日産は2025年10月22日、横浜で車載用太陽光発電システム「Ao-Solar Extender」を発表した。
このシステムは軽EV「日産サクラ」のプロトタイプに搭載され、ジャパンモビリティショー2025の「City Lifeゾーン」で公開される。社内開発されたこのルーフ搭載型システムは、停車時にパネルが伸長し、発電能力を約500ワットまで高める。
これにより、年間で最大3,000km相当の走行に必要な電力を発電する。このコンセプトは、2021年の日産社内アイデアコンテストから生まれたもので、将来の市販化が計画されている。
日産サクラは2022年度から2024年度まで日本国内のEV販売台数で1位を記録している。
From:
Nissan’s Sakura gets a solar boost: Introducing the ‘Ao-Solar extender’
【編集部解説】
今回は、日産が発表した軽EV「サクラ」向けの新しい太陽光発電システム「Ao-Solar Extender」について深掘りしていきましょう。単なる「ソーラーパネル付きのクルマ」という話ではありません。これは、私たちの移動とエネルギーの関係性を根底から変える可能性を秘めた、非常に興味深い一歩です。
この技術の核心は、「伸長式」である点にあります。これまでの車載ソーラーパネルは、限られたルーフ面積でしか発電できず、得られる電力は限定的でした。しかし「Ao-Solar Extender」は、停車時にパネルをスライドさせて面積を広げることで、発電能力を約500ワットまで高めます。これは、EVが抱える「充電の手間」という課題に対する、日産ならではの独創的な回答と言えるでしょう。
年間最大3,000km分を太陽光で賄えるという数字は、大きなインパクトを持ちます。特に「サクラ」のような軽EVの主な用途が、買い物や送迎といった日常の短距離移動であることを考えると、多くのユーザーは「充電のためにコンセントを探す」という行為から解放されるかもしれません。クルマが自らエネルギーを生み出し、日々の移動を支える。まさに「エネルギーの地産地消」を、個人の移動手段で実現する試みです。

もちろん、良い側面ばかりではありません。この技術が市販化される際には、いくつかの課題も考えられます。まず、コストの問題です。精密な伸長機構を持つソーラーパネルは、車両価格を押し上げる要因になり得ます。価格競争の厳しい軽自動車セグメントで、この付加価値が消費者にどう受け入れられるかは、重要なポイントとなるでしょう。
また、可動部分を持つことによる耐久性やメンテナンス性も気になるところです。風雨や経年劣化に対して、どの程度の堅牢性が確保されるのか。そして、「年間3000km」という数値はあくまで理想的な条件下での試算であり、実際の発電量は天候や駐車環境に大きく左右されるという現実も理解しておく必要があります。
しかし、長期的な視点で見れば、この挑戦の意義は非常に大きいと言えます。これは、自動車を単なる「移動手段」から、「移動するエネルギー拠点」へと進化させる試みです。普段は移動のための電力を自給し、災害時にはスマートフォンを充電したり、最低限の電力を供給したりする非常用電源にもなり得ます。クルマが社会インフラの一部としての役割を担う未来像が、より具体的に見えてきます。
「Ao-Solar Extender」は、日産が2021年の社内コンテストからアイデアを育て上げたプロジェクトです。一人のエンジニアの着想が、企業の未来戦略と結びつき、具体的な形となって世に出る。こうしたイノベーションのプロセス自体が、私たちの未来への期待を膨らませてくれます。この技術が今後どのように進化し、私たちの生活に溶け込んでいくのか、注目していきたいと思います。
【用語解説】
軽EV
日本の自動車規格である「軽自動車」に分類される電気自動車(EV)である。税金や保険料の面で優遇措置がある。日産サクラはこの軽EVの代表的な車種だ。
プロトタイプ
コンセプトやプロセスを検証するために作られる初期の試作品やモデルを指す。「Ao-Solar Extender」は現在この段階にある。
電力網(グリッド)
発電所から消費者へ電力を供給するための相互接続されたネットワークである。「Ao-Solar Extender」は、この電力網への依存を低減することを目的の一つとしている。
Re:Nissan
日産が掲げる、技術革新と顧客体験の向上に重点を置いた中期経営計画の名称である。
【参考リンク】
日産自動車株式会社 グローバルサイト(外部)
日産の公式グローバルサイト。「Ao-Solar Extender」など持続可能性への取り組みや企業ビジョンに関する情報を提供。
日産サクラ ニュースチャンネル(外部)
日産サクラの公式ニュースページ。「Ao-Solar Extender」のベース車両であるサクラの詳細や最新情報を掲載。
Ao-Solar Extender システムコンセプト(外部)
「Ao-Solar Extender」のコンセプトと開発ストーリーを詳述した日産の公式ページ。アイデアの原点を解説。
一般社団法人 日本自動車工業会(JAMA)(外部)
日本の自動車産業の業界団体。ジャパンモビリティショーを主催し、「Ao-Solar Extender」のプロトタイプが展示される。
【参考動画】
【参考記事】
Nissan’s EV solar roof can add 1800 miles of free driving per year(外部)
年間1,800マイル(約3,000km)の航続距離を追加する能力を強調し、充電が不要になる可能性について論じている。
Nissan made a nifty solar panel system for its Sakura EV(外部)
伸長式パネルの革新的なデザインに焦点。発電量を高める仕組みや車内温度の上昇を抑制する効果についても解説。
Nissan Turns Sunlight Into Free Miles With Its Smart EV Charger(外部)
日常の短い移動が主体のオーナーにとって、充電が過去のものになる可能性を提示。災害時の非常用電源機能にも言及。
Nissan Adds Solar Roof To Sakura EV(外部)
この技術の環境・持続可能性の側面に焦点を当てた分析。日産の広範なESG目標との連携について解説している。
【編集部後記】
「Ao-Solar Extender」のニュース、いかがでしたか。クルマが自らエネルギーを生み出し、私たちの生活を支える。そんな未来が、少しだけ現実味を帯びてきたように感じますね。
もし皆さんの愛車が、晴れた日に駐車しておくだけで次のドライブの準備を整えてくれるとしたら、カーライフはどのように変わるでしょうか。そして、この「移動する発電所」という考え方が、私たちの社会にどのような新しい可能性をもたらすのか。ぜひ、皆さんの自由な発想を聞かせてください。























