「幻覚」現象や不透明なアルゴリズムプロセスが重要な意思決定に影響を与える危険性があります。

また、技術的な観点では、AIシステムの監督体制が不明確である点も懸念材料です。ロイター通信の報道では、Diellaの運用を誰が監督するかについて政府が明確な回答を避けていることが伝えられています。

この取り組みが成功すれば、他の発展途上国にとって汚職撲滅の新たなモデルケースとなる可能性があります。一方で失敗した場合、AIガバナンスに対する国際的な不信を招く結果にもなりかねません。アルバニアの実験は、テクノロジーが政治制度をどこまで変革できるかを試す重要な試金石となるでしょう。

【用語解説】

e-Albaniaポータル
アルバニア政府が運営する統合デジタル政府サービスプラットフォームで、市民が政府サービスの約95%にオンラインでアクセスできる電子政府システムである。

公共調達(Public Procurement)
政府や公的機関が民間企業から商品やサービスを購入する際の入札・契約プロセスのことで、透明性と公正性が求められる分野である。

アルバニア社会主義党
エディ・ラマが党首を務める中道左派政党で、2013年から政権を担当している。ラマは同党を率いて4期連続で政権を維持している。

SPAK(反汚職・組織犯罪特別検察庁)
016年の司法制度改革により設立されたアルバニアの反汚職専門機関で、高レベルの汚職事件を扱う特別検察庁である。

Transparency International汚職認識指数
国際NGOが発行する世界各国の汚職レベルを測定する指数で、アルバニアは欧州で最も汚職が深刻な国の一つとして位置づけられている。

【参考リンク】

e-Albaniaポータル(外部)
アルバニア政府の統合電子政府サービスプラットフォーム。市民が各種行政手続きをオンラインで完結できるシステムで、今回AI大臣Diellaが稼働している基盤

アルバニア首相府(外部)
エディ・ラマ首相が率いるアルバニア政府の公式サイト。政府の政策や閣僚情報、各種サービスへのアクセスポイントを提供

Transparency International Albania(外部)
国際反汚職NGOのアルバニア関連ページ。同国の汚職状況や汚職認識指数の詳細データ、改革の進捗状況を確認

【参考記事】

Transforming institutions for inclusive services and human development in Albania(外部)
世界銀行による公式評価報告。e-Albaniaポータルの利用率が2025年までに40%増加し、デジタル化により公共サービスの包括性と人間開発が向上したと具体的成果を報告

International AI Safety Report 2025(外部)
英国政府発行、世界100名のAI専門家による包括的安全性報告書。政治システムへのAI導入が民主参加や政府機関への信頼に与える潜在的リスクについて科学的分析を提供

Albania – Transparency International(外部)
国際反汚職NGO公式データ。2016年以降アルバニアの汚職認識指数が5ポイント低下し、公共調達分野での腐敗が継続的課題であることを統計的に示している

【編集部後記】

AIが政府の意思決定に深く関与する時代がいよいよ現実のものとなりました。アルバニアのDiella任命は、私たちにとって決して遠い国の出来事ではありません。日本でも行政のデジタル化が進む中、AIが公共サービスや政策判断にどこまで関わるべきか、という問いは避けて通れないものになっています。

皆さんはAIが重要な社会的決定を下すことについて、どのようにお感じになりますか?また、もし日本の自治体がAIによる入札管理を導入したら、どのような期待や不安を抱かれるでしょうか?

投稿者アバター
omote
デザイン、ライティング、Web制作を行っています。AI分野と、ワクワクするような進化を遂げるロボティクス分野について関心を持っています。AIについては私自身子を持つ親として、技術や芸術、または精神面におけるAIと人との共存について、読者の皆さんと共に学び、考えていけたらと思っています。

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