MIT・ボストン小児病院が開発「Fetal SMPL」胎児の3D形状を高精度予測

MIT・ボストン小児病院が開発「Fetal SMPL」胎児の3D形状を高精度予測 - innovaTopia - (イノベトピア)

MIT計算機科学・人工知能研究所(CSAIL)、ボストン小児病院(BCH)、ハーバード医科大学が「Fetal SMPL」という機械学習ツールを開発した。

このツールは胎児の3D形状とポーズを正確にモデル化する技術で、成人向け3Dモデル「SMPL」を胎児用に適応させたものである。2万件のMRIボリュームを学習データとして使用し、23個の関節を持つ運動連鎖を内部に組み込んでいる。

妊娠24〜37週の胎児MRIデータセットでテストした結果、平均誤差は約3.2ミリメートルという高精度を実現した。これは既存の乳児成長モデル「SMIL」を75%縮小したベースラインと比較して、優れた性能を示したことになる。

筆頭著者はMIT博士課程のYingcheng Liu氏で、研究チームには同大学のPeiqi Wang氏、Sebastian Diaz氏、Polina Golland教授らが参加している。研究は米国国立衛生研究所とMIT CSAIL-Wistronプログラムの支援を受け、9月の国際会議MICCAIで発表予定である。

From: 文献リンクMachine-learning tool gives doctors a more detailed 3D picture of fetal health

【編集部解説】

このFetal SMPLという技術は、医療現場における画像診断の根本的な課題を解決する可能性を秘めています。従来の胎児MRI画像は3D体積データとして取得されるものの、私たちの視覚システムが内部構造まで映し出す包み込むような3D画像の処理に慣れていないため、医師にとって解釈が困難で、診断に必要な精密な測定や比較分析が限られていました。

今回の研究で注目すべきは、コンピュータグラフィックス分野で確立されたSMPLモデルを医療分野に応用した点です。成人の体型モデリング技術を胎児という全く異なる対象に適用することで、従来不可能だった胎児の動的な姿勢変化の予測と形状の正確な把握が実現されています。

技術的な革新性は、23個の関節を持つ運動連鎖システムにあります。これにより胎児の複雑な動きを数学的にモデル化し、子宮内という制約された環境での姿勢変化を予測できるようになりました。平均3.1ミリメートルという精度は、胎児の発育異常の早期発見や治療計画の策定において大きな意味を持ちます。

一方で、現在のシステムは表面的な形状分析に限定されており、内臓器官の詳細な評価には対応していません。研究チームも認めているように、肝臓や肺の発達状況など、より深い診断情報を得るためには技術の拡張が必要です。

この技術が実用化されれば、産科医療における診断精度の向上だけでなく、胎児期から新生児期、さらには成人期まで一貫した人体モデルでの追跡調査が可能になります。これは発達障害先天性疾患の理解を深める上で極めて重要な進歩といえるでしょう。。

【用語解説】

SMPL(Skinned Multi-Person Linear model)
成人の体型と姿勢を3次元でモデル化するコンピュータグラフィックス技術。人体の形状変化や動きを数学的に表現することで、アニメーションやVR分野で広く活用されている。

MRI(磁気共鳴画像法)
強力な磁場と電波を使用して体内の詳細な画像を撮影する医療技術。X線を使用しないため胎児への被曝リスクがなく、軟部組織の観察に優れている。

運動連鎖(キネマティックツリー)
人体の骨格構造を関節でつながった連鎖として数学的に表現する手法。ロボット工学や3Dアニメーションで物体の動きを制御する際に使用される基本概念である。

MICCAI
医用画像コンピューティングとコンピュータ支援介入に関する国際会議。医療AI分野における最も権威ある学術会議の一つで、毎年最新の研究成果が発表される。

【参考リンク】

MIT Computer Science and Artificial Intelligence Laboratory (CSAIL)(外部)
マサチューセッツ工科大学の計算機科学と人工知能研究を統括する研究所

Boston Children’s Hospital(外部)
1869年に設立された米国最大級の小児専門病院で胎児・新生児医療分野で高評価

Harvard Medical School(外部)
1782年設立の米国最古の医学部の一つで世界トップクラスの医学教育研究機関

【参考記事】

Fetuses Made Simple: Modeling and Tracking of Fetal Shape and Pose(外部)
MIT研究チームによる原著論文。19,816件のMRIボリュームを用いた胎児3Dモデル開発の詳細

【編集部後記】

AIや新しい医療技術が、これまで想像もしなかった未来を私たちにもたらそうとしています。もし胎児の成長や健康状態を「3次元」で見守れたら、どんな変化が社会や家族のかたちに現れるのでしょうか。

みなさんはこの技術が生まれることで、社会やご自身の価値観にどのような影響があると考えますか?進化し続ける医療と人間の関係について、ぜひ皆さんの声やご意見も聞かせていただけたら嬉しいです。

投稿者アバター
omote
デザイン、ライティング、Web制作を行っています。AI分野と、ワクワクするような進化を遂げるロボティクス分野について関心を持っています。AIについては私自身子を持つ親として、技術や芸術、または精神面におけるAIと人との共存について、読者の皆さんと共に学び、考えていけたらと思っています。

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