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強誘電体 HZO が切り開く GaN トランジスタ新時代

強誘電体 HZO が切り開く GaN トランジスタ新時代 - innovaTopia - (イノベトピア)

カリフォルニア大学バークレー校のサイーフ・サラフディン教授らは、ハフニウム酸化物とジルコニア酸化物で構成する厚さ1.8ナノメートルの強誘電体HZO層をガリウムナイトライド高電子移動度トランジスタ(GaN HEMT)のゲート絶縁体に採用し、負性容量効果を利用してショットキー限界を突破したとScience誌(2025年7月28日付)で報告した。

電圧低下時に電荷が増えるHZOの特性により、オン状態電流の大幅向上とオフ時の漏れ電流抑制を同時に実現した。

研究にはスタンフォード大学が協力し、カリフォルニア大学サンタバーバラ校のウメシュ・ミシュラ教授が有用性を評価している。チームは産業界と連携し、高周波GaNデバイスでの実証を進める計画だ。

From: 文献リンクFerroelectric Helps Break Transistor Limits

【編集部解説】

負性容量は「電圧を下げると電荷が増える」という一見矛盾した現象です。この性質がゲート電圧を”増幅”し、絶縁層を厚くしてもトランジスタの制御性を失わない――つまりショットキー限界を無効化します。

GaN HEMTは5G基地局やレーダーなど高周波用途の要となる半導体ですが、これまで「漏れ電流を抑えると出力が落ちる」トレードオフが解消できませんでした。HZOを導入すると、絶縁と高出力を両立できるため、通信インフラやパワーエレクトロニクスの効率改善に直結します。

今回の成果は2007年に提唱された理論の集大成であり、負性容量をシリコン以外の化合物半導体へ展開できることを示しました。将来的にはGaNだけでなく、炭化ケイ素やダイヤモンドなど超広帯域幅半導体にも応用可能とみられます。課題は製造プロセスの複雑さと長期信頼性です。温度・電圧ストレス下での特性変動や、微細化時の結晶欠陥管理が実用化のハードルになります。

規制面では、より高効率な高周波デバイスが実現すると周波数帯域の利用効率が向上し、通信機器の設計基準や電波行政にも影響が及ぶでしょう。ムーアの法則の陰りが指摘されるなか、本技術は「新しい物性で限界を超える」アプローチとして、半導体産業の次なる成長軌道を切り拓く可能性があります。今後5〜10年での量産化動向を注視したいところです。

【用語解説】

負性容量
電圧低下で電荷が増える現象。ゲート電圧を実質的に増幅できる。

ショットキー限界
GaN HEMTにおいて、漏れ低減とゲート制御性向上が両立できない物理的制約。

強誘電体
外部電場がなくても自発分極を保持する材料。HZOはその一種。

2D電子雲
GaN/AlGaN界面に形成される高移動度電子層で、高速スイッチングを可能にする。

HEMT
High Electron Mobility Transistorの略。高速・高周波動作が特長。

Science誌
AAASが発行する権威ある総合科学誌。

【参考リンク】

カリフォルニア大学バークレー校(外部)
世界有数の公立研究大学。今回の研究を主導。

スタンフォード大学(外部)
シリコンバレーの中心に位置する私立研究大学。共同研究に参加。

カリフォルニア大学サンタバーバラ校(外部)
材料科学と電子工学で知られる研究大学。ミシュラ教授が所属。

デューク大学(外部)
米ノースカロライナ州の私立総合大学。フランクリン教授がコメント。

Renesas(GaNデバイス)(外部)
GaNパワー半導体を量産する日本企業。

【参考動画】

【参考記事】

Scientists Break GaN HEMT Limits Using Novel Gate Dielectric(外部)Compound Semiconductorが負性容量HZOによるGaNデバイス性能向上を詳述。

Negative Capacitance Overcomes Schottky-Gate Limits in GaN(外部)
研究グループが投稿したarXivプレプリント。実験詳細と電気特性データを公開。

Researchers Capture an Image of Negative Capacitance in Action(外部)
2019年UC Berkeleyが負性容量の直接観測に成功した研究を紹介。

【編集部後記】

今回のUC Berkeleyによる負性容量技術、そして先月お伝えした東京大学のガリウムドープ酸化インジウム開発——改めて振り返ると、日本の半導体研究力の底力を感じずにはいられません。

米国が物理的制約を「回避」する革新を見せる一方で、日本は材料そのものを「置き換える」根本的アプローチで挑戦しています。どちらも次世代半導体の扉を開く鍵となる技術です。特に日本の研究は、シリコンの限界を素材レベルで超越しようとする野心的な取り組みで、これこそ日本らしい「ものづくり」の真髄と言えるでしょう。

太平洋を挟んで繰り広げられるこの技術競争——皆さんはどちらのアプローチがより早く実用化に到達すると思いますか?そして、両技術が融合したとき、私たちの手にする未来のデバイスはどんな姿になっているのでしょうか。日本の半導体技術の未来に、ぜひ一緒に期待を寄せていきましょう。

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TaTsu
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