株式会社チェンジホールディングスは、2025年10月31日、日本円ステーブルコイン「JPYC」を活用した地方創生の取り組みを開始すると発表した。
子会社のトラストバンクが運営する「ふるさとチョイス」へのステーブルコイン決済導入検討と、Onwordsが展開するインバウンド事業における決済ソリューションの実証実験を軸とする。
グローバルのステーブルコイン市場は約45兆円規模であり、国内では2030年までに数兆円規模への成長が見込まれている。ふるさと納税市場は2024年に1兆円を突破し、2024年のインバウンド旅行消費額は約8.1兆円を記録している。
チェンジホールディングスは3つの分野でJPYC活用の実証実験を進める。①ふるさとチョイスでのJPYC決済導入検討、②インバウンド決済ソリューションの実証実験、③地域プロジェクト投資基盤の構築検討である。
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PRTIMESチェンジホールディングス、日本円ステーブルコイン「JPYC」を活用した地方創生の取り組みを本格推進
【編集部解説】
ステーブルコインが日本で本格始動する転換点
日本初の資金移動業型ステーブルコイン「JPYC」が2025年10月27日に発行開始されたことは、単なる新しい支払い手段の誕生ではありません。これまで暗号資産という領域に限定されていたブロックチェーン技術が、日本円という最も信頼度の高い価値を担体として、初めて社会インフラの領域に入ったということを意味しています。チェンジホールディングスがこの発行開始からわずか4日後にJPYCを活用した地方創生施策の発表に踏み切ったのは、決して偶然ではなく、この瞬間を逃さない先見的な判断だったといえます。
解き放たれた「手数料の壁」がもたらす経済効果
現在のインバウンド市場は2024年に訪日外国人旅行消費額が8.1兆円(過去最高)に達する盛況を呈しています。しかし、この巨大市場の中で、事業者たちはクレジットカード決済に係る高額な手数料によって利益を圧迫されているという課題があります。ステーブルコイン決済ならば、この手数料構造を大幅に改善できる可能性があるのです。ブロックチェーン技術は仲介者を最小化し、直接的な価値移転を実現することで、手数料を大幅に低下させることができます。地域の事業者に対して利益還元が最大化される環境が生まれれば、インバウンド売上が地方経済へと還流する新しい循環メカニズムが構築されることになります。
グローバル市場との接続、日本の地方の新しい価値
グローバルのステーブルコイン市場が約45兆円規模に成長し、国内でも数兆円規模への成長が見込まれているという背景を考えると、今回の試みの位置づけがより明確になります。Web3ネイティブ層や国際的な資本の流入により、これまで金融的に周辺化されてきた地方への新たな資金流入の可能性が生まれます。ふるさと納税にステーブルコイン決済を導入することは、従来の決済手段では到達できなかった層——特に海外や暗号資産に親和性を持つ世代——を新たに取り込む道を開くことになります。
透明性がもたらす信頼の再構築
ブロックチェーン技術の最大の特性は透明性です。ふるさと納税における寄付プロセスをブロックチェーン上で管理することで、寄付金がどのように流れ、どのように活用されているのかを、リアルタイムで可視化できます。この透明性は、寄付者の信頼醸成につながるだけでなく、自治体の説明責任を強化し、資金管理の効率性をも向上させることができるのです。特に、ふるさと納税の利用者が初めて1000万人を突破し、寄付額が1兆円を超えた現在、この透明性への需要は従来以上に高まっているといえます。
地域経済の自律性を高める仕組み
注目すべきは、チェンジホールディングスが単なる決済導入にとどまらず、「地域プロジェクト投資基盤の構築」まで視野に入れていることです。これは、Web3の特性——特にトークンエコノミー——を活用して、地域が自分たちの資源を金融化し、その価値に基づいて資金調達や関係人口の創出を実現する仕組みへの野心的な展望を示しています。このレイヤーが成熟すれば、地方創生は行政頼みではなく、地域コミュニティの自律的な経済活動に基づく持続可能なモデルへと進化する可能性があります。
規制環境との調和、まだ道半ば
一方で、ステーブルコイン市場の拡大に伴い、規制上の課題も浮上しています。2025年10月のJPYC発行開始は、日本が資金移動業として初めてステーブルコインの規制的な位置づけを明確にした瞬間でもあります。しかし、国際的なステーブルコイン取引やクロスボーダー送金、さらには地域トークンとの相互性といった領域では、なお制度整備が必要な部分が残されています。チェンジホールディングスの実証実験は、こうした規制上の空白を埋める先行事例としての役割も果たしていくことになるでしょう。
なぜ今この取り組みか
この発表が重要な意味を持つのは、ここに「テクノロジーが既存の社会課題に直結する」という転換点が見られるからです。ブロックチェーン、Web3といった技術は、これまで投機的な市場、あるいはサブカルチャー的な領域に限定されていた側面があります。しかし、1兆円規模のふるさと納税市場、8.1兆円のインバウンド市場といった、日本経済の重要な領域に直接適用される瞬間を迎えたのです。これは、Web3が「未来の夢想」ではなく、「現在進行形の価値創造」へと脱皮したことを示しています。
【用語解説】
ステーブルコイン
法定通貨(日本円やアメリカドルなど)と価値が連動するように設計されたデジタル資産である。ブロックチェーン上で発行・管理されるが、価格変動を抑える仕組みを備えており、実用的な決済手段として機能する。暗号資産の中でも価格が安定しているため「ステーブル(安定した)」と呼ばれている。
トークンエコノミー
ブロックチェーン技術を基盤として、トークン(デジタル資産)を通じた価値交換や経済活動を実現する仕組みを指す。従来の中央集権的な仲介者を経由しない、参加者間の直接的な価値移転を可能にする経済圏である。
オンチェーン
ブロックチェーン上で直接行われる取引や処理を意味する。ブロックチェーンが記録・管理する状態にあることを示す。対義語は「オフチェーン」で、ブロックチェーン外で行われる処理を指す。
Web3
インターネットの第3世代と位置づけられる概念。ブロックチェーン技術を基盤として、中央集権的なサーバーを必要としない分散型のネットワークで、ユーザーが直接価値交換できる環境を実現する。従来のWeb2.0(プラットフォーム企業中心)から、より個人の自律性や所有権を尊重する形態への進化を目指す。
資金移動業(資金移動業者)
資金決済に関する法律で定義される業種で、金融庁の登録を受けた事業者が、顧客の資金を預かって第三者への送金を行う業務を指す。銀行より規制が緩いが、一定の基準と監督下にある。JPYC株式会社はこの資金移動業者として2025年10月27日に正式登録され、ステーブルコイン「JPYC」の発行を開始した。
クレジットカード決済手数料
店舗やオンラインサービスがクレジットカード利用者の決済を受け付ける際に、カード会社や決済代行業者に支払う手数料。一般的に売上の2~5%程度が相場で、特にインバウンド市場では事業者の利益を大きく圧迫する要因となっている。
【参考リンク】
株式会社チェンジホールディングス(外部)
デジタル人材育成やDXによる地方創生を推進する企業グループ。NEW-ITトランスフォーメーション事業とパブリテック事業が柱。
株式会社トラストバンク(外部)
ふるさと納税総合サイト「ふるさとチョイス」を運営。全国約1700自治体、76万点超の寄付品を掲載する。
ふるさとチョイス(外部)
株式会社トラストバンクが運営する国内最大級のふるさと納税サイト。複数の決済方法に対応している。
JPYC株式会社(外部)
2025年10月27日に日本初の資金移動業型ステーブルコイン「JPYC」の発行を開始したフィンテック企業。
株式会社Onwords(外部)
チェンジホールディングスの子会社。インバウンド領域に特化した事業を展開し、訪日外国人向けサービスを提供。
【参考記事】
【速報】国内初の円ステーブルコイン「JPYC」、発行量が1500万 JPYC(外部)
JPYC株式会社が資金移動業型ステーブルコイン「JPYC」の発行を開始したことを報道し、決済インフラの変化を指摘。
インバウンド消費は8.1兆円、その市場規模を他産業と比較する(外部)
2024年度のインバウンド消費額が過去最高の8.1兆円に達したことを報告し、市場の経済的重要性を解説。
訪日客消費8兆円で過去最高 24年、アパレル市場並み(外部)
2024年の訪日外国人旅行消費が8兆円を超える過去最高を記録し、アパレル市場並みの規模であることを報道。
地域コミュニティとWeb3:住民主導の新たな経済システム(外部)
Web3技術が地域経済に与える影響を理論的に解説し、トークンエコノミーの地方創生への応用を論じる。
ふるさと納税 寄付額が初の1兆円突破 利用者も1000万人超(外部)
2024年度のふるさと納税が寄付額で初めて1兆円を突破したことを報告し、決済手段の多様化の必要性を指摘。
【編集部後記】
皆さんの故郷や好きな地域のために、新しい形で「お金」を流す道が開かれようとしています。ふるさと納税、インバウンド、地域投資──これらすべてが、ブロックチェーンによって透明で効率的になる可能性を秘めています。
このニュースを見て「これってどんなことができるんだろう?」と感じたら、それはあなたが次の時代を形作る側にいるということかもしれません。Web3が地方とつながる瞬間、一緒にその可能性を探ってみませんか。
























