渋谷でAI観光案内が実証実験開始|訪日客増加と人材不足の課題に生成AIで挑む

[更新]2025年10月29日10:46

渋谷でAI観光案内が実証実験開始|訪日客増加と人材不足の課題に生成AIで挑む - innovaTopia - (イノベトピア)

東急株式会社、株式会社Nextremer、一般財団法人渋谷区観光協会は、渋谷の訪日外国人旅行者を対象に、生成AIを活用した観光案内サービスの検証を2025年10月27日から12月14日まで実施する。

渋谷区観光協会が運営する「SHIBU HACHI BOX」と東急が運営する「WANDER COMPASS SHIBUYA」の2か所の観光案内所で、Nextremerが提供する対話型AIサービス「AIミナライ」を活用する。利用者は各観光案内所に掲出されるQRコードから携帯端末でAIチャットボットにアクセスし、質問を入力するとAIが回答し、マップなども提供する。対応言語は日本語、英語、簡体字、繁体字、韓国語の5言語で、AIによる接客可能時間は毎日8時から24時である。

渋谷は東京を訪れる外国人観光客の訪問先に3年連続で1位となっているが、観光案内所では道案内や人気スポットに関する類似した問合せが多く、観光情報や文化体験など地域の魅力について案内する時間が限られる課題がある。本検証では、定型質問への回答による効率化と接客データの蓄積・共有で、渋谷エリアの観光案内所スタッフのノウハウの蓄積が可能か検証する。

From: 文献リンクPRTIMES渋谷エリアの観光案内所が連携しAIによる観光情報を提供

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質問を入力するとAIが回答し、マップなども提供する。

【編集部解説】

今回の実証実験は、インバウンド観光の最前線で起きている構造的な課題に、生成AIという新しい解決策を投入する試みです。実は渋谷が東京を訪れる外国人観光客の訪問先として3年連続1位となっており、その圧倒的な集客力が示されています。

しかし、その人気の裏側には深刻な人手不足という現実が横たわっています。日本の観光業界は2030年までに労働力不足に直面すると予測されており、特にパンデミック期に離職した熟練スタッフの多くが他業種へ転職してしまい、そのスキルとノウハウが失われてしまったのです。観光業従事者の48.6%が「働き手不足」を最大の課題として挙げており、専門スキル人材の採用・育成の難しさも浮き彫りになっています。

この実証実験の本質は、単なる省人化ではありません。プレスリリースにある「道案内や人気スポットに関する類似した問合せ」という定型的な質問をAIが処理することで、人間のスタッフは本来やるべき「地域の魅力を深く伝える」という付加価値の高い業務に集中できるようになります。つまり、人間とAIの役割分担を明確にすることで、限られた人的リソースを最適化する戦略といえるでしょう。

多言語対応も重要なポイントです。日本語、英語、簡体字、繁体字、韓国語の5言語に対応し、毎日8時から24時までAIが稼働することで、スタッフの勤務時間外でも観光客は情報にアクセスできます。グローバルな観光業界では、AI活用による多言語サポートが顧客満足度と業務効率の両立を可能にする重要な要素となっており、このトレンドに日本も追随する形です。

今回の取り組みで注目すべきは、2つの異なる運営主体(公的機関と民間企業)が連携し、接客データを蓄積・共有することで渋谷エリア全体のノウハウを底上げしようとしている点です。これが成功すれば、個別の施設ではなくエリア全体でのホスピタリティ向上という新しいモデルケースになる可能性があります。

ただし課題もあります。AIは定型的な質問には効率的に対応できますが、複雑な状況判断や感情的なケアが必要な場面では人間の介入が不可欠です。日本の観光業が誇る「おもてなし」の精神をどう維持しながらデジタル化を進めるか、この12月14日までの検証期間がその答えを示すことになるでしょう。

【用語解説】

対話型AIサービス
ユーザーとの自然な会話を通じて情報提供やサポートを行うAIシステム。チャットボット形式が一般的で、テキストや音声で質問を受け付け、リアルタイムで回答を生成する。多言語対応や24時間稼働が可能なため、人的リソースの制約を超えたサービス提供を実現できる。

【参考リンク】

東急アライアンスプラットフォーム(外部)
東急が主催する事業共創プラットフォーム。スタートアップ企業との協業を推進し、2025年3月時点で累計137件のテストマーケティングや協業、50件の事業化を実現。

株式会社Nextremer(外部)
対話型AIサービス「AIミナライ」を開発・提供するAI技術企業。音声・チャット・対面などあらゆる接点で顧客対応を自動化するソリューションを展開している。

一般財団法人渋谷区観光協会(外部)
渋谷区の観光振興を担う組織。「SHIBU HACHI BOX」を運営し、観光情報案内、体験型コンテンツなどを提供し、訪日外国人の受け入れ態勢を整備。

【参考記事】

観光産業の最大の課題は”働き手不足”、従事者の約半数が回答(外部)
リクルートの調査で48.6%の観光業従事者が「働き手不足」を最大の課題と回答。専門スキル人材の採用・育成の難しさも41.3%が課題視。

日本の観光6000万人・15兆円目標の達成可能性と必要条件をまとめてみました(外部)
日本の観光業界の労働力不足についてと、日本政府が掲げる2030年の観光目標(訪日客6000万人・消費額15兆円)の達成可能性、そのために必要な5つの条件や戦略についての分析。

【編集部後記】

この実証実験は12月14日まで続きます。渋谷を訪れる機会があれば、ぜひSHIBU HACHI BOXやWANDER COMPASS SHIBUYAに立ち寄って、実際にAI案内を試してみてはいかがでしょうか。

AIと人間の役割分担という、これからの社会で避けて通れないテーマが、身近な観光案内という形で実装されています。実際に使ってみることで、「AIにできること」と「人間だからこそできること」の境界線が、より明確に見えてくるかもしれません。

投稿者アバター
omote
デザイン、ライティング、Web制作を行っています。AI分野と、ワクワクするような進化を遂げるロボティクス分野について関心を持っています。AIについては私自身子を持つ親として、技術や芸術、または精神面におけるAIと人との共存について、読者の皆さんと共に学び、考えていけたらと思っています。

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