株式会社ElevationSpaceとAxiom Spaceは、商業宇宙ステーション向けの高頻度な大気圏再突入・回収サービスにおける協業の可能性を探るため、基本合意書(MoU)を締結した。
ElevationSpaceが開発する「ELS-RS」のペイロード運用および大気圏再突入・回収システムの技術実証を検討している。「ELS-RS」は地球低軌道での運用を最適化して設計されており、完成すれば科学的なデータやペイロードを地球上の指定された地点へ迅速かつ安全に回収できるサービスを提供する。
この協業を通じて、ElevationSpaceはAxiom Stationの顧客に対し生命科学や材料科学のサンプルなどを適切に管理された環境下で地球へ回収するカーゴ回収サービスを提供することを目指している。
ElevationSpaceは宮城県仙台市に所在する2021年2月設立の企業である。Axiom Spaceは世界初の商業宇宙ステーション「Axiom Station」を建設する企業で、アジア太平洋地域の最高技術責任者を宇宙飛行士の若田光一氏が務めている。
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ElevationSpaceとAxiom Space、高頻度の大気圏再突入・回収サービスに関する協業で基本合意書(MoU)を締結

【編集部解説】
2030年末に予定されている国際宇宙ステーション(ISS)運営終了は、地球低軌道における宇宙環境利用の歴史に大きな転機をもたらします。その「ポストISS時代」を見据え、日本のスタートアップElevationSpaceとアメリカの商業宇宙ステーション企業Axiom Spaceが締結したこのMoUは、単なる企業間の協力枠組みではなく、今後の宇宙産業そのものの構図を象徴する出来事といえます。
ELS-RSという高頻度回収カプセルが実現すれば、これまで年3~4回程度に限られていた宇宙からの物資回収が月単位での実施に変わる可能性があります。この頻度の向上は、医薬品開発や材料科学といった産業利用の加速を意味しており、宇宙環境の経済的価値を大きく引き上げることになるでしょう。
興味深いのは、Axiom Stationがまだ建設段階である一方で、すでに複数の企業がカーゴ回収サービスの提携を競っている点です。これは商業宇宙ステーション市場において、ハードウェアだけでなく、その周辺機能のエコシステムが構築される段階に入っていることを示唆しています。
日本が世界に誇る再突入技術を持つElevationSpaceが、グローバルなプレイヤーであるAxiom Spaceと連携することで、日本の宇宙産業が国際競争力を具体的に発揮する機会が生まれています。ただし、競合他社も同様のサービス開発を進めており、技術実証から実運用への道は決して平坦ではありません。
ISS時代の終焉と商業宇宙ステーション時代の到来という構造的な転換期において、このパートナーシップは、日本発のイノベーションがどのように国際市場に組み込まれていくのか、その動きを注視する価値のある事案です。
【用語解説】
カーゴ回収サービス
宇宙ステーション内で保管・製造された物資を地球に安全に回収し、ユーザーの元に返却するサービス。医薬品開発や材料科学の研究成果の回収に活用される。
ポストISS時代
国際宇宙ステーションが2030年末に運用を終了した後の時代。その後の宇宙環境利用の継続性確保が業界の課題となっている。
【参考リンク】
ElevationSpace 公式サイト(外部)
日本の東北大学発宇宙ベンチャー。小型再突入技術を軸に、宇宙から地球への物資輸送サービスを開発している。
Axiom Space 公式サイト(外部)
世界初の商業宇宙ステーション「Axiom Station」の建設を進めるアメリカの企業。
【参考動画】
【参考記事】
【編集部後記】
宇宙から物資を回収するサービスが月単位で実現されるとしたら、医薬品や新素材の開発スピードはどう変わると思いますか?
日本発の再突入技術が国際的なプラットフォームの一部として機能し始めた今、私たちが目にしている商業宇宙ステーションの拡がりは、単なる宇宙の話ではなく、地上の産業全体に影響を与えるカギとなるかもしれません。ポストISS時代に何が起こるのか、一緒に追い続けてみませんか。
























