AnthropicがClaude Codeウェブ版発表|開発者の働き方は変わるか

 - innovaTopia - (イノベトピア)

Anthropicは10月21日、AIコーディングアシスタント「Claude Code」のウェブアプリ版を公開した。

月額20ドルのProプラン、および月額100ドルと200ドルのMaxプランの加入者が、claude.aiの「Code」タブからアクセスできる。これまでClaude Codeはコマンドラインインターフェースツールとして提供されていたが、ウェブ版の追加により開発者はブラウザから複数のAIコーディングエージェントを作成・管理できるようになる。Claude Codeは5月の正式リリース以降、ユーザー数が10倍に成長し、年間ベースで5億ドル以上の収益を生み出している。AnthropicのプロダクトマネージャーCat Wuは、今後もウェブやモバイルなど様々な場所にClaude Codeを展開していくと述べた。同社はClaude Code製品自体の90%がAIモデルによって書かれていると主張している。

From: 文献リンクAnthropic brings Claude Code to the web | TechCrunch

【編集部解説】

Claude Codeは5月の正式リリース以降、わずか数ヶ月でユーザー数が10倍に成長し、年間5億ドル以上の収益を生み出すまでに成長しました。この急成長の背景には、開発者の間でClaudeのAIモデルが高く評価されていることがあります。特にソフトウェア開発タスクにおいて、Claudeは複数ファイルにまたがる編集や、不要なコードの削除判断といった高度な処理で優れた性能を発揮します。

今回のウェブ版リリースにより、開発者はターミナルを開くことなく、ブラウザから複数のコーディングタスクを並行して実行できるようになりました。各タスクは独立したサンドボックス環境で実行され、リアルタイムでの進捗追跡も可能です。さらにiOSアプリでも利用可能となり、モバイル環境での開発作業も視野に入れた展開となっています。

興味深いのは、Anthropic自身がClaude Codeの90%をAIで書いていると公言している点です。同社のプロダクトマネージャーであるCat Wuは、もはやキーボードでコードを書くことはほとんどなく、主にAIの出力をレビューしているだけだと語っています。これは「AIがコードを書き、人間がマネージャーになる」という未来像を体現しています。

ただし、AIがコードを書くことによる懸念点も浮上しています。2025年7月に発表されたMETRの研究では、経験豊富な開発者が大規模なオープンソースプロジェクトでCursorなどのAIコーディングツールを使用した際、タスク完了時間が実際には19%遅くなったという結果が報告されました。開発者自身は20%速くなったと感じていたにもかかわらず、です。

この「認識と現実のギャップ」は重要な示唆を含んでいます。AIツールへのプロンプト入力や応答待ちに時間を費やしたり、大規模で複雑なコードベースでAIが生成した誤ったコードを修正したりすることで、かえって生産性が低下する可能性があるのです。さらに別の研究では、AIの支援で作成されたコードは6ヶ月後に修正する際、通常の3.4倍の時間がかかるという「技術的負債」の問題も指摘されています。

しかし、こうした懸念があるにもかかわらず、企業のAIコーディングツール採用は加速しています。Anthropic CEOのダリオ・アモデイは、近い将来AIがソフトウェアエンジニアのコードの90%を書くようになると予測しています。

この市場では、Microsoft GitHub Copilot、Cursor、Google、OpenAIなど強力な競合がひしめいています。それでもClaude Codeが支持される理由は、単なるコード補完を超えた「エージェント型」の自律的な動作にあります。プロジェクト全体を理解し、複数ファイルにわたる整合的な変更を自動実行できる能力が、開発者の働き方を根本的に変えようとしています。

ウェブ版の登場により、Claude Codeはより多くの開発者に届く可能性が広がりました。しかし同時に、AIがコードを書く時代における人間の役割とは何か、という根本的な問いも突きつけられています。速度と品質、自動化と理解、効率と持続可能性——これらのバランスをどう取るかが、今後のソフトウェア開発の鍵となるでしょう。

【用語解説】

コマンドラインインターフェース(CLI)
ユーザーがキーボードからテキストコマンドを入力してコンピュータを操作する方式。開発者が頻繁に使用するターミナルやコマンドプロンプトがこれに該当する。グラフィカルなボタンやアイコンではなく、文字列での指示が特徴。

エージェント型AI
ユーザーの指示を受けて自律的にタスクを実行するAIシステム。従来のオートコンプリート型とは異なり、複数のステップを理解し、自ら判断しながら作業を進める能力を持つ。人間の監視を最小限に抑えて動作できる点が特徴。

サンドボックス環境
外部システムに影響を与えないよう隔離された実行環境。セキュリティ上の理由から、テストやAIエージェントの動作を安全に実行するために使用される。万が一問題が発生しても、被害を封じ込められる。

プロンプト
AIに対して入力する指示や質問のこと。AIコーディングツールでは、このプロンプトの質が出力されるコードの品質に大きく影響する。

コードベース
プロジェクト全体を構成するソースコードの集合体。大規模なコードベースは数百万行に及ぶこともあり、全体の構造や依存関係を理解するには高度な知識が必要となる。

技術的負債
短期的な解決策や妥協により蓄積される、将来的なメンテナンスコストの増加。急いで書かれたコードや不適切な設計は、後の修正や拡張を困難にする。

年間ベース(annualized basis)
現在の月次や四半期のデータを12ヶ月分に換算した推定値。Claude Codeの5億ドル以上という収益は、現在のペースが1年間続いた場合の推定額を指す。

【参考リンク】

  1. Anthropic 公式サイト(外部)
    AnthropicはClaudeを開発するAI安全性研究企業。元OpenAI幹部が創業し、制御可能なAI構築を目指す。
  2. Claude Code 公式ページ(外部)
    Claude Code for webの発表ページ。サンドボックス環境やセキュリティアプローチの技術詳細を掲載。
  3. claude.ai(外部)
    Anthropicの対話型AIアシスタントClaudeの公式サイト。有料プラン加入者はCodeタブにアクセス可能。
  4. Cursor(外部)
    AI統合型コードエディタ。Claude 3.5/3.7 Sonnetなど最先端AIモデルを活用したコーディング支援を提供。
  5. GitHub Copilot(外部)
    Microsoft傘下のGitHubが提供するAIペアプログラマー。長らくAIコーディングツール市場を牽引してきた。
  6. METR 公式サイト(外部)
    AIシステムの評価と潜在的リスク研究を行う非営利団体。2025年にAIコーディングツールの生産性研究を発表。

【参考記事】

  1. Measuring the Impact of Early-2025 AI on Experienced Open-Source Developer Productivity – METR(外部)
    16名の経験豊富な開発者を対象にした無作為化比較試験により、AIコーディングツール使用時にタスク完了時間が19%増加したことを報告。開発者自身は20%速くなったと推定していたが実際には逆の結果に。
  2. AI coding tools may not speed up every developer, study shows | TechCrunch(外部)
    METRの研究結果を詳しく報じた記事。246のタスクを通じて、AIツールが必ずしも全ての開発者の生産性を向上させるわけではないことを明らかにした。
  3. Claude Code revenue jumps 5.5x as Anthropic launches analytics dashboard | VentureBeat(外部)
    Claude 4モデル導入以来、Claude Codeのアクティブユーザーベースが300%成長し、売上が5.5倍に増加したことを報告。企業向け分析ダッシュボードの導入により支出追跡が可能に。
  4. Claude Code reaches 115,000 developers, processes 195 million lines weekly(外部)
    2025年7月時点でClaude Codeが115,000人の開発者を獲得し、1週間で1億9,500万行のコードを処理していることを報告。年間推定収益は約1億3,000万ドル。
  5. The Reality of AI Developer Productivity in 2025: What the Data Actually Shows(外部)
    847のエンジニアリングチームを分析した結果、AIの支援率が60%を超えるコードは6ヶ月後の修正に3.4倍の時間がかかることを発見。生産性のパラドックスを指摘。
  6. AI in Software Development: Productivity at the Cost of Code Quality? – DevOps.com(外部)
    GitClearによる1億5,300万行のコード変更分析により、AI生成コードの品質に関する懸念を提起。2週間以内に破棄されるコードが2024年に倍増すると予測。

【編集部後記】

AIがコードを書く時代が本格的に到来しつつあります。しかし、生産性が向上しているという実感と、実際のデータが示す現実との間には大きなギャップがあるようです。みなさんの職場では、AIツールの導入によって本当に仕事が速くなったと感じていますか?それとも、AIとのやり取りに予想以上の時間を取られていないでしょうか?Claude Codeのようなツールは確かに魅力的ですが、私たち人間の役割がどう変化していくのか、考えていく必要があると思います。

投稿者アバター
まお
おしゃべり好きなライターです。趣味は知識をためることとゲームをすること(ソシャゲや音楽ゲームが大好きです)。最近はAIの情勢や地政学の問題を勉強中。時折記者として会見や発表に赴いたり、インタビューを行ったりもしています。

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