株式会社エウレカが運営する恋活・婚活マッチングアプリ「Pairs(ペアーズ)」は、2024年10月から導入した新推薦AIにより、マッチ率が旧AI(2024年9月時点)と新AI(2025年9月時点)の比較で男性は約2.4倍、女性は約1.5倍に向上したと発表した。
アプリトップに表示される「本日のおすすめ」機能において、AIが推薦する相手に「いいね」を送ってマッチする確率が上昇した。従来の「協調フィルタリング」ベースから「Deep Learning」ベースへ技術を全面的に切り替え、2024年11月に全ユーザーへ展開した。
ペアーズの累計登録数は2025年5月時点で2500万を突破し、退会時アンケートで「恋人ができた」と回答した人は延べ90万人以上(2014年11月〜2025年9月)である。MMD研究所の調査(2025年9月)では利用率No.1、交際率No.1を獲得した。
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ペアーズのAIおすすめ機能が新テクノロジーで進化、マッチ率が男性は約2.4倍、女性は約1.5倍向上
【編集部解説】
マッチングアプリ業界におけるAI技術の進化は、単なる性能向上ではなく、推薦システムの根本的なパラダイムシフトを意味します。今回ペアーズが発表した成果は、この変革を数値で明確に示した貴重な事例です。
協調フィルタリングは、ユーザーの行動パターンから類似性を見つけ出し推薦を行う古典的な手法で、NetflixやAmazonなど多くのプラットフォームで長年使われてきました。データ構造がシンプルで処理速度が速い一方、ユーザー間の複雑な関係性や非線形なパターンを捉えることが困難でした。
一方、Deep Learningベースのシステムは、ニューラルネットワークを使って大量のデータから特徴を自動的に抽出し、人間が明示的に設計しなかった複雑なパターンまで学習できます。特にマッチングアプリのような「双方向の好み」を一致させる必要がある場合、この能力が決定的に重要になります。
マッチングアプリのAIが直面する最大の技術的課題は「相互推薦(reciprocal recommendation)」です。NetflixやAmazonのような一般的な推薦システムは「あなたが好きそうな商品」を提示するだけで済みますが、マッチングアプリでは「あなたが好む相手」かつ「相手もあなたを好む」という双方向の条件を同時に満たさなければなりません。
この課題は学術的にも「two-sided matching problem」として広く研究されており、公平性の確保や計算効率の問題など、多くの技術的ハードルが存在します。ペアーズのAIチームは、ユーザーの「いいね」や「マッチ」といった行動データから、双方の好意が向き合う確率を精緻に推定するアルゴリズムを継続的にチューニングしてきました。
ペアーズの累計登録数2500万という規模では、ユーザー同士の組み合わせが爆発的に増加します。この膨大な候補の中から最適なマッチングを見つけ出すには、Deep Learningの強力な学習能力が不可欠でした。実際、導入後1年間にわたって高いマッチ率を維持し続けている事実は、この技術選択の正しさを証明しています。
社会的な文脈も見逃せません。こども家庭庁が2024年11月に公開した調査によれば、直近5年以内に結婚した人の25.1%がマッチングアプリを出会いのきっかけとしており、これは「職場や仕事関係」(20.5%)を上回る最多の出会い手段となっています。マッチングアプリは既に社会インフラの一部となっており、その推薦精度の向上は、多くの人々の人生に直接的な影響を与えます。
今回の技術刷新により、「効率的に最適な相手候補を推薦する」というペアーズのビジョンが一歩前進しました。忙しい現代人が限られた時間の中で理想の相手と出会える確率が高まることは、個人の幸福追求だけでなく、少子化という社会課題への一つの解決策としても意義深いものです。
AI技術の進化は、人間の最も個人的な領域である恋愛や結婚においても、確実にポジティブな変化をもたらしつつあります。
【用語解説】
Deep Learning(ディープラーニング)
ニューラルネットワークを用いた機械学習手法の一種。多層のネットワーク構造により、データから自動的に特徴を抽出し、複雑で非線形な関係性を学習できる。画像認識、音声認識、推薦システムなど幅広い分野で活用されている。
協調フィルタリング
推薦システムにおける古典的な手法の一つ。ユーザーの過去の行動や評価から類似性を見つけ出し、似た嗜好を持つユーザーが好んだアイテムを推薦する。構造がシンプルで高速処理が可能だが、複雑な相互作用の表現には限界がある。
相互推薦(reciprocal recommendation)
マッチングアプリや求人サイトなど、双方向のマッチングが必要なプラットフォームにおける推薦手法。一方的な推薦ではなく、双方の好みが一致する確率を考慮して推薦を行う。two-sided matching problemとも呼ばれる。
TRUSTe
インターネットにおける個人情報の適切な取り扱いを評価する第三者認証制度。プライバシー保護の基準を満たしていることを証明するマーク。
MMD研究所
モバイル専門のマーケティングリサーチ機関。スマートフォンやアプリの利用実態に関する調査を実施し、業界データを提供している。
【参考リンク】
Pairs(ペアーズ)公式サイト(外部)
累計登録数2500万を超える日本最大級の恋活・婚活マッチングアプリ。AI推薦機能により最適な相手候補を提案する。
株式会社エウレカ(外部)
Pairsを運営する企業。2012年のサービス開始以来、AIを活用した高精度マッチングの実現に取り組んでいる。
こども家庭庁(外部)
日本の行政機関。若い世代のライフデザインや結婚・出会いに関する調査を実施し、少子化対策を推進している。
MMD研究所(外部)
モバイル専門のマーケティングリサーチ機関。マッチングアプリの利用実態調査などを定期的に実施している。
【参考記事】
Collaborative Filtering: Your Guide to Smarter Recommendations(外部)
協調フィルタリングの基本概念とDeep Learningによる進化を解説している記事
Reciprocal Recommendation System for Online Dating(外部)
マッチングアプリにおける相互推薦システムの学術論文と実証研究
Deep learning-based collaborative filtering recommender systems(外部)
Deep Learningベースの協調フィルタリング推薦システムの包括的レビュー
4人に1人がアプリで結婚 こども庁調査、安全利用訴える(外部)
こども家庭庁の調査結果を報じる日本経済新聞の記事
Fair Reciprocal Recommendation in Matching Markets(外部)
マッチング市場における公平な相互推薦に関する最新研究論文
Ethical Considerations of AI for Online Dating(外部)
ペアーズAIチームによるマッチングアプリのAI倫理に関する考察
【編集部後記】
AI技術が恋愛や結婚という極めて人間的な領域に入り込むことに、違和感を覚える方もいらっしゃるかもしれません。しかし、実際には4人に1人がマッチングアプリで出会い結婚している時代です。技術は出会いの「きっかけ」を提供するだけで、その先の関係を築くのは私たち自身の力です。AIが進化することで、忙しい日常の中でも理想の相手と出会える可能性が広がっているのだとすれば、これは技術が人間の幸福に貢献できる好例なのではないでしょうか。みなさんは、AIと人間が協働する未来の出会いについて、どのようにお考えになりますか。
























