Nike、世界初の電動フットウェア「Project Amplify」公開|e-bike的アシスト機構で移動を拡張

 - innovaTopia - (イノベトピア)

Nikeが発表した世界初のpowered footwear system(パワードフットウェアシステム)「Project Amplify」は、歩行・ランニングをサポートするロボティクス技術を搭載した新型シューズだ。軽量の足首ブレース内部にモーター、駆動ベルト、バッテリーが組み込まれ、歩行速度を向上させる。Dephyとの共同開発で、競技用ではなく日常の移動支援を目的に設計されている。

From: 文献リンクNike says its first ‘powered footwear’ is like an e-bike for your feet | The Verge

【編集部解説】

Nikeの「Project Amplify」は突発的な発明ではなく、2016年のNike HyperAdapt 1.0から始まる「靴の電動化」への長い旅の延長にあります。当時HyperAdaptは、センサーとモーターを用いて靴ひもを自動調整する“power-lacing(パワーレーシング)システム”を実現しました。これは映画「バック・トゥー・ザ・フューチャー Part II」で描かれた「自己調整型スニーカー」を現実化した初の市販モデルであり、Nikeのテクノロジー志向を決定づけた象徴的な瞬間でした。

その進化系が2019年のNike Adapt BBです。バスケットボールという動的な競技で、アプリ連動によるFitAdapt技術を搭載し、プレイ中にワンタップでフィットを最適化できるスマートシューズとして登場しました。この段階でNikeはすでに「シューズをIoTデバイスとして扱う」発想を具現化しており、靴がスマートフォンと通信しアップデートを受けるという新しいカテゴリを生み出しました。

そして2025年のProject Amplifyは、その“知能化”から“駆動化”への進化です。これまでのモデルが「足に合わせる靴」だったのに対し、Amplifyは足の動きを「補う靴」へと機能を拡張しています。Dephyとの共同開発により、足首アシスト用のモーター、駆動ベルト、そしてバッテリーカフを融合。単体でのスニーカー性能と、ロボティクス支援の両立を果たしました。このシリーズを貫くテーマは、Nikeが語る“augmentation(拡張)”への着実な歩みです。

技術的側面では、Project AmplifyのアルゴリズムはNike Sport Research Labのデータを基に歩行サイクルを最適化し、足首の自然な動きをなぞるように推進力を補助します。これにより、体格や年齢差を問わず移動効率を均質化できる可能性があります。つまり、Amplifyはスポーツ工学の延長線に位置するだけでなく、「歩行者の補助」や「リハビリ支援」といった社会的文脈にも応用できるテクノロジーです。

もしHyperAdaptが「靴をスマート化した」第一歩であり、Adapt BBが「運動データを扱う靴」だとすれば、Project Amplifyは「身体の一部として動く靴」と言えます。これは、筋力やバランスの個人差を平準化し、将来的には高齢者や身体的制約を持つ人々の移動支援デバイスとなる可能性を示唆しています。たとえば自動車で言えばパワーステアリング、e-bikeで言えばペダルアシストのように、身体の“出力”を支援する層を靴が担う世界です。

それでも、Nikeがこの分野に挑む意味は大きい。HyperAdapt以来の「人と機械の境界を曖昧にするデザイン思想」はついに動的領域に入り、靴という極めて日常的なアイテムを、身体拡張のインターフェースとして再定義しています。Project Amplifyは、スポーツメーカーではなくテクノロジーカンパニーとしてのNikeの未来像を象徴するプロジェクトであり、「靴を履く」行為そのものを次の相へ進める試みなのです。

【用語解説】

powered footwear system(パワードフットウェアシステム)
動力装置を内蔵し、モーターやセンサーによって歩行や走行をアシストする靴のシステム。Nikeはこれを世界初として発表した。

neuroscience-based footwear(神経科学ベースのフットウェア)
Nikeが開発中の、神経信号解析を活用して履く人の身体動作に最適化された新世代シューズ。

【参考リンク】

Nike公式サイト(日本)(外部)
Nikeの日本公式オンラインストア。最新のシューズ、ウェア、アクセサリーのほか、イノベーション製品の発売情報、メンバーシップ特典、ストア情報などを掲載。Project Amplifyを含む革新的なプロダクトの最新情報が随時更新される。

【参考動画】

【参考記事】

Gigazine:ナイキが初の電動フットウェア「Project Amplify」を発表(外部)
公式リリースをもとに、技術仕様と開発経緯を日本語で解説。

Running Magazine:Nike unveils e-bike concept for runners(外部)
「足のためのe-bike」という概念に注目し、ランナーの視点で技術的意義を紹介。

WIRED:Nike’s Robotic Shoe Gets Humans One Step Closer to the Future(外部)
Project Amplifyをロボティクスとヒューマンオーグメンテーションの視点から分析した記事。

【編集部後記】

Project Amplifyは移動の概念を変えるテクノロジーとして脚光を浴びています。移動効率を高める一方で、運動そのものの意味はどう変化するのか。Nikeがアスリートの定義を広げる今、私たちは「歩く」「走る」という行為をどう再定義していくべきなのでしょうか。その答えは、次にどんな靴を履くかに現れるのかもしれません。

(画像はナイキ公式サイトより引用)

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乗杉 海
SF小説やゲームカルチャーをきっかけに、エンターテインメントとテクノロジーが交わる領域を探究しているライターです。 SF作品が描く未来社会や、ビデオゲームが生み出すメタフィクション的な世界観に刺激を受けてきました。現在は、AI生成コンテンツやVR/AR、インタラクティブメディアの進化といったテーマを幅広く取り上げています。 デジタルエンターテインメントの未来が、人の認知や感情にどのように働きかけるのかを分析しながら、テクノロジーが切り開く新しい可能性を追いかけています。 デジタルエンターテインメントの未来形がいかに人間の認知と感情に働きかけるかを分析し、テクノロジーが創造する新しい未来の可能性を追求しています。

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