カリフォルニア工科大学(カルテック)の研究チームが、光帆技術の性能測定に関する重要な進展を2025年2月に発表した。
主な要点は以下の通り
- 研究場所:カリフォルニア工科大学(Caltech)応用物理学・材料科学研究室
- 研究責任者:ハリー・アトウォーター教授
- 実験内容:シリコンナイトライド製の超薄膜(厚さ50ナノメートル)を使用し、レーザー光による放射圧の測定に成功
- 技術的背景:光の放射圧を利用して宇宙船を推進する技術の開発
- 関連する実績:NASAは2024年に80平方メートルの太陽光帆の軌道上展開に成功
この研究は、恒星間飛行が可能な小型探査機の開発に向けた基礎技術となる。光帆に求められる主な要件は以下の3点
- 高温に耐える耐熱性
- 圧力下での形状維持能力
- レーザービーム軸上での安定した航行能力
この技術は、将来的な宇宙探査における新しい推進方式として期待されている。
from:Lightsail space tech gets tailwind from Caltech breakthrough
【編集部解説】
この研究の重要性は、これまで理論上のみで語られてきた光帆推進システムを、実験室レベルで実証した点にあります。研究チームは、わずか50ナノメートルという極めて薄い膜に対するレーザー光の放射圧を、ピコメートル単位という超高精度で測定することに成功しました。
特筆すべきは、この研究がBreakthrough Starshot Initiativeの一環として行われていることです。このプロジェクトは2016年に故スティーヴン・ホーキング博士とユーリ・ミルナー氏が立ち上げ、光速の20%という驚異的な速度で宇宙船を航行させることを目指しています。
実用化への道のりはまだ遠いものの、この技術が実現すれば、最も近い恒星系であるアルファ・ケンタウリまでわずか20年で到達できる可能性があります。これは現在の化学推進ロケットでは到底達成できない速度です。
しかし、実用化に向けては多くの技術的課題が残されています。特に重要なのは以下の3点です:
- 高出力レーザーによる熱に耐える材料開発
- 極限環境下での形状維持能力
- レーザービームに対する安定した航行制御
今回の研究成果は、これらの課題解決に向けた重要な一歩となります。研究チームは40マイクロメートル四方の極小の「トランポリン」のような構造体を作成し、アルゴンレーザーを照射して放射圧を測定することに成功しました。
将来的には、この技術を応用して10平方メートルの実用サイズの光帆の開発を目指しています。これが実現すれば、従来の宇宙探査の概念を根本から変える可能性を秘めています。
ただし、現状では減速機能がないため、目的の恒星系での詳細な探査は困難という課題もあります。これは今後の技術開発で解決していく必要がある重要なポイントとなるでしょう。
この研究は、人類の宇宙進出の新たな可能性を示すものであり、将来的な深宇宙探査や星間航行の実現に向けた重要な一歩となることが期待されます。