ロマンス詐欺「宇宙飛行士」事件、札幌80代女性が騙される|AI技術で進化する高齢者狙いの新手口

[更新]2025年9月13日11:53

ロマンス詐欺「宇宙飛行士」事件、札幌80代女性が騙される|AI技術で進化する高齢者狙いの新手口 - innovaTopia - (イノベトピア)

北海道札幌市の80代女性が、宇宙飛行士を名乗る人物によるロマンス詐欺の被害に遭った。

詐欺師は7月にソーシャルメディアで女性に接触し、数週間のメッセージ交換を経て、宇宙で攻撃を受けているとして「命を救う酸素」代金の送金を要求した。女性は市内5つのコンビニエンスストアでプリペイドシステムを通じて約100万円(2025年9月の為替レートで約6,700米ドル)を送金した。その後女性が家族に相談して警察に通報し、詐欺が発覚した。

札幌市手稲区の警察はこの事件をロマンス詐欺として扱っており、同様のソーシャルメディアでの接触に注意するよう住民に警告を発している。ロマンス詐欺は近年、孤独感の蔓延とオンライン活動の増加により大幅に増加している。

From: 文献リンク‘Astronaut-in-distress’ romance scammer steals money from elderly woman

【編集部解説】

今回の「宇宙飛行士詐欺」事件は、一見すると荒唐無稽に映るかもしれませんが、実は現代のデジタル社会が抱える深刻な問題の縮図といえます。

まず注目すべきは、この手法の巧妙さです。詐欺師は「宇宙飛行士」という非日常的で検証困難な職業を選択しました。宇宙空間という閉鎖的な環境設定により、被害者が直接的な検証や第三者への相談を困難にする心理的障壁を構築したのです。

AIが加速させる詐欺の進化

この事件は、AIを活用した詐欺の前兆ともいえる事例です。現在、生成AIによる偽の画像や動画生成技術が急速に普及しており、詐欺師たちはこれらのツールを使って、より説得力のある偽のプロフィールを作成できるようになっています。実際に、AIを活用したロマンス詐欺は世界的に急増しており、従来の画像逆検索では検出できない合成ペルソナの大量生産が可能になっています。

日本の状況は特に深刻です。2025年上半期だけでSNS型投資・ロマンス詐欺の被害は2,461件、被害額は約591億円に達しています。これは日本が世界第2位の高齢化社会であることと無関係ではありません。高齢者の孤独感や社会的孤立は、詐欺師にとって格好の標的となっているのです。

従来手法とデジタル技術の融合

技術的な側面では、この事件が示すのは従来の詐欺手法とデジタル技術の融合です。コンビニエンスストアでの電子マネー購入という手法は、追跡を困難にし、資金回収を事実上不可能にする狙いがあります。この方法は「it’s me詐欺」など、日本で従来から見られる詐欺手法の進化形といえるでしょう。

将来的な懸念として、ディープフェイク技術の民主化があります。現在でもディープフェイクを使った詐欺被害報告は2023~2024年で著しく増加傾向にあります。ビデオ通話での偽装も可能になりつつあり、香港では2,500万ドルの企業詐欺事件も発生しています。

技術による解決の可能性

しかし、この問題にはポジティブな側面もあります。AI技術は詐欺の検出にも活用できるのです。大規模言語モデル(LLM)は詐欺メッセージのパターン認識や自動検出に応用可能で、将来的には詐欺防止の強力なツールとなる可能性があります。

規制面では、米国では既にロマンス詐欺防止法案が提出されており、出会い系アプリ事業者に対してユーザー警告の義務化が検討されています。日本でも同様の法整備が急務となっています。

この事件は単なる高齢者詐欺の一例ではなく、テクノロジーと人間の信頼関係の脆弱性を浮き彫りにした象徴的な出来事なのです。

【用語解説】

ディープフェイク
人工知能技術を使って作成される偽の動画や音声である。実在しない人物の画像や、実在する人物の偽の発言を生成できる技術として、詐欺に悪用される事例が増加している。

大規模言語モデル(LLM)
膨大なテキストデータで訓練された人工知能システムである。自然な会話を生成できる一方、詐欺メッセージの自動生成にも悪用される可能性がある。

【参考リンク】

Malwarebytes(外部)
サイバーセキュリティソフトウェアを開発する米国企業で、マルウェア対策やセキュリティ情報を提供

北海道放送(HBC)(外部)
北海道を拠点とする放送局で、今回の詐欺事件を最初に報道した地元メディア

警察庁(外部)
日本の警察行政を統括する機関で、特殊詐欺やSNS型投資・ロマンス詐欺の統計データを定期公表

FBI インターネット犯罪苦情センター(外部)
米国連邦捜査局が運営するサイバー犯罪の通報窓口でロマンス詐欺の報告を受付

【参考記事】

SNS型投資・ロマンス詐欺、25年上期被害額は591億円 前年同期比で倍増(外部)
日経による2025年上半期のSNS型投資・ロマンス詐欺統計データ報告

「宇宙で酸素足りない」と100万円詐欺被害 札幌・手稲の80代女性(外部)
北海道新聞による地元詳細報道で7月中旬から8月30日までの時系列を明確化

AI scaling up romance scam operations globally(外部)
英国アラン・チューリング研究所によるAI技術がロマンス詐欺に与える影響分析

How Romance Scammers Use Deepfakes to Deceive Victims(外部)
マカフィー社によるディープフェイク技術を活用したロマンス詐欺の手法解説

Fake astronaut scams lovestruck Japanese octogenarian(外部)
ジャパンタイムズによる日本の高齢者詐欺の社会的背景と類似事件増加傾向分析

【編集部後記】

この「宇宙飛行士詐欺」の事例を読んで、どのように感じられたでしょうか。実は2025年上半期だけで、SNS型投資・ロマンス詐欺の被害は2,461件、被害額は約591億円に達しています。これは決して遠い世界の話ではありません。

AIやソーシャルメディアが私たちの生活に深く浸透する中で、テクノロジーが生み出す新たな脆弱性と、それを悪用する手法はますます巧妙になっています。みなさんは、家族や身近な方とデジタル時代のリスクについて話し合う機会を持てているでしょうか。私たちと一緒に、この問題について考えてみませんか。

投稿者アバター
omote
デザイン、ライティング、Web制作を行っています。AI分野と、ワクワクするような進化を遂げるロボティクス分野について関心を持っています。AIについては私自身子を持つ親として、技術や芸術、または精神面におけるAIと人との共存について、読者の皆さんと共に学び、考えていけたらと思っています。

読み込み中…
advertisements
読み込み中…