2025年10月20日にAmazon Web Servicesで障害が発生し、Eight Sleepブランドのスマートベッドが機能不全に陥った。
Eight Sleepは温度調節機能付きマットレスカバーや角度調整可能なベースなど、インターネット対応のベッドアクセサリーを製造しており、AIを使って睡眠習慣、呼吸パターン、心拍数などの健康データを追跡する。製品はAmazon Web Servicesに依存しており、2,500ドルから3,000ドルを超える価格帯で販売されている。
障害により、一部のユーザーはベッドが華氏110度(摂氏約43度)まで過熱したり、極端な傾斜で固まったりする問題に直面した。一部報道によると、点滅する光や起床アラームが作動したケースもあった。
Eight SleepのCEO Matteo Franceschettiは同日20日にXで謝罪し、システム復旧と障害対策を約束した。共同創業者兼マーケティング担当副社長のAlexandra Zatarainは、クラウドインフラストラクチャが利用できない場合にBluetooth経由でアプリとPodが直接通信できるBackup Modeを実装したとCNETに述べた。
From:
Owners of Luxury Smart Beds Literally Lost Sleep Due to AWS Outage
【編集部解説】
今回の事案ではスマートホームデバイスのクラウド依存がもたらす脆弱性を鮮明に浮き彫りにしました。Eight Sleepのスマートベッドは、最低でも 2,500 ドルという高額な製品であるにもかかわらず、インターネット接続が途絶えた瞬間に制御不能な状態に陥ったのです。
原因となったAWS障害は、2025年10月20日の午前3時頃(アメリカ東部時間)にAWSのUS-EAST-1リージョンで「エラー率とレイテンシの増加」が発生したことに起因し、15時間にわたって世界中の1,000社以上の企業に影響を与えました。一部報道によれば、Snapchat、Reddit、Roblox、Venmo、Coinbase、Amazon Alexa、Microsoft Office、Teamsなど、広範なサービスが停止しました。
今回の問題で特に注目すべきは、ユーザーが自宅のベッドという最もプライベートな空間で物理的な不快感を強いられたという点です。華氏110度(摂氏約43度)まで過熱したマットレスや、傾斜したまま固定されたベッドは、単なる不便さを超えて、安全性の問題すら孕んでいます。Redditのユーザーコミュニティでは、以前からオフラインモードの欠如が指摘されており、2,000ドル以上の製品がWi-Fi接続を失っただけで「ただの置物」になってしまう設計の欠陥が批判されていました。
IoTデバイスのセキュリティ研究によれば、クラウドベースのスマートホームシステムにおける設定ミスが、主要なセキュリティリスクの一つとなっています。しかし今回のケースは設定ミスではなく、クラウドプロバイダー側の障害という、ユーザーには制御不可能な要因で発生しました。
Eight Sleepが迅速に実装したBackup Mode(または「Outage Access」とも呼ばれる)は、Bluetooth経由でアプリとデバイスを直接接続する仕組みです。これは本来、製品設計の初期段階から組み込まれているべき基本的な安全機構でした。クラウドサービスの停止は今後も発生し得るものであり、生活に密着したデバイスほど、オフライン時の代替手段を備えておく必要性は高いと言えます。
より広い視点で見ると、この事案はIoT業界全体が抱える構造的課題を示しています。2024年にはAmazonがEcho Connect製品のサポートをわずか3週間前に通告して終了し、2022年にはInsteonが予告なしにサーバーを停止して数千台のデバイスを使用不能にしました。消費者は高額な製品を購入しても、製造元の判断やインフラの状態次第で、その機能が突如失われるリスクに晒されているのです。
今後、EUのCyber Resilience Act(サイバーレジリエンス法)などの規制強化により、IoT製品のオフライン機能やフェイルセーフ機構の実装が義務化される可能性があります。今回の事案は、テクノロジー業界が利便性と引き換えに見過ごしてきた根本的な設計思想の問題に、改めて光を当てることとなりました。
【用語解説】
Amazon Web Services (AWS)
Amazonが提供する世界最大規模のクラウドコンピューティングプラットフォーム。200以上のサービスを提供し、ウェブサイトやアプリケーション、データベースなどのインフラストラクチャをインターネット経由で提供する。世界中の企業がAWSに依存してサービスを運営している。
Autopilot
Eight Sleepの製品に搭載されたAI機能。ユーザーの睡眠パターン、呼吸、心拍数などの健康データを自動収集し、最適な睡眠環境を提供するためにマットレスの温度や角度を自動調整する。別途サブスクリプション料金が必要である。
Backup Mode(Outage Access)
今回の障害を受けてEight Sleepが実装した新機能。クラウドサービスが利用不可能な状態でも、Bluetooth経由でアプリとPod(ベッド)が直接通信できるようにする仕組み。これにより、AWS障害時でもユーザーがベッドの電源オン・オフ、温度調整、ベースのフラット化などの基本操作を行えるようになった。
IoT (Internet of Things)
モノのインターネット。従来インターネットに接続されていなかった家電製品や設備機器などがネットワークに接続され、相互に情報をやり取りする仕組み。スマートベッドもIoTデバイスの一種である。
【参考リンク】
Eight Sleep公式サイト(外部)
AI搭載の温度調節機能付きマットレスカバー「Pod」を開発・販売する2014年創業のアメリカ企業。
Amazon Web Services (AWS)公式サイト(外部)
Amazonが提供するクラウドコンピューティングプラットフォーム。200を超えるサービスを世界中の企業がビジネスインフラとして利用
Reddit – Eight Sleepコミュニティ(外部)
Eight Sleepユーザーのフォーラム。製品の使用感や技術的問題が議論され、今回のAWS障害時にも多数のユーザーが報告
【参考動画】
【参考記事】
AWS outage reminds us why $2449 Internet-dependent beds are a bad idea(外部)
2,449ドルのスマートベッドのクラウド依存問題を指摘。高額製品がWi-Fi接続喪失で「ただの置物」になる設計の欠陥を批判
AWS outage turns smart mattress into a ‘sauna’(外部)
AWS障害は午前3時頃US-EAST-1リージョンで発生し9時間以上継続。世界で1,000社以上に影響しCEOが謝罪
Config Chaos: How IoT and Cloud Misconfigurations Create Security Nightmares(外部)
クラウドベースのスマートホームシステムにおける設定ミスが主要なセキュリティリスクとなっていることを解説
Why cloud dependency is not the future of home automation(外部)
2024年AmazonのEcho Connect終了、2022年Insteonサーバー停止など、製造元判断で機能喪失するリスクを指摘
These smart beds began roasting their owners during AWS outage(外部)
Eight Sleepが「Outage Access」機能を導入。クラウド停止時でもアプリとPodが直接通信可能に。過熱ベッドの深刻性を指摘
AWS outage causes Eight Sleep beds to go haywire(外部)
3,000ドルのPodが誤作動を起こし止まらないアラームや極端な温度変化が発生。複数クラウドプロバイダー分散の必要性を指摘
【編集部後記】
Eight Sleepのスマートベッドが制御不能に陥った今回の事案は、私たちの未来の「医療現場」にも直結する警鐘です。
近年、医療・介護向けベッドはAIやクラウド連携によって高機能化しています。パラマウントベッドの眠りCONNECTのように、クラウド上で心拍や呼吸状態を可視化・共有するシステムは介護の効率化に貢献していますが、ネットワーク障害が起きた場合、情報伝達や制御が止まり、命に関わる遅延や誤作動を招く可能性もあります。
医療用ベッドにもAIが搭載され、体動データや治療サポートを自律的に行う時代が到来しつつありますが、その進化の裏で「フェイルセーフ(安全停止)」設計の欠如は見逃せません。
クラウドに頼らなくても最低限“安全に動作できる設計思想が不可欠です。今後の医療DXの前提として、「停止しても危険にならない」技術こそ求められています。






















