オランダLeydenJar、純シリコンアノードで50%性能向上|2027年量産開始

[更新]2025年9月12日08:41

オランダLeydenJar、純シリコンアノードで50%性能向上|2027年量産開始 - innovaTopia - (イノベトピア)

オランダのバッテリー材料スタートアップLeydenJarは2025年9月10日、シリコンアノード技術の製造規模拡大のため1,300万ユーロ(1,520万ドル)の資金調達を完了したと発表した。

投資家ExtantiaとInvest-NLが主導した。同社はこの資金に加え、名前を公表していない米国大手消費者向けエレクトロニクス企業からの1,000万ユーロのコミットメントを活用し、オランダのアイントホーフェンにあるPlantOneの第1段階建設を実施する。同施設は2027年に開設予定である。

LeydenJarは純シリコンアノードにより従来のグラファイトアノードに比べて50%のエネルギー密度向上を実現できると述べている。同社はプラズマ蒸着法を使用して薄い銅シート上にスポンジ状のシリコン柱を成長させる技術を採用している。この技術により450回以上の充電サイクルに耐え、容量が80%を下回るまで使用可能である。

現在、世界のリチウムイオンバッテリーとグラファイトアノードの大部分は中国で製造されている。

From: 文献リンクDutch battery startup LeydenJar’s silicon anode tech could pose a challenge to China

【編集部解説】

今回のLeydenJarの€13M資金調達は、バッテリー業界における地政学的な構造変化を象徴する重要な出来事と言えるでしょう。現在、世界のリチウムイオンバッテリー市場の約70%が中国で製造されており、これが欧米諸国にとって戦略的な懸念材料となっています。

シリコンアノード技術の核心は、従来のグラファイトに比べて理論上約10倍のリチウムイオン貯蔵容量を持つことにあります。LeydenJarが主張する50%の性能向上は、現実的な工業製品レベルでは非常に意味のある数値です。しかし、シリコンの最大の課題は充放電時の体積変化で、最大400%まで膨張することが知られています。

同社が採用するプラズマ蒸着法による「スポンジ状シリコン柱」は、この膨張問題を物理的構造で解決しようとする興味深いアプローチです。銅基板上に成長させた多孔質構造により、膨張時のストレスを分散させる仕組みは、材料科学的に合理的な設計と評価できます。

ただし、450サイクルという耐久性は現在の技術水準としては印象的ですが、自動車用途で求められる1,000サイクル以上にはまだ届いていません。これが同社が消費者向けエレクトロニクスから事業を開始する理由でもあるでしょう。スマートフォンやノートPCなど、比較的短期間で買い替えが行われる製品であれば、450サイクルでも十分実用的です。

競合企業のSilaが同様に消費者向けエレクトロニクスから事業展開を開始している点も参考になります。これは市場の検証段階から商業化段階への移行を示しており、シリコンアノード技術全体の成熟を物語っています。

2027年の量産開始予定は、バッテリー業界のタイムラインとしては比較的現実的です。特に欧州の製造拠点であるアイントホーフェンの選択は、ASML社をはじめとする半導体関連企業の集積地という地理的優位性を活用した戦略的判断と考えられます。

長期的な視点では、この技術が成功すれば欧州のバッテリーサプライチェーン構築において重要な役割を果たす可能性があります。ただし、中国企業も同様の技術開発を進めており、技術的優位性の維持が今後の課題となるでしょう。

【用語解説】

シリコンアノード
リチウムイオンバッテリーの負極(アノード)にシリコン材料を使用する技術。従来のグラファイトアノードに比べて理論上約10倍のリチウムイオン貯蔵容量を持つが、充電時に最大400%まで膨張する課題がある。

プラズマ蒸着法(PECVD)
プラズマ化学気相成長法。高周波プラズマを利用して基板上に薄膜を形成する技術。LeydenJarはこの技術で銅箔上にスポンジ状のシリコン柱構造を成長させている。

エネルギー密度
バッテリーが単位体積または単位重量あたりに蓄えられるエネルギー量。Wh/L(ワット時/リットル)やWh/kg(ワット時/キログラム)で表される。数値が高いほど同じサイズで長時間使用できる。

充電サイクル
バッテリーを0%から100%まで充電し、再び0%まで放電する一連の過程。一般的に容量が初期値の80%を下回るまでの回数で寿命を評価する。

【参考リンク】

LeydenJar Technologies(外部)
オランダに拠点を置くシリコンアノード技術開発企業の公式サイト。

Extantia(外部)
サステナブル・ディープテック分野に特化したベンチャーキャピタル。

TechCrunch(外部)
世界最大級のテクノロジー系ニュースメディア。

【参考動画】

【参考記事】

LeydenJar公式:資金調達発表(外部)
総調達額€23 millionの内訳と生産施設計画を詳細解説。

Battery Tech Association:技術実証結果(外部)
500サイクル達成と1,350 Wh/Lのエネルギー密度を報告。

IO+:技術詳細解説(外部)
Silyte™アノードの85%CO2削減効果と生産能力を解説。

【編集部後記】

今回のLeydenJarのニュースを読んで、シリコンアノード技術の実用化がいよいよ本格的に始まったという印象を受けました。皆さんの身の回りでも、スマートフォンやノートPCのバッテリー持ちがもっと良くなったらと感じることはありませんか?

450サイクルという数値は現実的な消費者向けデバイスには十分実用的で、実際に私たちの手元に届く日もそう遠くないかもしれません。一方で、自動車用途にはまだハードルがあることも事実です。

この技術が普及していく過程で、どんな製品から変化を実感できるようになると思いますか?また、バッテリー技術の進歩によって、皆さんの生活や仕事のスタイルはどのように変わっていくでしょうか。テクノロジーの進歩を一緒に見守っていきましょう。

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Ami
テクノロジーは、もっと私たちの感性に寄り添えるはず。デザイナーとしての経験を活かし、テクノロジーが「美」と「暮らし」をどう豊かにデザインしていくのか、未来のシナリオを描きます。 2児の母として、家族の時間を豊かにするスマートホーム技術に注目する傍ら、実家の美容室のDXを考えるのが密かな楽しみ。読者の皆さんの毎日が、お気に入りのガジェットやサービスで、もっと心ときめくものになるような情報を届けたいです。もちろんMac派!

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