DuolingoのCEOであるLuis von Ahn(ルイス・フォン・アーン)は今年、同社をAI第一の企業にするという発表が激しい批判を受けたことについて、「十分な背景説明をしなかった」ことが問題だったとインタビューで説明した。
フォン・アーンは、「社内では物議を醸すものではなかったが、外部では利益追求や人間の解雇が目的だと誤解された」と述べた。同氏は正社員を解雇したことは一度もなく、そうする意図もないと強調した。一方で、契約社員の削減については否定せず、必要に応じて増減してきたと説明した。批判にもかかわらず、Duolingoの収益への大きな影響は見られず、フォン・アーンはAIの可能性について依然として強気の姿勢を示している。現在、Duolingoのチームは毎週金曜日の午前中をf-r-A-I-daysというAI技術の実験に充てている。
過去記事:Duolingo AI戦略炎上が示すテック業界の人間性喪失リスク

From: Duolingo CEO says controversial AI memo was misunderstood | TechCrunch
【編集部解説】
今回のDuolingoの発言は、教育テクノロジー業界におけるAI導入の課題を象徴的に表しています。同社の「AI-first」戦略は2023年末から段階的に実施されており、翻訳者やライターなど約10%の契約社員が既に解雇されています。フォン・アーンCEOの釈明は、企業の意図と社会の受け止め方の間に生じた深刻な認識の溝を浮き彫りにしています。
技術的な側面では、DuolingoはOpenAIのGPT-4を活用して148の新言語コースを開発し、従来12年かけて作成していたコンテンツ量を1年で達成しました。これは生成AIによるコンテンツ制作の効率性を実証する事例といえます。一方で、元契約社員からは「AIの出力は退屈で、Duolingoの特徴的な楽しさが失われている」「翻訳の精度に問題がある」といった品質への懸念が報告されています。
社会的影響の観点では、Duolingoの事例は「AI雇用危機」の象徴として位置づけられています。特に契約労働者への影響は深刻で、正社員と異なり雇用保障がない状況で技術に置き換えられるリスクが高まっています。一方で、同社の財務実績は好調で、株価は約30%上昇し、年間売上高10億ドル超の見通しを示しており、市場はAI戦略を評価しています。
長期的には、教育コンテンツの質と人間の創造性のバランスが重要になります。AIによる大量のコンテンツ生成は可能ですが、文化的ニュアンスや創造的表現の維持には人間の関与が不可欠です。また、AI導入が雇用に与える影響について、企業には透明性のあるコミュニケーションが求められる時代になったことも示しています。
【用語解説】
Duolingo:ピッツバーグに本社を置く米国の教育技術企業で、世界最大の言語学習プラットフォーム。43言語のコースを提供し、gamification(ゲーミフィケーション:ゲーム以外の分野にゲームの設計要素やメカニズムを取り入れ、利用者の動機づけや参加促進を図る手法)を用いて学習の継続率向上を図っている。
Luis von Ahn(ルイス・フォン・アーン):Duolingoの共同創設者兼CEO。グアテマラ系アメリカ人の起業家で、CAPTCHA技術とreCAPTCHAの開発者。2006年にマッカーサー・フェローシップを受賞している。
AI-first company(AI第一の企業):企業戦略において人工知能を最優先に位置づけ、業務プロセスや意思決定にAIを積極的に活用する経営方針。Duolingoが2024年に採用を宣言した戦略。
contract workforce(契約労働力):企業が業務の一部を外部の個人事業主や契約社員に委託する労働形態。正社員と異なり雇用保障がなく、AIによる代替が進みやすい労働分野。
f-r-A-I-days:Duolingoが導入したAI実験の日。毎週金曜日の午前中にチームメンバーがAI技術の実験に取り組む社内制度。
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【編集部後記】
DuolingoのAI戦略を巡る論争は、教育テクノロジーの転換点を象徴しています。CEO自身が「説明不足」と認めましたが、AI導入時の企業の説明責任をどう考えるべきでしょうか。一方で、株価30%上昇という市場の反応は、投資家がAI効率化を歓迎していることを示しています。契約労働者の雇用不安定性、AIによるコンテンツ品質への懸念、そして学習体験の個人化とスケール化のバランス—これらの課題にどう向き合うかが、EdTech業界全体の未来を左右するのではないでしょうか。皆さんはAIと人間の創造性の共存について、どのような未来を描いていますか。