D-Wave:「Qubits Japan 2025」日本にて開催ー日本は量子技術の先進国になりうるのか?

[更新]2025年8月15日14:40

 - innovaTopia - (イノベトピア)

2025年9月17日、東京にてD-Wave Quantum Inc.の「Qubits Japan 2025」が開催される。これは、単なる技術カンファレンスを超えた歴史的意義を持つイベントである。このカンファレンスは、日本発の理論が世界初の商用量子コンピュータとして結実し、再び日本の地で新たな展開を迎える象徴的な瞬間を表している。

カンファレンスは「Quantum Realized(量子の実現)」がテーマとして掲げられており、D-wave Quantumが具体的なビジネスにおいても価値を提供していることを、各国の業界のリーダーたちによるプレゼンテーションによって発表が行われる。

このイベントは、「D-waveのアジア太平洋地域における受注額が過去1年で83%増加したことを受けて(公式HPより)」、開催される。

From: D-Wave、日本での初の量子コンピューティングユーザー会議「Qubits Japan 2025」開催

下記:D-wave社公式ホームページにて

【編集部解説】

D-Wave:量子コンピューティング商用化の開拓者

D-Waveは、量子コンピューティング業界において独特の地位を築いてきた企業です。2011年に世界初の商用量子コンピュータ「D-Wave One」を発表し、128量子ビットのチップセットを搭載したアニーリング型システムを実用化しました。初の顧客となったのはロッキード・マーティン社で、同社の「最も困難な計算問題」の解決を目指しました。

https://internet.watch.impress.co.jp/docs/news/605845.html(インプレス)

D-Waveの真価が世界的に認知されたのは、2015年のNASAとの共同研究です。NASAの量子コンピュータが従来のコンピューターチップより1億倍高速に問題を解決し、量子優位性の実証に成功しました。

https://research.google/blog/when-can-quantum-annealing-win(Google blogにて)

この成果は、GoogleとNASA、Universities Space Research Association(USRA)によるQuantum Artificial Intelligence Lab(QuAIL)において2,048量子ビットのD-Wave 2000Q™システムとして発展し、量子コンピューティングの実用性を決定的に証明しました。

日本発理論と世界展開:量子アニーリングの原点回帰

今回の「Qubits Japan 2025」開催の背景には、深い理論的な意義があります。D-Waveの中核技術である量子アニーリングは、1998年に西森秀稔氏と門脇正史氏が提唱した日本発の理論に基づいています。

この動画では量子アニーリングの誕生秘話について語られています。

この理論が13年の時を経て商用システムとして結実し、さらに14年後の2025年に理論発祥の地で新たな展開を議論する──これは科学技術史上稀有な循環的発展といえるでしょう。

カンファレンスで発表される実用事例は、この理論の社会実装が本格化していることを示しています。日本たばこ産業(JT)との創薬分野での協働では、量子コンピュータと生成AIを組み合わせ、従来の学習データを超える分子生成に成功しています。また、NTTドコモの全国基地局最適化プロジェクトでは、ピーク時のページング信号を15%削減する実績を上げ、通信インフラの効率化を実現しました。

国際的な量子会議が日本で開催される意義

量子コンピューティング分野における国際会議の日本開催は、この国の技術的地位向上を物語っています。国際的な場として、QuemixとQCWareが主催するQ2B Tokyo会議が2025年5月に開催されました。アジア太平洋地域における量子技術エコシステムの活性化を牽引していることも、日本が量子技術のハブとして機能し始めていることを示しています。

D-Waveの「Qubits Japan 2025」は、こうした国際的な量子会議開催の流れの中で、特に商用実装と産業応用に焦点を当てた独自の価値を提供します。理論研究からビジネス応用まで、量子技術の全段階において日本が重要な役割を果たしていることを内外に示す機会となります。

日本の量子技術における戦略的優位性

日本は現在、量子技術分野で他国に対する複数の優位性を保持しています。第一に、量子アニーリング理論の発祥国として理論的基盤を有していること。第二に、産業技術総合研究所(産総研)の量子・AI融合技術研究開発センター「G-QuAT」や、政府による635億円の量子技術予算など、研究開発インフラが整備されていることです。

https://www.aist.go.jp/aist_j/magazine/20250611.html(G-QuATについては産総研マガジンについて詳しい説明が公式よりなされています。)

さらに注目すべきは、国産量子コンピュータの開発が進んでいることです。NTTの光量子技術、富士通やNECの超電導方式など、多様なアプローチで独自技術を確立しています。これらの技術が今回のD-Waveカンファレンスで議論される実用事例と相互作用することで、日本発の量子技術エコシステムが形成される可能性が高いといえます。

2025年7月28日に大阪大学は、チップ、制御装置、冷凍技術まで、すべて国内の企業で内製化した日本初の純国産量子コンピュータを稼働させました。この量子コンピュータは、8月14日から万博にて、来場者がクラウド接続することで実際の量子技術を体験できるようになっています。

https://qiqb.osaka-u.ac.jp/newstopics/pr20250728(大阪大学プレスリリースより)

技術大国再興への展望

「Qubits Japan 2025」は、日本が「量子理論大国」から「量子実装大国」へと転換する歴史的な転換点に位置しています。1998年の理論提唱から2011年の世界初商用化、2015年の量子優位性実証、そして2025年の産業実装拡大──この27年間の軌跡は、基礎研究から社会実装までの理想的な技術発展サイクルを体現しています。

今回のカンファレンスは、日本の量子技術が国際競争において単なる追従者ではなく、理論創出から商用化、そして次世代技術開発までを一貫して主導できる潜在能力を持つことを証明する場となるでしょう。量子アニーリング理論の発祥地で開催される「Qubits Japan 2025」は、日本の技術大国再興における象徴的なマイルストーンとして、長く記憶されることになるかもしれません。

【用語解説】

量子アニーリング:量子の揺らぎ(トンネル効果など)を使い、組合せ最適化問題を効率的に解く計算方式。

組合せ最適化問題:選択肢の組み合わせから最適解を決定する課題。流通やスケジュール最適化、創薬にも用いられる。

JT(日本たばこ産業):医薬分野でAIや量子の活用を推進。2025年からD-Waveと量子AI創薬に取り組む。

Advantage2:D-Waveの最新アニーリング型量子マシン。4,400量子ビット超と20方向接続性が特徴。

【参考リンク】

Advantage2 公式製品ページ(外部)4,400量子ビット超・20方向接続を持つアニーリング型量子マシンの公式解説ページ。

JTとD-Waveの量子創薬(外部)JTとD-WaveがAI+量子技術で進める創薬PoCとパイロット開始に関する公式発表ページ。

NTTドコモとD-Waveの量子最適化導入(外部)NTTドコモによる基地局混雑15%軽減や全国展開に関する導入レポート。

【参考記事】

D-Wave社とJT社、量子AIを活用した創薬プロジェクトを完了(外部)量子ハイブリッドAIによる新分子生成とJT×D-Waveの創薬プロジェクト成果解説。

D-Wave、4400キュービット以上のAdvantage2プロセッサ発表(外部)新技術トポロジーや前世代比の性能向上ポイントを具体的に示した技術記事。

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野村貴之
理学と哲学が好きです。昔は研究とかしてました。

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