PDP-11で2037年クラッシュ発見、2038年問題より早い未知のバグが判明

PDP-11で2037年クラッシュ発見、2038年問題より早い未知のバグが判明 - innovaTopia - (イノベトピア)

英国立コンピュータ博物館のボランティアであるロビン・ダウンズ氏が、PDP-11/73システムの復元作業中に予期しないバグを発見した。

このマシンは1982年のCコンパイラを搭載し、2000年問題の対策は済んでいる。ダウンズ氏がシステムクロックを進めてテストしていた際、2036年までは正常に動作したが、2037年の始まりにプログラムがクラッシュした。

これは標準的な32ビットUnix時刻がオーバーフローする2038年1月19日より1年早い現象である。ダウンズ氏の分析によれば、このクラッシュは1982年製コンパイラのlocaltime()という時刻変換関数に存在する文書化されていないバグが原因で、無効な値(NULLポインタ)を返そうとすることが引き金となっていた。さらに、クラッシュ後に時刻を確認すると、理論上のオーバーフローで予測される1901年ではなく、Unixエポックの起点である1970年にリセットされるという挙動も確認された。

元マイクロソフトエンジニアのデイブ・プラマー氏は13年間で問題を解決できると楽観視するが、ダウンズ氏は個々のデバイスとソフトウェアバージョンごとに異なる動作を示すため、Y2Kより大きな問題になる可能性があると警告している。

From: 文献リンクThe Unix Epochalypse might be sooner than you think

【編集部解説】

今回の発見は、単なる「コンピュータの時刻が狂う」という表面的な問題ではありません。むしろ、私たちが知らないところで動き続けるレガシーシステムの予測不可能性を浮き彫りにした重要な事例です。

2038年問題は従来、32ビット符号付き整数でUnix時刻(1970年1月1日00:00:00 UTCからの経過秒数)を保存するシステムで発生すると理解されてきました。そのため、理論上は2038年1月19日03:14:07 UTCにカウンターがオーバーフローし、1901年12月13日20:45:52 UTCに巻き戻るはずでした。

しかし英国立コンピュータ博物館での発見は、実際のシステムがこの理論通りに動作しない場合があることを示しています。PDP-11/73上の1982年製Cコンパイラでは2037年に予期しないクラッシュが発生し、さらにローカル時刻関数が理論上の1901年ではなく1970年に戻るという異常な挙動を見せました。

この事例が示すのは、レガシーシステムにおける「未知のバグ」の存在です。1982年のCコンパイラには文書化されていない不具合があり、時刻関数を呼び出すだけでプログラムが異常終了します。現在稼働中のシステムの中に、同様の予期しない挙動を示すものがどれだけ存在するかは誰にも分かりません。

特に懸念されるのは、更新が困難な組み込みシステムです。ATM、医療機器、産業制御システム、交通インフラなど、長期間にわたって使用される機器では、個別のテストなしに挙動を予測することは不可能です。Y2Kのときは主にアプリケーションレベルの問題でしたが、今回はシステムレベルでの多様な問題が予想されます。

現在、LinuxディストリビューションのDebianが全システムを64ビット時刻に移行するなど、技術的な対策は進んでいます。しかし、問題は技術的解決策の存在ではなく、それがすべてのシステムに適用されるかどうかです。

長期的な視点で考えると、この問題は現代のデジタル社会が抱える「技術的負債」の象徴的事例といえます。過去の設計判断が将来に与える影響を、私たちはもっと真剣に考える必要があるでしょう。

【用語解説】

エポック終末の日(Epochalypse)
Unix時刻の32ビット整数がオーバーフローして発生する2038年問題の俗称。システムが適切に時刻を計算できなくなる現象である。

Unix時刻(Unix時間)
1970年1月1日00:00:00 UTCからの経過秒数で時刻を表現するシステム。多くのコンピューターシステムで採用されている標準的な時刻表現である。

符号付き32ビット整数
−2,147,483,648から2,147,483,647までの整数を表現できるデータ型。2038年1月19日03:14:07 UTCに上限に達してオーバーフローする。

オーバーフロー
データ型の表現可能な範囲を超えた際に発生する現象。32ビット整数の場合、典型的な挙動としては上限を超えると負の最小値に近い値に巻き戻るが、実装によってはプログラムのクラッシュを引き起こすこともある。

レガシーシステム
古い技術や設計に基づいて構築され、長期間使用されているコンピューターシステム。更新が困難で2038年問題の影響を受けやすい。

64ビット時刻
約2,920億年分の時刻を表現できる64ビット整数を使った時刻システム。2038年問題の根本的解決策として採用されている。

【参考リンク】

The National Museum of Computing(外部)
英国ブレッチリーパークにある世界最大の稼働する歴史的コンピューターコレクションを収蔵する博物館

The Register(外部)
英国のIT・テクノロジー専門ニュースサイト。システム管理者やエンジニア向けの技術記事で知られる

Debian Project(外部)
2038年問題対策として64ビット時刻への移行を進めているLinuxディストリビューション

【参考記事】

2038 Bug Survival Guide: Lessons From Leap Year Code Issues(外部)
2038年問題の実際の影響について、組み込みシステムやIoTデバイスへの広範囲な影響を警告

Y2K38 bug? Debian switching to 64-bit time for everything(外部)
Debianが2038年問題対策として64ビット時刻に移行する取り組みの詳細レポート

Y2K38: Risks, Solutions, and Real-World Implications(外部)
2038年問題のリスクと解決策について、現実世界への影響を詳細に分析

【編集部後記】

皆さんの身の回りにある電子機器や、普段お仕事で使用しているシステムは、いつ製造・導入されたものかご存知でしょうか。今回の博物館での発見は、レガシーシステムが私たちの予想を超えた挙動を示すことを教えてくれています。

もしかすると、現在稼働中の業務システムや組み込み機器の中にも、2037年や2038年に予期しない動作を起こすものが潜んでいるかもしれません。技術的負債は目に見えないからこそ、気づいたときには手遅れになりがちです。

皆さんの組織では、こうした時限爆弾的なリスクにどのような備えをされているでしょうか。また、未来のエンジニアたちが直面するであろうこの課題について、どのような対策が有効だと思われますか。ぜひSNSでお聞かせください。

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TaTsu
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