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JAEA、100年以上持続する原子力電池を開発中 – 放射性廃棄物アメリシウムを活用した宇宙探査用電源

JAEA、100年以上持続する原子力電池を開発中 - 放射性廃棄物アメリシウムを活用した宇宙探査用電源 - innovaTopia - (イノベトピア)

Last Updated on 2025-05-10 14:28 by admin

日本原子力研究開発機構(JAEA)は2025年3月13日、放射性廃棄物であるアメリシウム241を利用した「原子力電池」の開発に着手したことを発表した。この電池は、アメリシウムの崩壊熱を電気に変換する仕組みで、100年以上メンテナンス不要な半永久電源となる。

JAEAは宇宙航空研究開発機構(JAXA)と産業技術総合研究所(AIST)と共同で、2029年初頭までに新しい電池システムのプロトタイプ完成を目指している。開発はJAXAの宇宙戦略基金事業の一環として行われ、事業全体の実施期間は2029年2月までの4年間を予定している。

この原子力電池は、太陽光発電が不可能な場所で運用される宇宙探査機の電源として設計されており、小惑星、太陽から遠い惑星、月の裏側などでの使用が想定されている。

アメリシウム241は半減期が432.2年と長く、プルトニウム238(半減期87.7年)と比較して長期間安定した電力供給が可能である。また、プルトニウムは日本では取り扱いや輸送に厳しい法的制限があるのに対し、アメリシウムは国内で調達可能で、技術的に容易かつ低コストという利点がある。

JAEAはすでに、ウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料からアメリシウムを分離する技術を開発し、安全に取り扱うために添加剤と混合してペレット状に焼き上げ、金属ピン内に封入する技術も確立している。また、アメリシウムを使用して発光ダイオード(LED)ライトに電力を供給することにも成功している。

この原子力電池の利用は宇宙分野だけでなく、極地や深海、深地層処分場などでのモニタリング機器用電源や保温用熱源としても期待されている。また、高レベル放射性廃棄物であるアメリシウムをエネルギー資源として再利用することで、放射性廃棄物処理問題の解決にも寄与する可能性がある。

開発を主導しているのは、JAEAのNXR開発センターの高野正英研究主席と産総研のゼロエミッション国際共同研究センターの太田道広研究チーム長である。

References:
文献リンクThe End of Solar Power: Japan Builds a New Nuclear Battery Capable of Lasting More Than 100 Years

【編集部解説】

今回のニュースは、日本原子力研究開発機構(JAEA)が放射性廃棄物から生み出す革新的な電源技術に関するものです。この技術開発は、単なるエネルギー源の話にとどまらず、宇宙探査の可能性を大きく広げる可能性を秘めています。

アメリシウム241を利用した原子力電池の開発は、日本だけでなく世界的にも注目されている分野です。実は、英国の国立原子力研究所(NNL)も2022年から同様の技術開発に取り組んでおり、国際的な競争と協力が進んでいることがわかります。

この技術の革新性は、従来の宇宙探査機電源との比較で明確になります。これまで遠方宇宙探査では主にプルトニウム238を使用したRTG(放射性同位体熱電気転換器)が使われてきましたが、プルトニウム238は非常に希少で高価です。一方、アメリシウム241は使用済み核燃料から抽出可能であり、プルトニウム238と比較してワット当たりのコストが5分の1という経済性を持っています。

さらに注目すべきは、この技術が「廃棄物からの資源創出」という循環型社会の理想を体現している点です。高レベル放射性廃棄物として処分すべきアメリシウムを、価値ある電力源として再利用することで、原子力発電の課題の一つである廃棄物問題の解決にも貢献する可能性があります。

技術的な側面では、アメリシウム241の半減期が432.2年と長いことが大きな利点です。これにより、理論上は100年以上にわたって安定した電力供給が可能になります。宇宙探査機のミッション寿命を大幅に延長できるだけでなく、メンテナンスが困難な極地や深海などの地球上の過酷な環境でも活用できる可能性があります。

一方で、この技術にはいくつかの課題も存在します。アメリシウムはプルトニウムよりも発熱量が少ないため、同じ電力を得るためにはより多くの量が必要になります。また、放射性物質を扱うため、安全性の確保や打ち上げ時の事故リスクへの対策が不可欠です。JAEAが開発した金属ピンによる封入技術は、こうした安全面の課題に対応するものといえるでしょう。

国際的な視点では、NASAグレン研究センターと英レスター大学も同様の技術開発を進めており、宇宙探査における電源技術の国際競争が加速しています。日本が独自の技術を確立することは、将来の国際宇宙探査プロジェクトにおける発言力強化にもつながるでしょう。

この技術が実用化されれば、太陽光が届かない月の裏側や外惑星探査など、これまで電力確保が難しかった宇宙ミッションが実現可能になります。また、長期間稼働する宇宙機器により、より詳細な宇宙データの取得や、将来的には宇宙資源開発の基盤技術にもなり得ます。

私たちの生活への直接的な影響は限定的かもしれませんが、この技術は人類の宇宙進出の可能性を広げ、新たな科学的発見や技術革新をもたらす可能性を秘めています。また、放射性廃棄物の有効活用という観点は、地球上のエネルギー問題や環境問題にも一石を投じるものといえるでしょう。

2029年の試作機完成を目指す本プロジェクトの進展に、今後も注目していきたいと思います。

【用語解説】

アメリシウム241
原子番号95の人工放射性元素で、使用済み核燃料中のプルトニウムが崩壊して生成される。半減期が432.2年と長く、アルファ線を放出しながら崩壊する際に熱を発生する特性を持つ。

原子力電池(放射性同位体熱電気転換器/RTG)
放射性物質の崩壊熱を直接電気に変換する装置。従来の電池とは異なり、化学反応ではなく放射性崩壊という物理現象を利用している。家庭用の電池が数年で寿命を迎えるのに対し、原子力電池は数十年から100年以上発電し続けることができる。

熱電変換デバイス
温度差を利用して発電する半導体素子を組み込んだ装置。温度差があれば発電できるため、メンテナンスフリーで長期間使用可能。

【参考リンク】

日本原子力研究開発機構(JAEA)
原子力に関する研究と技術開発を行う国立研究開発法人。本プロジェクトの主導機関。

宇宙航空研究開発機構(JAXA)
日本の航空宇宙開発を担う国立研究開発法人。本プロジェクトの共同研究機関。

産業技術総合研究所(AIST)
産業技術の研究開発を行う国立研究開発法人。本プロジェクトの共同研究機関。

【参考動画】

【編集部後記】

100年以上動き続ける原子力電池の開発は、宇宙探査だけでなく私たちの未来のエネルギー観にも影響を与えるかもしれません。「廃棄物」とされていたものから価値を生み出すこの技術、皆さんはどう感じますか?もし身の回りの電子機器が数十年間充電不要になったら、どんな使い方を想像しますか?また、宇宙探査の長期化は人類にどんな発見をもたらすと思いますか?SNSでぜひ皆さんの考えをシェアしてください。

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TaTsu
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