日本初のエージェントAIサービス「シークレットアイ」―企業内で完結するセキュアなAI業務自動化

[更新]2025年11月13日

 - innovaTopia - (イノベトピア)

株式会社アイワンソリューションは、企業のローカル環境内で安全に動作するAI自動処理サービス「シークレットアイ」を2025年12月3日より正式提供開始する。

本サービスは東京証券取引所スタンダード市場上場の昭和化学工業株式会社と2024年より共同で研究開発を進めてきた。

シークレットアイは企業の内部ネットワーク上で動作する専用サーバーと、業務を理解し自律的に実行できるエージェントAIを組み合わせた業務自動化プラットフォームである。

外部通信を行わない構成により、個人情報や取引データなどの機密情報を社内で安全に処理できる。主な特徴として、外部クラウドに一切通信せず企業内ネットワーク上でのみ稼働する点、業務内容や社内文化を理解するAIを企業ごとに育成できる点、エージェントAIの素となる情報を自社情報資産として保有でき他社サービスへの移行も容易な点がある。

同社調べでは2025年11月1日現在、日本国内で同様のサービスをパッケージ化して提供している企業は確認されておらず、日本初のサービス提供事業者であるとしている。

From: 文献リンクセキュリティが万全な自律型AI「シークレットアイ」を2025年12月3日より提供開始

【編集部解説】

【なぜオンプレミス型AIが求められるのか】

企業のAI活用が加速する中、セキュリティ懸念から導入を躊躇する企業が少なくありません。実際、90%の組織がAIシステムを導入している一方で、セキュリティ体制に自信を持つのはわずか5%に過ぎないという調査結果もあります。さらにGartnerは、2025年までに企業AI案件の75%が不適切に保護されたAIエージェントにより重大なセキュリティ侵害に直面すると予測しています。

クラウド型AIサービスでは機密情報が外部サーバーに送信されるため、個人情報保護法や業界規制への対応が困難なケースがあります。シークレットアイは、こうした課題に対する一つの解決策として登場しました。

【完全クローズド環境でのAI運用】

最大の特徴は、完全なオンプレミス環境で動作する点です。企業内のサーバーに専用のAIシステムを構築し、外部インターネットと一切通信しない設計になっています。これにより、顧客データや取引情報などの機密データを社外に出すことなく、AI技術を活用できます。金融機関や医療機関など、厳格なデータ管理が求められる業界での導入が想定されます。

共同開発パートナーの昭和化学工業は、ろ過助剤や建材などを製造する東証スタンダード市場上場企業です。製造業における実際の業務プロセスを踏まえた開発が行われたと考えられます。

【従来型AIとの違い―エージェントAIとは】

もう一つの重要な特徴が「エージェントAI」の概念です。従来のチャットボット型AIは、ユーザーからの質問に答えるだけでしたが、エージェントAIは業務を自律的に実行する能力を持ちます。社内のファイルサーバーやデータベースにアクセスし、権限に応じた情報提供や業務処理を行うことができます。

プレスリリースでは、パスワード管理、残業代計算、物品購入、企画書作成など、具体的な使用例が示されています。これらは単なるアシスト機能ではなく、実際に業務を代行する「AIスタッフ」としての活用を想定したものです。人事担当者や事務担当者の役割をAIが担うという発想は、人手不足に悩む企業にとって魅力的に映るでしょう。

【ベンダーロックインを避ける設計】

ベンダーロックインを避ける設計も注目すべき点です。サービス利用を通じて蓄積されるエージェントAIの「メモリ」(業務手順や判断基準などの情報)は、企業の資産として保持され、他社のエージェントAIサービスへの移行も可能としています。AI技術の急速な進化を考えれば、特定のサービスに依存しない柔軟性は重要な要素です。

【導入における課題とリスク】

ただし、いくつかの懸念点も存在します。まず、オンプレミス型システムは初期投資やメンテナンスコストが高額になる傾向があります。中小企業にとって導入ハードルが高い可能性があります。また、エージェントAIが自律的に業務を実行する場合、誤った判断や予期しない動作によるリスクも考慮する必要があります。

プレスリリースでは「日本初のエージェントAIサービス」とうたっていますが、これは「パッケージ化された形での提供」という条件付きです。グローバルには、MicrosoftやGoogleなどの大手テック企業もエージェントAI技術の開発を進めており、競争環境は激化しています。

【急成長するAIエージェント市場】

AIエージェント市場は2025~2030年にかけて年平均45.8%という高い成長率が予測されており、2025年にかけて企業のAI戦略の中核となることが見込まれています。シークレットアイのようなオンプレミス型ソリューションは、セキュリティとプライバシーを重視する日本企業の需要に応える選択肢の一つとなるでしょう。

今後の展開として、実際の導入事例や成果指標の公開が期待されます。AIエージェントの学習・育成にどれだけの期間が必要か、どの程度の精度で業務を遂行できるかといった実績データが、市場での評価を左右することになります。

【用語解説】

オンプレミス型AI
企業が自社内のサーバーやデータセンターにAIシステムを構築・運用する形態。クラウド型とは異なり、データやシステムを完全に自社管理下に置くことができるため、セキュリティやコンプライアンス面で優位性がある。一方で、初期投資やメンテナンスコストが高額になる傾向がある。

エージェントAI(AI Agent)
単なる質問応答にとどまらず、目標に向けて自律的に計画を立て、複数のツールやシステムを使って業務を実行できるAI。人間の指示を受けて、情報検索、データ分析、書類作成、システム操作などを自動で行う。2025年には企業AI戦略の中核技術として注目されている。

AGI(Artificial General Intelligence)
人工汎用知能。特定のタスクに特化した現在のAIとは異なり、人間と同等かそれ以上の知的能力を持ち、あらゆる領域で学習・推論・問題解決が可能なAI。実現時期については専門家の間でも意見が分かれている。

OSS型AIサービス
オープンソースソフトウェア(OSS)を基盤としたAIサービス。ソースコードが公開されているため、企業が独自にカスタマイズや拡張を行うことができる。ベンダーロックインを避けられる利点がある。

【参考リンク】

株式会社アイワンソリューション(外部)
横浜市に本社を置くIT企業。AI導入支援やシステム開発を手がける。

シークレットアイ 公式サイト(外部)
オンプレミス型エージェントAIサービス「シークレットアイ」の製品情報ページ。

昭和化学工業株式会社(外部)
東証スタンダード市場上場(証券コード:4990)。ろ過助剤や建材を製造。

【参考記事】

AI Data Security Trends and Enterprise Protection Insights 2025(外部)
90%の組織がAIを導入するも5%しかセキュリティに自信がない現状を報告

2025 Enterprise AI Agent Security Checklist Guide(外部)
Gartnerが2025年までに75%のAI案件でセキュリティ侵害を予測

Top AI Agent Platforms for Industrial Enterprise 2025(外部)
AIエージェント市場が2034年まで年率45.8%で成長する見通しを報告

Safeguarding the Enterprise AI Evolution Best Practices(外部)
エージェントAIのセキュリティとゼロトラスト原則の重要性を解説

Cybersecurity in 2025: Agentic AI to change enterprise security(外部)
シャドーAIのリスクと包括的なガバナンス体制の必要性を指摘

Best AI Automation Agents: 7 Trusted Enterprise Platforms(外部)
米国企業のAI支出が2024年に138億ドルへ6倍増したことを報告

【編集部後記】

AIの進化は加速し続けていますが、セキュリティとプライバシーの懸念から導入を躊躇している企業も多いのではないでしょうか。シークレットアイのようなオンプレミス型エージェントAIは、その懸念に一つの答えを示しています。

一方で、初期コストや運用体制、AIの判断精度など、検討すべき要素も少なくありません。みなさんの企業や業界では、AIエージェントの導入はどのような形で進んでいるでしょうか。

セキュリティを重視したオンプレミス型と、柔軟性の高いクラウド型、どちらがより適していると感じますか。AIと人間が協働する未来の働き方について、ぜひ一緒に考えていきたいと思います。

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Satsuki
テクノロジーと民主主義、自由、人権の交差点で記事を執筆しています。 データドリブンな分析が信条。具体的な数字と事実で、技術の影響を可視化します。 しかし、データだけでは語りません。技術開発者の倫理的ジレンマ、被害者の痛み、政策決定者の責任——それぞれの立場への想像力を持ちながら、常に「人間の尊厳」を軸に据えて執筆しています。 日々勉強中です。謙虚に学び続けながら、皆さんと一緒に、テクノロジーと人間の共進化の道を探っていきたいと思います。

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