Shield AIは2025年10月22日、米ワシントンでAIが操縦するVTOL戦闘機「X-BAT」を発表した。X-BATは遠征や海上の紛争環境で運用される戦闘機であり、通信不可や限定的な環境でもShield AIの自律運用ソフトウェア「Hivemind」により運用できる。
2,000ノーチカルマイル超の航続距離を持ち、攻撃・航空優勢・電子戦・情報収集・偵察など複数任務に対応する。最大3機が旧式戦闘機やヘリコプター1機分のスペースに搭載でき、F-16クラスのジェットエンジンを採用している。
第5世代ジェットより低コストで運用可能。設計上、自律性と適応戦術、ステルス機能による生存性を備えている。企業は2015年設立のShield AIであり、技術は米国・欧州・中東・アジア太平洋で展開されている。
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Shield AI Unveils X-BAT, an AI-Piloted VTOL Fighter Jet for Contested Environments
【編集部解説】
X-BATが示すのは、軍用機開発のパラダイムシフトです。従来のジェット戦闘機は滑走路に依存してきましたが、その前提そのものが戦場での脆弱性となる時代が来ています。
中国を含む潜在的な対立国は、紛争初期段階で空軍基地や滑走路を標的とする「アンチアクセス戦略」を進めてきました。これは日本の周辺環境でも無視できない脅威です。X-BATは、このジレンマを根本から解決しようとしています。滑走路が不要なら、船舶や離島、簡易基地から運用できるため、攻撃されるリスクが分散され、戦力の持続性が高まります。
注目すべきは、X-BATの「自律性」の質です。単なる遠隔操作ドローンではなく、GPS信号や通信が途絶した状態でも、Hivemindと呼ばれるAIシステムが状況を判断し、有人機と協調して任務を遂行できる点にあります。同様のAI操縦技術は米空軍の実験機X-62A VISTAでも検証されており、自律飛行するF-16が空中戦を行えることが証明されています。
コスト面での革新性も見逃せません。第5世代戦闘機と比較して、調達・運用コストが桁違いに低く、「消耗可能」という概念が導入されています。これは、失われても経済的に許容できる機体であることを意味し、危険な任務への投入を可能にします。
開発スケジュールは具体的で、2026年秋に初のVTOL(垂直離着陸)飛行、2028年に配備が予定されています。わずか18ヶ月の開発期間という短さも、従来の軍用機開発とは一線を画します。機体サイズはコンパクトで、翼幅39フィート(約12m)、全長26フィート(約8m)と、旧式戦闘機1機分のスペースに3機を収容できる設計です。
一方で、自律兵器の倫理的課題や、AI判断の透明性、誤作動時の責任所在といった問題は残ります。また、敵対勢力が同様の技術を獲得した際のエスカレーションリスクも考慮すべきでしょう。とはいえ、空軍力の概念そのものを再定義する試みとして、X-BATは2025年代の防衛技術を象徴するプロジェクトとなるはずです。
【用語解説】
VTOL(垂直離着陸)
Vertical Takeoff and Landingの略称で、滑走路を使わずに垂直に離着陸できる航空機の総称である。ヘリコプターが代表例だが、ハリアー戦闘機やF-35Bのようなジェット推進による固定翼機も含まれる。
Hivemind(ハイブマインド)
Shield AIが開発したAI自律飛行ソフトウェアで、GPS信号や通信が途絶した環境でも航空機を操縦できる。複数の機体が協調して動的に戦術を実行することも可能である。
CCA(Collaborative Combat Aircraft)
有人戦闘機と協調して任務を遂行する無人機のこと。デジタル僚機として有人機とチームを組み、危険な任務を分担する役割を担う。
アンチアクセス戦略
敵対勢力が特定地域への接近や作戦を妨害する軍事戦略である。滑走路や基地への攻撃により航空優勢を無力化することが主な手段となる。
X-62A VISTA
米空軍の実験用F-16改造機で、Hivemindによる自律飛行と空中戦の実証に成功している。AI操縦技術の実用性を証明した重要なプラットフォームである。
【参考リンク】
Shield AI公式サイト(外部)
AI自律システムによる軍用機やソフトウェアを開発。V-BAT、X-BAT、Hivemind製品群を提供している
X-BAT製品ページ(外部)
Shield AIが開発したVTOL戦闘機X-BATの詳細情報を掲載。機体の仕様や能力、開発背景を紹介
Hivemind Solutions(外部)
Shield AIのAI自律飛行ソフトウェアHivemindに関する公式ページ。技術詳細を掲載
【参考動画】
Shield AI公式YouTubeチャンネルによるX-BATの発表動画。機体の外観や特徴が映像で紹介されている。
Shield AI公式チャンネルがX-BATに関する視聴者からの質問に答えている動画。技術的な詳細や運用コンセプトが解説されている。
【参考記事】
【編集部後記】
X-BATのニュースに触れ、スマートフォンが電話の概念を変えたように、技術が前提を覆す面白さを感じる一方で、心のどこかで冷たいものを感じたのは私だけでしょうか。
人の手を離れたAIが、自らの判断で人の命を奪う。その最初の引き金が、この無人戦闘機によって引かれるのかもしれない。そう想像すると、テクノロジーの進化を無邪気に礼賛することに躊躇を覚えます。国防は理想論だけでは語れない厳しい現実です。しかし、その現実と向き合うために、私たちは倫理や人間性の何を差し出す覚悟があるのか。便利さや効率の先に待ち受けるかもしれない未来に、今はただ静かに向き合いたいと思います。























