Unreal Engine 5.7リリース|Nanite Foliage、MegaLights、Substrateマテリアル正式版で大規模オープンワールド開発を革新

 - innovaTopia - (イノベトピア)

Epic Gamesは2025年11月12日、Unreal Engine 5.7を正式リリースした。本バージョンでは、大規模なオープンワールド開発を強化する複数の機能が実装されている。主な新機能として、Nanite Foliageが高密度な植生を大規模かつ高詳細にレンダリング可能にし、Substrateマテリアルシステムが正式版となって物理的に正確な複雑なマテリアル作成を簡素化した。

MegaLightsはベータ版に進化し、より高速でスケーラブルな動的照明ワークフローを提供する。アニメーション面では、Selection Setsの追加やIK Retargeterの改善により、リグ制御とリターゲティングが効率化された。さらに、エディタ内AIアシスタントが実験的に導入され、C++コード生成や操作ガイダンスを提供する。PCGフレームワークも正式版となり、プロシージャル生成が安定した。

From: 文献リンクUnreal Engine 5.7 is now available

【編集部解説】

Unreal Engine 5.7で注目すべきは、ゲーム開発のワークフロー全体に影響を及ぼす技術的ブレイクスルーが複数同時に実装されている点です。特にNanite Foliageは、従来のNanite三角形ポリゴンではなくボクセルベースの手法を採用することで、オーバードローの問題を解決しました。テスト結果では62FPSから119FPSへとほぼ2倍のパフォーマンス向上が確認されており、各樹木に2000万ポリゴンを適用した77,376本の森林を安定して描画できることが実証されています。

MegaLightsのベータ版進化により、動的照明のコスト構造が根本的に変化しました。従来は光源数に比例して処理時間が増加していましたが、MegaLightsは一定の計算時間内で品質を調整する方式に転換し、Hardware LumenやVirtual Shadow Mapsとの組み合わせで最大50%のパフォーマンス改善を実現します。これにより、シーンに数十個の影付き動的光源を配置しても、レイトレーシングベースの高品質な照明を維持できるようになりました。

Substrateマテリアルシステムの正式版化は、物理ベースレンダリングのアプローチを大きく変えます。従来のメタリックワークフローからスペキュラーワークフローへ回帰し、複数のマテリアルレイヤーを物理的に正確にスタック可能になったことで、自動車塗装のような複雑な多層マテリアルの再現精度が向上しています。各レイヤーにデュアルスペキュラーを設定できるため、微妙に異なる粗さレベルを表現でき、現実世界の素材により近づけることが可能です。

AIアシスタントの実験的導入は、開発者の生産性向上に直結します。Unreal Engineのドキュメント検索とC++コード生成に対応しており、UEFNで先行運用されていた技術がUnreal Engine本体に統合されました。ただし現時点ではBlueprintコードの生成には対応しておらず、C++開発者に限定される制約があります。AIによるコード生成の精度や、生成されたコードの品質保証については、開発現場での検証が必要でしょう。

PCGフレームワークの正式版化により、プロシージャル生成が実用段階に到達しました。大規模オープンワールドにおける地形生成、AI経路探索、ランダム化されたレベルデザインなど、動的コンテンツ生成の安定性と信頼性が向上したことで、開発スタジオはより積極的にプロシージャル技術を採用できる環境が整いました。

【用語解説】

Nanite:Unreal Engine 5の仮想化ジオメトリシステム。数十億ポリゴンの3Dモデルをリアルタイムレンダリング可能にし、LOD管理を自動化する技術。

Nanite Foliage:Naniteシステムをボクセルベースの手法で植生専用に最適化した新レンダリングパス。草木や樹木を高密度かつ高詳細で描画しながらパフォーマンスを維持する。

MegaLights:大量の動的ライトを低負荷で配置可能にする照明システム。レイトレーシングを活用し、1ピクセルあたり固定数のレイを重要な光源に向けて追跡する方式を採用。

Substrate:物理ベースの多層マテリアルシステム。複数のマテリアルレイヤーを物理的に正確にスタック可能で、光の反射・透過・散乱を下層まで計算する新しいシェーディングアプローチ。

PCG(Procedural Content Generation):プロシージャルコンテンツ生成フレームワーク。地形、植生、建物などのゲームコンテンツをアルゴリズムによって自動生成し、大規模なオープンワールド開発を効率化する。

Lumen:Unreal Engine 5の動的グローバルイルミネーションシステム。リアルタイムで間接照明と反射を計算し、光源や環境の変化に即座に対応する。

IK Retargeter:異なるスケルトン構造を持つキャラクター間でアニメーションを変換・適用するツール。モーションキャプチャデータや既存アニメーションを複数のキャラクターに再利用可能にする。

Hardware Lumen:レイトレーシング対応GPUを活用したLumenの高性能モード。ソフトウェアベースのレイトレーシングよりも高速で高品質な照明計算を実現する。

UEFN(Unreal Editor for Fortnite):Fortnite用のUnreal Engineエディタ。カスタムゲームモードやマップを作成可能で、UE5.7で導入されたAIアシスタント機能の先行実装環境として機能した。

【参考リンク】

Unreal Engine 公式サイト(外部)
Epic Gamesが開発するゲームエンジンの公式サイト。最新バージョンのダウンロード、ドキュメント、チュートリアル、マーケットプレイスへのアクセスが可能。

Epic Games Developer Portal(外部)
Unreal Engineの公式ドキュメントポータル。各機能の技術仕様、使用方法、ベストプラクティスが詳細に記載され、日本語版も提供されている。

Unreal Engine Marketplace(外部)
開発者とクリエイターがアセット、プラグイン、チュートリアルを売買できるデジタルストアフロント。Epic Gamesは売上の12%を手数料として徴収する。

【参考記事】

Unreal Engine 5.7 Is Now Available – 80 Level(外部)
UE5.7の全機能を包括的にカバーした記事。Nanite Foliage、MegaLights、Substrate、PCGフレームワーク、AIアシスタントの技術詳細と実装方法を詳述。

What’s New in Unreal Engine 5.7: Full Breakdown – Vagon(外部)
UE5.7の新機能を開発者視点で詳細に分解した記事。各機能のパフォーマンスメトリクス、ハードウェア要件、実装時の注意点を具体的な数値とともに解説。

Unreal Engine 5.7 key features for CG artists – CG Channel(外部)
CGアーティスト向けにUE5.7の5つの主要機能を厳選して紹介。ビジュアルクオリティの向上とアーティストワークフローの効率化に重点を置いた解説。

MegaLights Documentation Revealed – 80 Level(外部)
MegaLightsの技術ドキュメントを詳解した記事。レイトレーシングの仕組み、1ピクセルあたり固定レイ数方式、Volumetric Fogサポートなど技術的側面を深掘り。

Unlocking Substrate – Digital Production(外部)
Substrateマテリアルシステムの革新性を解説。従来のメタリックワークフローとの違い、多層スタック構造、デュアルスペキュラーの物理的正確性について技術的に詳述。

【編集部後記】

Unreal Engine 5.7で最も興味深いのは、技術的な限界を押し広げる方向ではなく、開発者の「思考の余白」を増やす設計思想ではないでしょうか。77,000本の樹木を配置できる技術力よりも、環境アーティストが「システムの許容範囲」を気にせず創造に集中できる状態を実現した点が本質的な革新かもしれません。一方で、AIコード生成やデノイジング依存が進むことで、開発者が内部動作を理解しないまま高品質な結果を得られる環境は、長期的にどのような技術的負債を生むのでしょうか。中小スタジオがAAA品質に到達できる民主化と、ハードウェア要件の高騰による参入障壁の上昇、このパラドックスは今後どう展開していくのか注目されます。

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乗杉 海
SF小説やゲームカルチャーをきっかけに、エンターテインメントとテクノロジーが交わる領域を探究しているライターです。 SF作品が描く未来社会や、ビデオゲームが生み出すメタフィクション的な世界観に刺激を受けてきました。現在は、AI生成コンテンツやVR/AR、インタラクティブメディアの進化といったテーマを幅広く取り上げています。 デジタルエンターテインメントの未来が、人の認知や感情にどのように働きかけるのかを分析しながら、テクノロジーが切り開く新しい可能性を追いかけています。 デジタルエンターテインメントの未来形がいかに人間の認知と感情に働きかけるかを分析し、テクノロジーが創造する新しい未来の可能性を追求しています。

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