中国スマートフォンメーカーVivoが開発したmixed reality(複合現実)ヘッドセット「Vivo Vision Discovery Edition」について、海外XRメディアSkarredghostによる37分間のハンズオンレビューが公開された。
デバイスはApple Vision Proを強く意識した設計で、重量398g(Vision Proは約650g)、解像度は双眼8K、Qualcomm Snapdragon XR2+ Gen 2チップセットを搭載。視線追跡精度1.5°、バッテリー持続時間約2.5時間となっている。
レビューでは高解像度ディスプレイとVision Proを上回る快適性を評価する一方、レンズ周辺部の球面収差やパススルー時のモーションブラー、独自OS「OriginOS Vision」によるコンテンツ不足を課題として指摘。価格は約1,400ドルと推定され、Vision Proの半額以下での提供が見込まれる。
現在は中国の一部店舗でのみデモ体験が可能で、正式発売は2026年と予想されている。レビューでは「Vision Proの良い複製品」と評価されている。
From: Vivo Vision hands-on: a good, cheaper clone of the Apple Vision Pro
【編集部解説】
Vivo Vision Discovery Editionは単なるApple Vision Proの複製を超えた戦略的意味を持っています。中国メーカーが欧米の高級製品を模倣する従来のパターンではなく、企業向け市場への参入を狙った戦術的アプローチと捉える専門家の声もあります。
技術仕様を詳しく見ると、Qualcomm Snapdragon XR2+ Gen 2の採用が注目されます。このチップセットは前世代のXR2 Gen 2と比較してCPU性能20%、GPU性能15%の向上を実現しており、Quest 3より明らかに高い処理能力を持ちます。しかし、Apple Vision ProのM2チップと比較すると依然として性能ギャップが存在するのが現実です。
重量398gという軽量性は、長期使用における重要なブレークスルーとなる可能性があります。企業展開において、従業員が長時間装着する工場トレーニングや医療教育分野では、この軽量性が導入の決定要因になり得ます。従来のVRヘッドセットが30分程度の娯楽セッションを想定していたのに対し、Vivoのアプローチはフルシフトでの業務使用を視野に入れています。
OriginOS Visionによる独自エコシステム構築は、両面的な影響を与えるでしょう。積極面として、中国国内での垂直統合により、Vivoスマートフォンとのシームレス接続が実現します。
規制への影響という観点では、Vivoの参入により各国のXR規制枠組み見直しが促進される可能性があります。特にデータプライバシーと視線追跡データの取り扱いについて、中国メーカーの製品に対してより厳格な審査が求められるかもしれません。
長期的視点では、$1,400という価格設定が市場の民主化を促進する可能性があります。Apple Vision Proの$3,500という価格が市場拡大の障壁となっていた中、Vivoのアプローチは空間コンピューティング技術の大衆採用への道筋を示しています。ただし、ハードウェア品質とソフトウェアエコシステムのバランスが、長期的成功の鍵を握るでしょう。
【用語解説】
Vivo Vision Discovery Edition
中国スマートフォンメーカーVivoが開発したmixed realityヘッドセット。Apple Vision Proを強く意識した設計で、重量398g、双眼8K解像度を特徴とする。
Apple Vision Pro
Appleが2024年に発売したspatial computing(空間コンピューティング)ヘッドセット。M2チップ搭載、重量約600g、価格$3,500の高級機種。
Qualcomm Snapdragon XR2+ Gen 2
QualcommのXR向け最新チップセット。前世代比でGPU性能15%、CPU性能20%向上し、片眼4.3K解像度90fps出力に対応する。
OriginOS Vision
Vivo独自のmixed reality向けオペレーティングシステム。専用アプリストアを持ち、13msの超低遅延を実現するとされる。
複合現実
現実世界にデジタル情報を重ね合わせる技術。仮想現実と拡張現実を組み合わせ、物理環境とデジタルオブジェクトのリアルタイム相互作用を可能にする。
視線追跡
ユーザーの視線方向を検出し、見つめているオブジェクトを特定する技術。Vivo Visionでは1.5°の精度を実現している。
パススルー
ヘッドセット外部カメラの映像をディスプレイに表示し、現実世界を見えるようにする機能。MR体験の基盤技術となる。
空間オーディオ
音源の位置や距離を再現し、3次元的な音響体験を提供する技術。頭の動きに合わせて音の定位が変化する。
【参考リンク】
vivo公式サイト(外部)
Vivoの全製品情報とニュースを掲載。Vision Discovery Editionの詳細仕様や体験店舗情報、同社のXR戦略について確認できる。
Apple Vision Pro – Apple(日本)(外部)
Apple Vision Proの公式製品ページ。仕様、機能、価格、デモ予約が可能。spatial computingの詳細解説も提供している。
Snapdragon XR2 Gen 2 Platform – Qualcomm(外部)
QualcommのXR向けチップセット公式ページ。技術仕様、パートナー企業、対応デバイス一覧を掲載。
【参考動画】
【参考記事】
Vivo’s $1400 Apple Vision Pro Clone Launches Across China(外部)
MacRumorsによる発表報道。Vivo Visionの詳細仕様とApple Vision Proとの比較分析、中国市場での戦略について解説。
Vivo’s Vision Headset Has Apple Squarely In Its Crosshairs(外部)
XR Todayの分析記事。Vivo VisionがAppleに与える競争圧力と企業向け市場への影響について専門的視点から考察。
Vivo Vision vs Apple Vision Pro: Specs, features, prices compared(外部)
India Todayによる両製品の詳細比較。技術仕様、価格、機能面での違いを表形式でわかりやすく整理。
Apple’s MR Headset Underperforms: Is Vivo Reluctant to Enter the Western Market?(外部)
36Krの市場分析記事。Apple Vision Proの市場パフォーマンス低迷とVivoの西欧市場参入戦略について業界関係者の見解を紹介。
vivo Vision undoubtedly wants to take over Apple’s Vision Pro(外部)
Gadget Matchの製品分析。Vivo VisionのハードウェアアドバンテージとAppleとの競争における優位性について評価。
【編集部後記】
Vivo Vision Discovery Editionの登場により、mixed reality市場は本格的な価格競争時代に突入しました。Apple Vision Proの半額という価格設定は確かに魅力的ですが、独自OSによるコンテンツ不足や中国企業製品のデータプライバシー問題はどう解決されるのでしょうか。また、398gという軽量化は長時間使用を前提とした企業利用への扉を開く可能性がありますが、果たして現場での実用性はどの程度でしょう。Vision Proが示した「高価格・高品質」路線に対し、「手頃な価格・実用性重視」というVivoのアプローチが市場にどのような変化をもたらすのか、今後の展開が注目されます。