50年間充電不要の核電池が実用化間近|Beijing Betavolt 1W版2025年発売計画

[更新]2025年8月27日06:10

50年間充電不要の核電池が実用化間近|Beijing Betavolt 1W版2025年発売計画 - innovaTopia - (イノベトピア)

IEEE Spectrumの記事によれば、1970年にパリで世界初の核動力ペースメーカーが移植され、その後5年間で少なくとも1,400人がこの装置を装着したとある。

プルトニウム238を約0.1グラム含むこれらのデバイスは数十年間動作可能だったが、追跡困難により1988年に最後の移植が行われた。現在、複数の企業が核電池の商業化を進めている。

Beijing Betavolt New Energy Technology Co.は15×15×5ミリメートルサイズで50年持続する100マイクロワット電池を開発し、2025年に1ワット版の商業発売を計画している。サンディエゴのInfinity Powerは電気化学的変換方式により60パーセント超という高い変換効率を達成したと発表した。マイアミのCity Labs、英国原子力公社、ブリストル大学なども各々異なる放射性同位体を使用した核電池を開発中である。

トリチウム1グラムの価格は約30,000米ドルで、0.3ワットの熱電力を生産する。これらの電池は宇宙探査、軍事用途、医療機器、IoTセンサーへの応用が期待されている。

From: 文献リンクThe Unlikely Revival of Nuclear Batteries

【編集部解説】

核電池技術の復活は、研究室レベルから実用化段階への重要な転換点を迎えています。James Blanchard氏が指摘するように、この技術は約40年前から存在していたものの、商業的な成功を収めた例はほとんどありませんでした。

現在注目すべきは、複数の異なるアプローチが同時並行で進んでいることです。Beijing Betavolt New Energy Technology Co.(2021年設立)のダイヤモンド半導体を使ったベタボルタイック方式は、厚さ10マイクロメートルのダイヤモンド半導体の間に2マイクロメートルのニッケル63シートを挟み込む精密構造を実現しています。同社のBV100は3V電圧、100マイクロワット出力で、リチウム電池の10倍以上のエネルギー密度という驚異的な性能を持ちます。

一方、Infinity Powerの電気化学変換方式、英国勢の炭素14を使った超長寿命アプローチなど、技術的多様性が競争を加速させています。

特に興味深いのは電力密度の問題です。核電池は従来の化学電池よりも少ない重量で同等の電力を提供できる可能性があります。これは宇宙探査や軍事用途において革命的な意味を持ちます。現在NASAのボイジャー探査機が使用しているRTGは38キログラムの重量で157ワットを生産しますが、新世代の核電池はこの効率を大幅に改善できる見込みです。

しかし、最大の課題は市場の創出にあります。記事でも言及されているように、放射性物質の追跡と管理は複雑で、一般消費者向け製品への展開は現実的ではありません。ミシガン州の事例が示すように、規制の抜け穴を利用した危険な蓄積が起こる可能性もあります。

コスト面でも課題は深刻です。トリチウム1グラムが30,000米ドル、プルトニウム238の供給不足によりNASAが打ち上げスケジュールを調整せざるを得ない状況は、大規模な商業展開の障壁となっています。

それでも、IoT時代の到来により、数十年間メンテナンス不要で動作するセンサーネットワークへの需要は確実に存在します。ペースメーカーや人工内耳などの医療機器、継続的に飛行するドローン、極限環境での長期監視システムなど、核電池の特性と完璧に合致する用途があります。

規制面では、各国の原子力規制機関が新たなライセンス体系を構築する必要があります。特に医療機器分野では、1970年代のペースメーカーの経験を踏まえた、より厳格な追跡システムの確立が求められるでしょう。

この技術が真の意味で普及するかどうかは、安全性と利便性のバランスをどう取るかにかかっています。現在の動きは、核電池がニッチな特殊用途から、より広い応用分野へと展開する可能性を示していますが、その実現には技術的課題と社会的受容の両方をクリアする必要があります。

【用語解説】

ベタボルタイック電池
放射性同位体から放出されるベータ粒子(電子)を半導体に照射し、電子正孔対を生成して電気を取り出す方式の核電池である。太陽電池と似た仕組みだが、光の代わりに放射線を利用する。

放射性同位体熱電発電機(RTG)
プルトニウム238などの放射性同位体の崩壊熱を熱電素子により電気に変換する装置である。NASAの深宇宙探査機で広く使用されている。

半減期
放射性物質が初期の放射能の半分まで減衰するのに要する時間である。核電池の寿命を決定する重要な要素である。

ニッケル63
半減期100年のベータ線放出同位体である。比較的安全性が高く、多くの核電池開発企業が採用している。崩壊後は非放射性の銅になるため環境への脅威が少ない。

トリチウム
水素の放射性同位体で半減期12.3年である。低エネルギーベータ線を放出し、核電池用燃料として使用される。

プルトニウム238
半減期87.7年のアルファ線放出同位体である。NASAのRTGで使用されているが、供給が極めて限られている。

【参考リンク】

Infinity Power(外部)
サンディエゴに拠点を置く核電池開発企業。電気化学的変換方式により60%超の変換効率を実現

City Labs(外部)
マイアミに拠点を置くトリチウム核電池の専門企業。NanoTritiumブランドで20年以上動作する超低電力電池を商用化

英国原子力公社(UKAEA)(外部)
英国政府の核融合エネルギー研究機関。炭素14を使用した数千年持続する核電池の研究開発を実施

NASA JPL – ボイジャーRTG(外部)
NASAジェット推進研究所によるボイジャー探査機のRTGに関する公式情報

【参考動画】

【参考記事】

Nuclear battery: Chinese firm aiming for mass market production(外部)
Beijing Betavolt社の詳細な技術仕様を報告。BV100は15×15×5mm、3V出力、100µW

Betavolt achieves miniaturization of atomic batteries with 50-year autonomy(外部)
Beijing Betavolt社の技術的詳細。厚さ10μmのダイヤモンド半導体と2μmのニッケル63シート

China’s Nuclear Battery: 50 Years(外部)
Beijing Betavolt社の商業化計画を詳述。2025年の1ワット版発売予定、エネルギー密度の比較分析

【編集部後記】

私たちの身の回りにある電子デバイスを想像してみてください。スマートウォッチは数日、ノートPCでも十数時間で充電が必要ですよね。では、もし50年間—お子さんが生まれてから成人するまで—全く充電せずに動き続ける電池があったら、どう感じられるでしょうか。今回ご紹介した核電池技術は、まさにそんな驚異的な可能性を秘めています。

実は、innovaTopiaでも過去に核電池関連の記事を何度か取り扱ってきました。2024年7月には「BetaVolt社が50年持続する電池を開発」という記事で、取り上げたBetaVolt社がいよいよ商業発売、たった一年で状況が目まぐるしく変わっています。また、2025年5月には「100年以上持続する原子力電池を開発中」として、日本のJAEAによるアメリシウム241を活用した研究についても報じています。

核電池市場全体の商業化競争が本格化しています。個別企業や研究機関の技術発表が中心でしたが、今やBeijing Betavolt、Infinity Power、City Labsなど複数企業が実用化レースを繰り広げています。宇宙探査機ボイジャーが打ち上げから48年経った今も地球に信号を送り続けているように、私たちの日常でも「一生もの」の電子機器が現実になるかもしれません。

ペースメーカーや人工内耳のような医療機器が、患者の生涯にわたって交換不要で動作する未来。そんな技術革新の最前線を、引き続きinnovaTopiaでお伝えしていきます。みなさんなら、この技術をどんなデバイスに活用したいと思われますか?

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TaTsu
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