Last Updated on 2025-08-05 18:40 by まお
火星着陸から13年を迎えたNASAのCuriosityローバーが、自律性とマルチタスク能力を獲得した。エンジニアたちがこれらの機能を実装することで、多目的放射性同位体熱電発電機(MMRTG)のエネルギー効率が向上している。
現在Curiosityは、高さ3マイル(5キロメートル)のマウント・シャープにあるボックスワーク地層を調査中だ。数十億年前の地下水によって形成されたこの地質構造は、古代火星の生命探査において重要な意味を持つ。2025年7月24日、ミッション4,608火星日目にサンゴ状の岩石を観察した。
過去のSpirit、Opportunity、InSightが太陽光発電に依存していたのに対し、CuriosityとPerseveranceはプルトニウムペレット使用のMMRTG核動力源を採用。この技術は1977年以来Voyager宇宙船でも使用されている。2021年からJPLエンジニアが複数タスクの同時実行研究を開始し、火星で実証に成功。10~20分の節約でも長期的に大きな効果をもたらす。
Curiosityは22マイル(35キロメートル)を走行済み。JPLはカリフォルニア州南部にありCaltechが管理、Reidar Larsenが新能力開発チームを率いた。
From:
Marking 13 Years on Mars, NASA’s Curiosity Picks Up New Skills
【編集部解説】
火星探査の新たな局面を迎えたCuriosityローバーの進化は、宇宙探査における持続可能性とエネルギー効率の重要性を浮き彫りにしています。13年という長期運用の中で培われた知見が、ローバーの自律性向上とマルチタスク機能の実現につながったのです。
この技術革新の背景には、プルトニウム238を燃料とするMMRTG(多目的放射性同位体熱電発電機)の出力低下という現実的な課題があります。MMRTGはプルトニウムの放射性崩壊とともに出力が徐々に低下し、Curiosityが搭載する10の科学機器、複数のカメラ、通信装置、電子部品を暖める加熱システムなど全ての電力需要を満たす必要があります。
注目すべきは2021年から実装された「マルチタスク機能」です。従来は軌道船との通信、運転、ロボットアーム操作、撮影を順次実行していましたが、現在はこれらを同時実行できます。さらに「自律昼寝機能」により、予定より早くタスクを完了した場合は自動的に休眠状態に入り、次の活動前の充電時間を短縮します。これらの改良により、1回の活動で10~20分の節約が実現され、長期的にはMMRTGの運用寿命を大幅に延長できます。
Curiosityが現在調査している高さ3マイル(5キロメートル)のマウント・シャープにあるボックスワーク地層は、火星の生命探査において極めて重要な意味を持ちます。数十億年前の地下水によって形成されたこれらの硬化した隆起は、火星が乾燥化した後も地下に水が存在していた証拠であり、微生物生命の生存可能性を示唆しています。このような発見は、将来の人類の火星探査において地下水資源の利用可能性を示すものです。
技術的観点から見ると、CuriosityのMMRTG技術は1977年から運用されているVoyager探査機と同系統の原子力電池技術の発展形です。太陽光発電に依存したSpirit、Opportunity、InSightとは異なり、天候や季節、塵嵐に左右されない安定した電力供給を実現しています。この技術は現在Perseveranceローバーでも採用され、将来の土星の衛星タイタン探査ミッション「Dragonfly」でも使用予定です。
一方で、プルトニウム238の供給は限定的であり、現在アメリカで確保されているMMRTG用燃料は限られています。これは長期的な宇宙探査戦略において重要な制約要因となる可能性があります。
この技術革新が示すより広範な影響は、極限環境における自律システムの発展です。火星の過酷な環境(塵嵐、放射線、急激な温度変化)で13年間運用された経験から得られた知見は、地球上の無人システムや将来の宇宙探査技術の基盤となります。
Reidar Larsenエンジニアが表現した「慎重な親から信頼する関係への変化」は、人工知能と自律システムの発展における重要な転換点を象徴しています。初期の厳格な制御から、システムの自己判断を信頼する運用への移行は、未来の宇宙探査における人間と機械の新しい協働モデルを示唆しているのです。
【用語解説】
MMRTG(多目的放射性同位体熱電発電機)
プルトニウム238の放射性崩壊による熱を電力に変換する原子力電池。太陽光に依存しない安定した電力供給を実現し、極寒の火星環境でも継続的に動作する。
ボックスワーク地層
地下水によって岩石内の亀裂に鉱物が堆積し、その後の風化によって硬化した隆起部分のみが残った地質構造。古代の地下水活動の証拠となり、微生物生命の生存可能性を示唆する。
マウント・シャープ(Aeolis Mons)
ゲイルクレーター内にある高さ3マイル(5キロメートル)の山。異なる時代の地層が重なっており、火星の気候変動史を読み解く重要な研究対象。
火星日(Sol)
火星の1日の長さで、地球時間で約24時間37分。火星探査ミッションでは着陸日をSol 1として日数を数える単位として使用される。
マルチタスク機能
従来は順次実行していた軌道船との通信、運転、ロボットアーム操作、撮影などの作業を同時に実行する能力。エネルギー効率を大幅に向上させる技術革新。
自律昼寝機能
予定より早く作業を完了した場合、ローバーが自動的に休眠状態に入る機能。次の活動前の充電時間を短縮し、MMRTGの運用寿命を延長させる。
【参考リンク】
【参考記事】
【編集部後記】
13年という歳月をかけて進化し続けるCuriosityの姿に、私たちは何を学べるでしょうか。限られたエネルギーをより賢く使い、自律的に判断する能力を身につけていく―これは火星探査だけでなく、私たちの日常や仕事、さらには社会システムにも通じる普遍的なテーマかもしれません。
皆さんは、このような長期プロジェクトにおける「効率化」と「自律性」のバランスをどう捉えますか?また、火星の極限環境で培われた技術が地球上のどんな分野に応用できそうか、一緒に想像してみませんか?宇宙探査の技術革新が、私たちの未来をどう変えていくのか、ぜひご意見をお聞かせください。