中国は地球近傍小惑星の軌道を変更する「運動エネルギー衝突実証ミッション」を2025年中に実施予定である。
中国月探査計画主任設計者の呉偉仁氏が安徽省合肥で開催された第3回深宇宙探査国際会議で発表した。このミッションは観測機と衝突機の2機で構成される。
観測機が先に小惑星に接近して物理的特性を調査し、衝突機が高速で衝突して軌道を3〜5センチメートル変更する予定である。衝突は宇宙船と地上望遠鏡で観測される。中国はこれまでに天問2号探査機を2025年初めに打ち上げており、惑星防衛システム構築を計画している。
このミッションはNASAの2022年DART(二重小惑星軌道変更実証)ミッションに続く取り組みで、中国はアメリカに次いで小惑星軌道変更を達成する2番目の国となる可能性がある。
呉氏は国際協力とデータ共有の可能性も示唆している。
From: China Plans to Hit a Distant Asteroid—And Gently Nudge It Off Course
【編集部解説】
今回の中国による小惑星衝突実験計画は、単なる技術実証を超えた戦略的意味を持っています。2022年にNASAが実施したDART(Double Asteroid Redirection Test)ミッションが小惑星ディモルフォスの軌道変更に成功した後、中国が世界で2番目にこの技術領域に参入することになります。
特筆すべきは、中国が2機体制での観測・衝突システムを採用する点です。観測機で事前に小惑星の物理特性を詳細分析し、衝突機で精密な軌道変更を実行するアプローチは、より高度な惑星防衛システムの基盤となる可能性があります。
この技術が実用化されれば、地球に接近する危険な小惑星を事前に軌道変更し、衝突リスクを回避できるようになります。地球近傍小惑星による脅威は現実的な問題として認識されており、過去には2013年のロシア・チェリャビンスク州への小惑星落下で1500人が負傷する被害も発生しています。
一方で、この技術は軍事転用の懸念も指摘されています。小惑星の軌道を変更する技術は、理論上、小惑星を「兵器化」することも可能だからです。しかし、呉偉仁氏が国際協力とデータ共有の意向を示している点は、透明性確保への前向きな姿勢として評価できるでしょう。
長期的には、この技術は資源開発にも応用される可能性があります。貴重な金属を含む小惑星を地球軌道に誘導し、宇宙資源として活用する構想も存在します。中国の天問2号による小惑星サンプル回収計画と合わせて考えると、同国の宇宙資源戦略の一環として位置づけられる技術実証といえるかもしれません。
【用語解説】
運動エネルギー衝突(Kinetic Impact)
宇宙船を高速で小惑星に衝突させて運動量を伝達し、軌道を変更する技術である。物理的破壊ではなく、軌道の微調整を目的とする。
地球近傍小惑星(Near-Earth Asteroid, NEA)
地球の軌道に接近する可能性がある小惑星の総称である。これまでに約30,000個近くが発見されている。
惑星防衛(Planetary Defense)
地球に衝突する危険性がある小惑星や彗星から地球を守るための技術・システムの総称である。早期発見から軌道変更まで複数の手法がある。
呉偉仁(Wu Weiren)
中国の宇宙開発における著名な技術者で、嫦娥月探査計画の主任設計者である。中国工程院院士の称号を持つ。
天都国際会議(Tiandu International Conference)
中国が主催する深宇宙探査に関する国際学術会議である。毎年開催され、各国の研究者が最新の成果を発表する。
【参考リンク】
NASA DART Mission(外部)
NASAの二重小惑星軌道変更実証ミッション。2022年に小惑星ディモルフォスの軌道変更に世界で初めて成功した惑星防衛実証プロジェクトの公式サイト。
NASA Planetary Defense Coordination Office(外部)
NASAの惑星防衛調整事務所の公式サイト。地球近傍小惑星の監視・分析・対策に関する最新情報と研究成果を提供している。
ESA Hera Mission(外部)
欧州宇宙機関によるヘラミッション公式サイト。NASAのDART衝突後の小惑星を詳細調査する後続ミッションの情報を掲載している。
【参考記事】
中国が小惑星への衝突実証任務を計画 – CRI(外部)
中国国営放送による公式発表記事。呉偉仁氏の直接発言と「フライバイ+衝突+フライバイ」モードの詳細な技術内容を報道している。
China will launch 2-in-1 asteroid deflection mission in 2025 – Space(外部)
中国の小惑星軌道変更ミッションが2機の宇宙船を使用する詳細な計画について解説。観測機と衝突機の役割分担と技術的課題を分析している。
Wu Weiren: China to kick off asteroid deflection project in 2025 – CGTN(外部)
呉偉仁氏による直接発言を含む中国国営メディアの報道。2025年実施予定の具体的なスケジュールと技術的詳細を伝えている。
中国、小惑星探査機「天問2号」が撮影した地球と月の画像を公開 – sorae(外部)
2025年5月29日に打ち上げられた天問2号の詳細なミッション内容と小惑星「Kamo’oalewa」探査計画について解説している。
【編集部後記】
この記事を読んで、皆さんはどう感じられたでしょうか?SF映画の世界が現実になりつつある今、宇宙からの脅威に対する人類の備えは十分なのでしょうか。中国が2025年中に実施予定のこの実証実験は、技術実証を超えて地球規模の安全保障に関わる重要な一歩です。私たちが当たり前に暮らしている日常は、実は宇宙という巨大な環境の中の奇跡的なバランスの上に成り立っています。
もし皆さんが宇宙開発に関わる立場でしたら、この惑星防衛技術をどのように発展させたいですか?また、国際協力の在り方についてはいかがお考えでしょうか?