中国Landspace、Zhuque-3再利用ロケット初飛行へ─中国初の軌道ブースター回収に挑戦

中国Landspace、Zhuque-3再利用ロケット初飛行へ─中国初の軌道ブースター回収に挑戦 - innovaTopia - (イノベトピア)

中国の民間宇宙企業Landspace社がZhuque-3ロケットの初の軌道飛行テストの準備を進めている。このミッションは中国初の軌道ロケットブースター着陸を目指すもので、SpaceXが達成した再利用可能ロケット技術と同様のマイルストーンとなる。

Landspace社は2015年に設立され、2023年にメタン-液体酸素推進剤を使用したZhuque-2で軌道到達に成功した。Zhuque-3は2段式ロケットで、低軌道に21,000キログラムのペイロード能力を持つ。10月中旬時点で、酒泉衛星発射センターにおいて推進剤充填リハーサルと静止燃焼テストを完了した。

このロケットは中国の天宮宇宙ステーション向けのHaolongカーゴ宇宙船のプロトタイプを搭載すると予測されている。再利用可能ロケット技術の実現により、GuowangやQianfanといったメガコンステレーションプロジェクトへの打ち上げ契約獲得が期待される。

From: 文献リンクChina Takes a Giant Leap with First Reusable Rocket Test Flight

【編集部解説】

今回のLandspace社によるZhuque-3の飛行テスト準備は、単なる技術的マイルストーンにとどまらず、中国の宇宙産業が新たな段階に入ったことを示すシグナルです。

最も注目すべきは、この再利用可能ロケット技術が商業宇宙産業の経済性を根本から変える可能性を秘めている点です。Zhuque-3は使い捨てモードで21.3トン、ダウンレンジ回収で18.3トン、発射場帰還では12.5トンのペイロードを低軌道に投入できる設計となっています。これはSpaceXのFalcon 9(LEOへ22.8トン)に匹敵する能力であり、第1段の20回以上の再利用を目指している点も共通しています。

この技術が実現する背景には、中国政府が2014年に宇宙セクターを民間資本に開放したことがあります。その結果、Landspaceのような民間企業が急速に台頭し、国営企業とは異なるアプローチで技術革新を進めてきました。同社は2023年にメタン-液体酸素推進剤を使用したZhuque-2で世界初の軌道到達を成功させており、今回のZhuque-3はその延長線上にある野心的プロジェクトです。

再利用可能ロケットの意義は、コスト削減だけではありません。中国特有の課題として、酒泉のような内陸部の宇宙港から打ち上げる際、使い捨てロケットの残骸が人口密集地域に落下するリスクがあります。過去には有毒な推進剤を含むブースターが住宅地近くに落下する事故も発生しており、安全面での改善が求められていました。再利用技術により、こうしたリスクを大幅に軽減できます。

さらに、この技術の成功は中国のメガコンステレーション計画に直結します。国営のGuowang(国網)は最大13,000基の衛星展開を計画しており、現在95基が軌道上にあります。また民間主導のQianfan(千帆)も同規模の展開を目指しています。これらの大規模プロジェクトを実現するには、頻繁かつ低コストの打ち上げが不可欠であり、再利用可能ロケットはその鍵となる技術なのです。

Zhuque-3の初飛行は2025年内に予定されており、成功すれば中国初の軌道ロケット回収となります。これは中国の宇宙産業が「量」から「質」へ、そして「持続可能性」へと舵を切る転換点として記憶されることになるでしょう。

【用語解説】

再利用可能ロケット
打ち上げ後に第1段ブースターを回収し、再度使用できるロケット技術である。SpaceXのFalcon 9が先駆けて実現し、打ち上げコストを劇的に削減した。従来の使い捨てロケットと異なり、機体を複数回使用することで経済性と打ち上げ頻度が向上する。

メタン-液体酸素推進剤(Methalox)
液体メタン(LCH4)と液体酸素(LOX)を推進剤として使用するロケットエンジンである。従来のケロシン系燃料と比較してクリーンで、エンジンの再利用に適している。LandspaceのZhuque-2は2023年にこの推進剤で世界初の軌道到達に成功した。

低軌道(LEO)
地球表面から高度160〜2,000キロメートル程度の軌道を指す。国際宇宙ステーションや多くの人工衛星がこの軌道に配置されており、宇宙開発における最も基本的な活動領域である。

メガコンステレーション
数千から数万基の小型衛星を低軌道上に配置し、全球的な通信サービスを提供する衛星群である。SpaceXのStarlinkが代表例で、中国もGuowangやQianfanなどの大規模プロジェクトを推進している。

天鵲(Tianque)エンジン
Landspaceが独自開発したメタン-液体酸素推進のロケットエンジンシリーズである。TQ-12は67トンの推力、TQ-12Aは81.5トン、TQ-12Bは100トンの推力を持つ。Zhuque-3の第1段には9基のTianqueエンジンが搭載される予定である。

酒泉衛星発射センター
中国北西部の甘粛省にある中国最大の宇宙港である。1958年に設立され、中国初の人工衛星「東方紅1号」や有人宇宙船「神舟」シリーズなどが打ち上げられた歴史的施設である。

天宮宇宙ステーション
中国が独自に建設・運用する宇宙ステーションである。2021年から建設が開始され、2022年に完成した。国際宇宙ステーション(ISS)に次ぐ大規模な有人宇宙施設として機能している。

【参考リンク】

LandSpace公式サイト(外部)
2015年設立の中国の民間宇宙企業。Zhuque-2で世界初のメタン推進剤による軌道到達を達成し、現在Zhuque-3再利用可能ロケットを開発中

中国国家航天局(CNSA)公式サイト(外部)
1993年設立の中国の国家宇宙機関。民間宇宙活動を統括し、月探査や火星探査などの主要プロジェクトを管理している

SpaceX公式サイト – Falcon 9(外部)
SpaceXが開発した再利用可能ロケット。2010年の初飛行以来、第1段の着陸・再利用技術を確立し、宇宙輸送コストの革命をもたらした

【参考動画】

LandspaceのTQ-12エンジンの燃焼テスト映像。液体酸素とメタンを推進剤とするこのエンジンは80トンの真空推力を持ち、Zhuque-2およびZhuque-3ロケットに使用される。

中国の天宮宇宙ステーション向けに開発中の再利用可能貨物シャトル「昊龍(Haolong)」の紹介動画。翼を持つ航空機型の設計で、ロケットで打ち上げられ滑走路に水平着陸する。

【参考記事】

China Is One Step Away From Reusable Rocket(外部)
LandspaceのZhuque-3が静止燃焼テストを完了し、中国初の軌道ロケット回収に向けて最終準備段階に入ったことを報じる詳細記事

China’s 1st reusable rocket test fires engines ahead of debut flight(外部)
Zhuque-3が9基のTianque-12Aエンジンを搭載し、SpaceXのFalcon 9と類似した設計であることを解説する記事

China’s mega-constellations mega-article(外部)
中国のGuowangメガコンステレーションが現在95基の衛星を軌道上に配置しており、最終的に13,000基まで拡大予定であることを詳述

China’s Guowang megaconstellation is more than another Starlink(外部)
Guowangコンステレーションが単なる商業プロジェクトではなく、軍事的な側面も持つ可能性を分析する詳細レポート

【編集部後記】

宇宙開発競争は、もはや国家間の威信をかけた競争だけではなく、私たちの日常生活に直結するインフラ整備の戦いへと変わりつつあります。Landspaceのような民間企業が再利用可能ロケットに挑戦する背景には、数万基規模の通信衛星網を素早く構築したいという現実的なニーズがあります。

日本でも宇宙予算が10年で3倍に増え、民間企業への支援が強化されていますが、打ち上げコストの削減という点では中国や米国に後れをとっているのが実情です。再利用技術の成否が、今後の宇宙開発の主導権を握る鍵になると考えると、このニュースの重みが変わって見えてくるのではないでしょうか。

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TaTsu
『デジタルの窓口』代表。名前の通り、テクノロジーに関するあらゆる相談の”最初の窓口”になることが私の役割です。未来技術がもたらす「期待」と、情報セキュリティという「不安」の両方に寄り添い、誰もが安心して新しい一歩を踏み出せるような道しるべを発信します。 ブロックチェーンやスペーステクノロジーといったワクワクする未来の話から、サイバー攻撃から身を守る実践的な知識まで、幅広くカバー。ハイブリッド異業種交流会『クロストーク』のファウンダーとしての顔も持つ。未来を語り合う場を創っていきたいです。

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