Western Union、ステーブルコイン活用の国際送金試験を開始

[更新]2025年10月29日11:00

Western Union、ステーブルコイン活用の国際送金試験を開始 - innovaTopia - (イノベトピア)

Western Unionは2025年第3四半期の決算説明会で、ステーブルコインを活用した送金のパイロットプログラムを開始したと発表した。CEOのDevin McGranahanは、レガシーなコルレス銀行システムへの依存を減らし、決済時間の短縮と資本効率の向上を目指すと述べた。

現在のステーブルコイン市場は3,120億ドルを超える規模となっており、記事執筆時点でTetherがUSDTを1,830億ドル以上、CircleがUSDCを762億ドル以上を発行している。2025年7月のGENIUS Act制定後、多くの企業がステーブルコインを統合している。PayPalはPaxosとのパートナーシップで27億ドル以上(記事執筆時点)のPYUSDステーブルコインを発行した。

連邦準備制度理事会のWaller総裁は、ステーブルコイン発行企業を含むフィンテック企業向けに決済専用の「skinny」マスターアカウント創設を提案している。

From: 文献リンクWestern Union Initiates Stablecoin Transfers as Fed Targets Payment-Only Breakthrough

【編集部解説】

この発表は、従来型送金業界の巨人が本格的にブロックチェーン技術へ舵を切った象徴的な動きと言えます。Western Unionは1851年創業の老舗企業ですが、170年以上にわたって築いてきたレガシーシステムからの脱却を図ろうとしています。

注目すべきは、同社がこれまでクリプト資産の変動性を理由に慎重な姿勢を取っていた点です。しかし2025年7月のGENIUS Act施行により、規制の明確化が進んだことで方針を転換しました。この法律は、ステーブルコイン発行企業に対して100%の準備金保有を義務付け、消費者保護と米ドルの優位性確保を両立させる枠組みを提供しています。

Western Unionが直面している課題は深刻です。四半期で約7,000万件の送金を処理する同社にとって、TetherやCircleといったステーブルコイン発行企業が急速にシェアを奪っています。特にTetherのUSDTは1,830億ドル規模に達し、実質的に巨大な送金インフラとして機能し始めています。

技術的な観点では、ブロックチェーンを活用することで透明性が劇的に向上します。従来の送金では資金の流れが不透明でしたが、パブリックチェーン上では全ての取引が追跡可能になります。ただし、Ethereumのガス代変動という課題も存在し、ネットワーク混雑時には手数料が50ドルを超えることもあります。

連邦準備制度理事会のWaller総裁が提案する「skinny master accounts」は、さらに大きなインパクトを持つ可能性があります。これが実現すれば、ステーブルコイン発行企業は銀行を介さずにFedの決済システムへ直接アクセスできるようになります。残高上限や利息なし、日中当座貸越なしといった制約はありますが、Fedwireを通じた即時決済が可能になることで、米ドル建てステーブルコインの信頼性と流動性が大幅に向上するでしょう。

この動きは競合他社にも波及しています。MoneyGramはすでにコロンビアでUSDCを活用したアプリを展開しており、送金業界全体がステーブルコインへシフトする転換点を迎えています。

【用語解説】

ステーブルコイン
法定通貨(主に米ドル)に価値が連動するよう設計された暗号資産。価格変動が大きい一般的な暗号資産とは異なり、1トークン=1ドルの価値を維持することを目指している。国際送金や決済手段として利用される。

コルレス銀行システム
国際送金における中継銀行システム。送金元と送金先の銀行が直接取引関係にない場合、複数の中継銀行を経由して送金が行われる。手数料が高く、決済に数日かかることが課題とされてきた。

GENIUS Act
2025年7月に施行された米国のステーブルコイン規制法。正式名称はGuiding and Establishing National Innovation for US Stablecoins Act。ステーブルコイン発行企業に対して100%の準備金保有義務を課し、消費者保護と規制の明確化を図る。

Fedwire
連邦準備制度が運営する即時グロス決済システム。米国内の銀行間で大口資金を即座に決済するためのインフラ。従来は銀行のみがアクセス可能だったが、ステーブルコイン発行企業への開放が議論されている。

ガス代
ブロックチェーンネットワーク上で取引を実行する際に必要な手数料。ネットワークの混雑状況により変動し、Ethereumではピーク時に50ドル以上になることもある。

レイヤー2
ブロックチェーンのメインネット(レイヤー1)の上に構築される拡張ソリューション。取引処理をメインネットの外で行うことで、処理速度の向上とコスト削減を実現する。Baseなどが代表例。

【参考リンク】

Western Union公式サイト(外部)
1851年創業の国際送金サービス大手。200以上の国と地域で50万以上の代理店を展開し、四半期で約7,000万件の送金を処理している。

Circle(USDC発行元)公式サイト(外部)
USDC(USD Coin)の発行企業。規制遵守を重視した運営で知られ、世界第2位のステーブルコインで発行残高は762億ドル以上。

Tether公式サイト(外部)
世界最大のステーブルコインUSDTの発行企業。2014年にローンチされ、現在1,830億ドル以上のUSDTを発行している。

USDC公式情報サイト(外部)
USDCの仕組みや利用方法を詳しく解説するCircle運営のサイト。100%裏付けされた米ドル担保のデジタル通貨について説明している。

【参考記事】

Western Union Plans Stablecoin Pilot Program for Cross-Border Transfers(外部)
Western Unionが1億5,000万人の顧客向けにステーブルコイン決済システムのパイロットプログラムを計画。四半期で約7,000万件の送金を処理する同社がレガシーな銀行システムへの依存を減らすと説明。

Western Union to Launch Stablecoin Settlement Pilot(外部)
Western Unionのステーブルコイン決済パイロットの詳細。高インフレ国や銀行アクセスのない地域の1億5,000万人のユーザーにとって、より安全で迅速な送金を実現する目的。

State of Crypto: Skinny Master Accounts and Stablecoins(外部)
連邦準備制度理事会のWaller総裁が提案する「skinny master accounts」について解説。ステーブルコイン発行企業が銀行を介さずにFedの決済システムに直接アクセスできる可能性を議論。

Fed Reserve guv pitches ‘skinny master accounts’ for crypto operators(外部)
Waller総裁の「skinny master accounts」提案の詳細。残高上限、利息なし、日中当座貸越なしといった制約付きで、決済専用のFed口座をステーブルコイン発行企業に提供する構想を説明。

The GENIUS Act and Stablecoins: Could This Replace State Money Transmitter Licensing(外部)
2025年7月に施行されたGENIUS Actの法的影響を分析。ステーブルコイン発行企業に対する100%準備金保有義務、消費者保護、規制の明確化について詳述。

【編集部後記】

150年の歴史を持つWestern Unionがステーブルコインへ舵を切ったこのニュースは、私たち一人ひとりの送金体験が根本から変わる転換点かもしれません。海外への送金で数日待たされた経験や、高額な手数料に驚いたことはないでしょうか。

ブロックチェーン技術が従来の金融システムをどう変えていくのか、そしてそれが私たちの生活にどんな影響をもたらすのか。一緒に見守っていきたいと思います。みなさんは国際送金にステーブルコインを使ってみたいと思いますか。

投稿者アバター
omote
デザイン、ライティング、Web制作を行っています。AI分野と、ワクワクするような進化を遂げるロボティクス分野について関心を持っています。AIについては私自身子を持つ親として、技術や芸術、または精神面におけるAIと人との共存について、読者の皆さんと共に学び、考えていけたらと思っています。

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