スウェーデン・エスレンジが欧州宇宙戦略の新拠点へ、米国依存からの脱却目指す

スウェーデン・エスレンジが欧州宇宙戦略の新拠点へ、米国依存からの脱却目指す - innovaTopia - (イノベトピア)

スウェーデンのキルナにある国営エスレンジ宇宙センターは、欧州が世界の宇宙競争で前進し大陸本土から衛星を打ち上げるための軌道ロケットプログラムを構築している施設の一つである。

現在欧州でロケットと衛星を軌道に打ち上げできる唯一の宇宙基地は、赤道から北におよそ310マイルの南米にあるフランス領ギアナにある。

3月にドイツの民間航空宇宙会社アイザル・エアロスペース社が、ノルウェー北部の島にあるアンドーヤ宇宙港から軌道打ち上げ機の初回テスト飛行を実施したが、ロケットは離陸から30秒後に海に墜落した。

エスレンジは北極圏から120マイル以上北に位置し、基地自体は2.3平方マイルを占める。ロケット着陸ゾーンはスウェーデンのツンドラを北へノルウェーとフィンランドの国境近くまで広がる2,000平方マイルである。

トランプ米大統領は第二期初週に長距離ミサイルからアメリカを守る1,750億ドルのゴールデンドームミサイル防衛システムを発表した。

From: 文献リンクA base deep in the Swedish forest is part of Europe’s hope to compete in the space race

【編集部解説】

今回の報道では、欧州が宇宙分野でアメリカへの依存からの脱却を図る戦略的な動きが明確に示されています。これまで欧州は軌道衛星打ち上げを南米のフランス領ギアナやフロリダのケープカナベラルに依存してきましたが、この構造が安全保障上の懸念として浮上しています。

特に注目すべきは、トランプ政権の再登場が欧州の宇宙戦略に与える影響です。記事中でISAR Aerospaceのダニエル・メッツCEOが「正直なところ、主な触媒はトランプの再選だった」と述べているように、政治的変化が宇宙産業の地政学的な再構築を加速させています。

エスレンジ宇宙センターの地理的優位性は複数の要素から成り立っています。北極圏から120マイル以上北に位置することで、極軌道衛星との通信において優位性を持ちます。また2,000平方マイルという広大な無人地帯は、ロケット部品の回収を容易にし、安全性の確保にも寄与しています。

一方で、スウェーデンからの打ち上げはノルウェー上空を通過するため、新たな外交的課題も生じています。ノルウェー民間航空局の報告書によると、1回の打ち上げでノルウェーには17億ノルウェークローネ(約1億4,645万ユーロ)の潜在的コストが発生する可能性があります。これは人口密集地域への影響や航空交通制限によるものです。

商業宇宙市場の急速な拡大も重要な背景要因です。SpaceXやBlue Originといった民間企業が宇宙産業の主要プレイヤーとなる中、欧州も独自の商業打ち上げ能力を持つことが競争力維持の鍵となっています。

今後5年間で衛星数の急激な増加が予想される中、欧州は宇宙における戦略的自立を実現できるかが問われています。この動きは単なる経済的な競争を超えて、デジタル主権や安全保障の根幹に関わる問題として捉える必要があります。

【用語解説】

Esrange宇宙センター:1964年に欧州宇宙研究機構(ESRO)によって設立され、1966年から運用開始した宇宙施設。現在はスウェーデン宇宙公社(SSC)が運営する。キルナから東へ約40キロメートル、北極圏の200キロメートル北に位置し、2023年に軌道打ち上げ機能を追加して欧州本土初の小型衛星打ち上げ施設となった。

軌道打ち上げ:衛星を地球周回軌道に投入するためのロケット打ち上げ。準軌道打ち上げ(宇宙空間に到達するが軌道には乗らない)とは異なり、衛星が継続的に地球を周回できる速度と高度に達する必要がある。

アンドーヤ宇宙港:ノルウェー北部の島に位置する宇宙港。ヨーロッパ宇宙機関(ESA)とノルウェー宇宙センターが共同運営し、主に準軌道ロケットの打ち上げに使用されてきたが、軌道打ち上げ機能の拡張を進めている。

フランス領ギアナ:南米北東部に位置するフランスの海外県。クールー宇宙センターがあり、現在欧州で唯一の軌道打ち上げ可能な宇宙基地である。赤道に近い立地により、地球の自転を利用した効率的な打ち上げが可能。

準軌道飛行:宇宙空間(高度100キロメートル以上)に到達するが、地球周回軌道には乗らずに弾道軌道を描いて地上に戻る飛行。科学実験や技術実証に使用される。

【参考リンク】

Isar Aerospace(イザル・エアロスペース)(外部)
2018年設立のドイツの民間宇宙企業。中小型衛星打ち上げ用のSpectrumロケットを開発中

エスレンジ宇宙センター(Swedish Space Corporation)(外部)
スウェーデン宇宙公社が運営する世界で最も多様な宇宙センターの公式サイト

Swedish Space Corporation(スウェーデン宇宙公社)(外部)
50年以上の経験を持つ世界有数の宇宙サービス提供企業の公式サイト

【参考記事】

Europe looks to Nordic space race to scale back US dependence(外部)
欧州の米国宇宙依存脱却とノルディック諸国の宇宙競争への注目を詳述

Launches from Sweden Could Cost Norway Over €146M Per Flight(外部)
スウェーデンからの打ち上げがノルウェーに与える経済的影響を分析

アングル:北欧に衛星発射場、宇宙戦略で脱「米依存」目指す欧州(外部)
日本語での詳細報道。エスレンジ宇宙センターの現状と将来計画を解説

世界の射場から vol.1〜スウェーデン、エスレンジ〜(外部)
エスレンジ宇宙センターの詳細な技術仕様と建設状況を解説

【編集部後記】

この記事を通じて、欧州が宇宙分野で「独立」への道筋をつけようとする動きを感じていただけたでしょうか。スウェーデンの森の奥で展開される宇宙競争は、私たちの日常生活にも深く関わっています。

スマートフォンの位置情報サービスから災害時の通信まで、実は衛星技術なしには成り立たない世界に私たちは生きています。みなさんは普段使っているアプリやサービスの中で、どれくらい宇宙技術の恩恵を受けているか意識されたことはありますか?この北欧の宇宙競争が加速することで、日本の宇宙産業や私たちの生活にどんな変化が訪れるか、一緒に考えてみませんか。

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TaTsu
『デジタルの窓口』代表。名前の通り、テクノロジーに関するあらゆる相談の”最初の窓口”になることが私の役割です。未来技術がもたらす「期待」と、情報セキュリティという「不安」の両方に寄り添い、誰もが安心して新しい一歩を踏み出せるような道しるべを発信します。 ブロックチェーンやスペーステクノロジーといったワクワクする未来の話から、サイバー攻撃から身を守る実践的な知識まで、幅広くカバー。ハイブリッド異業種交流会『クロストーク』のファウンダーとしての顔も持つ。未来を語り合う場を創っていきたいです。

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