Last Updated on 2025-04-17 18:06 by admin
メタの元公共政策ディレクターによる衝撃的証言が示す真実は、私たちが想像していたよりも深刻かもしれない。
世界最大のソーシャルメディア企業が、表現の自由を掲げる建前の裏で世界最大の検閲体制と「手に手を取って」協力し、カスタムビルドの検閲ツールを提供していたという。この証言が明らかにするのは、テクノロジー企業が市場拡大のために自らの理念を容易に売り渡す危険な現実だ。
2025年4月10日、Metaの元グローバル公共政策ディレクターであるサラ・ウィン=ウィリアムズ氏が米上院司法委員会犯罪・テロ対策小委員会で証言し、同社が中国政府と協力してプラットフォームの検閲を行っていたと告発した。
サラ・ウィン=ウィリアムズ氏は2011年から約7年間Facebook(現Meta)で働き、同社が中国共産党に「カスタムビルドの検閲ツール」を提供していたと証言した。具体的には、10,000回以上の閲覧があった投稿を「主任編集者」のレビュー対象としてフラグを立てる「バイラリティカウンター」が中国本土だけでなく、香港と台湾でも使用されていたと述べた。
また、2017年に中国当局からの圧力を受けて、アメリカに住む中国の反体制派である郭文貴氏のFacebookアカウントが削除されたと証言した。Facebookは当時、郭氏が他人の個人情報を共有したために対応したと説明していた。
サラ・ウィン=ウィリアムズ氏はさらに、中国当局がアメリカのユーザーデータに「潜在的にアクセスできる」可能性があったにもかかわらず、マーク・ザッカーバーグCEOを含むMetaのリーダーシップがエンジニアのデータセキュリティ懸念に無関心だったと証言した。
証言によると、ザッカーバーグCEOは中国とのビジネス関係に「個人的に投資」し、中国語を学ぶことを約束して「従業員と毎週中国語セッションを行っていた」という。また、MetaのAIモデル「Llama」が中国のAI企業DeepSeekを支援するために使用されたとも主張している。DeepSeekは今年初めに、OpenAIのChatGPTと競争力があるにもかかわらず大幅に低コストなAIモデルを発表し、米テクノロジー業界に衝撃を与えた企業である。
サラ・ウィン=ウィリアムズ氏は「マーク・ザッカーバーグが今まで行った最大のトリックは、自分自身をアメリカの国旗で包み、自分を愛国者と呼び、中国でサービスを提供していないと言いながら、過去10年間で180億ドルのビジネスを構築したことだ」と述べた。
これに対しMetaの広報担当者は、サラ・ウィン=ウィリアムズ氏の証言を「現実から乖離し、虚偽の主張に満ちている」と反論し、「我々は今日、中国で我々のサービスを運営していない」と声明を出した。
ミズーリ州共和党上院議員のジョシュ・ホーリー氏は、ザッカーバーグCEOに対して小委員会での証言を要請する書簡を送り、「アメリカ国民はあなたの会社についての真実を知る権利がある」と述べた。
サラ・ウィン=ウィリアムズ氏は2024年3月に「Careless People: A Cautionary Tale of Power, Greed and Lost Idealism(不注意な人々:権力、貪欲、失われた理想主義の警告的物語)」という回顧録を出版している。
【編集部解説】
Meta(旧Facebook)の元グローバル公共政策ディレクター、サラ・ウィン=ウィリアムズ氏による上院証言は、テクノロジー企業の倫理的責任と国家安全保障の交差点に位置する重要な問題を浮き彫りにしています。この証言は、米中テクノロジー覇権競争が激化する中で行われ、大きな波紋を広げています。
サラ・ウィン=ウィリアムズ氏の証言によれば、Metaは中国市場への参入を目指して中国共産党に「カスタムビルドの検閲ツール」を提供したとされています。特に注目すべきは、10,000回以上閲覧された投稿を「主任編集者」がレビューする「バイラリティカウンター」というシステムが中国本土だけでなく、香港と台湾でも使用されていたという点です。これは、デジタル空間における表現の自由と検閲の問題を改めて問いかけるものといえるでしょう。
また、懸念されるのは、中国当局がアメリカのユーザーデータに「潜在的にアクセスできる」可能性があったという証言です。Metaのエンジニアがデータセキュリティについて懸念を表明したにもかかわらず、ザッカーバーグCEOを含むMetaのリーダーシップが無関心だったとされています。
一方で、Metaはこれらの主張を強く否定しています。同社の広報担当者は、サラ・ウィン=ウィリアムズ氏の証言を「現実から乖離し、虚偽の主張に満ちている」と反論し、「我々は今日、中国で我々のサービスを運営していません」と明言しています。
この問題の背景には、米中間のテクノロジー覇権競争があります。トランプ政権は中国からの輸入品に対する関税を引き上げ、TikTokの米国事業売却を追求するなど、前政権から引き継いだ対中強硬姿勢を維持しています。
特に注目すべきは、AIの国際的な開発競争の激化です。中国のDeepSeekのようなAI企業がOpenAIのChatGPTと競争できるモデルを低コストで開発できるようになったことは、米国のAI産業にとって大きな脅威と認識されています。MetaのAIモデル「Llama」が中国のAI企業DeepSeekの発展に貢献したという主張は、オープンソースAIモデルの国際的な共有と国家安全保障上の懸念のバランスという難しい問題を提起しています。
Metaの立場からすると、中国市場へのアクセスは大きなビジネスチャンスである一方、米国の国家安全保障上の懸念とのバランスを取る必要があります。サラ・ウィン=ウィリアムズ氏が主張する「180億ドルのビジネス」という数字は、この市場の重要性を示しています。
この証言と告発が今後のテクノロジー企業の規制や国際的なデータガバナンスにどのような影響を与えるかは、注目に値します。特に、グローバル企業が異なる価値観を持つ国々でビジネスを展開する際の倫理的ジレンマと、国家安全保障上の懸念のバランスをどう取るかという問題は、今後も議論が続くでしょう。
【用語解説】
バイラリティカウンター: Metaが開発したとされる投稿監視ツール。10,000回以上閲覧された投稿を自動的に「主任編集者」のレビュー対象としてフラグを立てるシステム。中国本土だけでなく香港と台湾でも使用されていたと証言されている。
ジョシュ・ホーリー: 共和党所属のミズーリ州選出上院議員。元ミズーリ州司法長官で、上院司法委員会犯罪・テロ対策小委員会の委員長を務めている。
【参考リンク】
Meta公式サイト(外部)Metaの企業理念やプロダクト、最新ニュースなどを提供する公式ウェブサイト。
DeepSeek公式サイト(外部)DeepSeekのAIモデルやサービスについての情報を提供する公式サイト。