カリフォルニア大学、3Dプリンターを用いたイオントラップ小型化を実現ー量子コンピュータ研究加速か

[更新]2025年9月8日10:51

 - innovaTopia - (イノベトピア)

量子コンピュータの小型化に向けて、カリフォルニア大学とローレンス・バークレー国立研究所の研究者が2025年9月3日にNatureに研究成果を発表した。高解像度3Dプリンティング技術である二光子重合(2PP)を用い、Nanoscribe製の3Dプリンターでサファイア基板上に3Dイオントラップを形成し、金またはアルミニウムで金属コーティングした。これにより複雑な構造の小型イオントラップの大規模配列を作製し、2〜24 MHzのラジアル・トラップ周波数でカルシウムイオンの閉じ込めに成功した。2キュービットゲートにおいてベル状態忠実度0.978±0.012を達成した。設計した3Dイオントラップは従来のマクロ3Dトラップやサーフェストラップの約4倍のトラップ周波数を実現した。 

from: https://phys.org/news/2025-09-3d-micro-ion-quantum-tech.html

元論文DOI: DOI: 10.1038/s41586-025-09474-1

【編集部解説】

3Dプリンティングを利用したイオントラップ技術の進展は、量子コンピュータの小型化と大規模化に革新をもたらす可能性があります。従来のイオントラップは、機械加工やマイクロファブリケーションによる構造の制約から、集積度やスケーラビリティに限界がありましたが、今回の研究では二光子重合を活用することで、数百ミクロン単位の微細で複雑な立体構造のトラップ作製が現実となりました。

イオントラップ方式は、Qubitcore(日本)やIONQ(海外)が先駆的に開発しており、その特徴は自然界のイオンのエネルギー準位をそのまま量子ビットとして用いる、いわば「自然の摂理」を最大限に活用している点です。この結果、長いコヒーレンス時間や高精度な量子ゲート制御を実現しやすい特性があります。一方、超伝導方式など他のアーキテクチャと比べてゲート動作が遅いですが、高い忠実度や全結合構造による柔軟な量子アルゴリズムへの適用力で優位性を持ちます。

今回の3Dプリンティングの導入によって、古典コンピュータを飛躍的に高度化した集積回路技術のように、量子コンピュータでも複雑で高密度な集積化が現実味を帯びてきます。今後はさらに光共振器の組み込みや高性能モジュールの光ネットワーク接続など、独創的な新設計が加速しそうです。

この進化は、量子計算の計算規模・速度・信頼性を大きく引き上げるのみならず、誤り訂正型の大規模商用量子コンピュータへの道を拓く可能性があります。一方で、大量生産化に伴う歩留まりやコスト、不純物・欠陥によるノイズのコントロールといった新たな課題も見込まれます。規制や標準化への配慮も今後重要になっていくでしょう。いずれにせよ、この動向は「量子計算の大規模展開が見えてきた」と言える重要な進展といえます。

【用語解説】

・イオントラップ
真空中にイオンを電場で閉じ込めて量子ビットとして利用する方式。長時間安定した量子状態を提供できる。
・二光子重合(2PP)
2つの光子を同時に吸収させて樹脂を硬化させる高精度3Dプリンティング技術。微小・複雑な造形が可能
・キュービット(Qubit)
量子ビット。量子コンピュータの情報単位。0と1の重ね合わせ状態を持つ。

【参考リンク】

・IONQ
https://ionq.com/
イオントラップ型量子コンピュータ開発を主導する米企業で、クラウド上などでもサービス展開中。
・Qubitcore
https://qubitcore.co.jp/
日本発のイオントラップ型量子コンピュータ開発スタートアップで、分散型量子ネットワーク構想も進める。

投稿者アバター
野村貴之
理学と哲学が好きです。昔は研究とかしてました。

読み込み中…
advertisements
読み込み中…