VRヘッドセットメーカーのPimaxは、遅延中のフラッグシップモデル「Dream Air」について、9月末までに大幅な開発アップデートを発表すると約束した。同製品は2024年12月に発表され、当初5月のローンチを予定していたが、2025年第3四半期に延期されていた。
遅延の主因は、Sony製の高性能micro-OLEDパネル(片眼あたり13.6MP、3,840×3,552解像度)の調達困難である。このパネルはApple Vision Proと同じものとされる。一方、廉価版のDream Air SEは6.5MP(2,560×2,560)ディスプレイを使用しており、調達が容易な場合は高級モデルより先に出荷される可能性がある。
Dream AirはBigscreen BeyondやShiftall MaganeX Superlight 8Kと競合するコンパクトで高性能なPC VRヘッドセット市場を狙っている。同社は両モデルの予約注文を継続しており、製品ページには「Q3 2025年出荷開始」と記載されている。また、Pimax Crystal向けのワイヤレスストリーミング機能アップデートも9月に開始予定である。
From: Pimax Promises Development Update on Delayed Dream Air Headset by End of September
【編集部解説】
この遅延が示すVR業界の構造的課題について、技術的・市場的な観点から解説します。
サプライチェーンの脆弱性と戦略的リスク
Pimaxの遅延は、VR業界全体が抱える根本的な課題を浮き彫りにしています。Sony製micro-OLEDパネルの供給不足は、単一企業の問題ではなく業界全体の現象です。特に13.6MPという高解像度パネルは、Apple Vision Proと同じ仕様であり、需要が供給を大幅に上回っています。これは、先端技術における製造キャパシティの限界と、少数の企業による寡占状態を反映しています。
階層価格戦略の市場影響
興味深いのは、Dream Air SEという廉価版の存在です。6.5MPディスプレイを採用することで、高級モデルよりも先に市場投入される可能性があります。これは従来の「プレミアムファースト」戦略とは逆の現象で、技術調達の現実が製品戦略を左右する新しいパターンを示しています。
コンパクトPC VR市場の競争激化
Bigscreen BeyondやShiftall MaganeX Superlight 8Kとの競合は、VR市場における新たなセグメンテーションを意味します。従来の「高性能だが大型」から「高性能かつコンパクト」への転換は、VRの一般普及において重要な転換点となります。この市場セグメントの成功は、VRがニッチな娯楽から日常的なツールへ進化する鍵を握っています。
技術的メリットと潜在的リスク
micro-OLED技術により、従来比で大幅な小型化と高解像度化が実現されます。しかし、製造歩留まりの低さや高コストという課題も抱えています。また、高性能化に伴うGPU要求の増大は、ユーザーの参入障壁を高める可能性があります。
長期的市場展望
現在のサプライチェーン問題は一時的なものではなく、VR産業の成熟化過程における必然的な通過点です。2025年の近眼ディスプレイ市場は年率25.1%の成長が予測されており、需給バランスの改善には時間を要します。この状況は、VRハードウェア企業にとって技術力だけでなく、サプライチェーン管理能力が競争優位の源泉となることを示しています。
【用語解説】
Pimax:中国のVRヘッドセット専門メーカー。高解像度と広視野角に特化した製品を開発しており、PC VR市場で独自のポジションを確立している企業。
Dream Air:Pimaxが開発中の8K解像度対応超軽量VRヘッドセット。Sony製micro-OLEDパネルを搭載し、片眼あたり13.6MPの解像度を実現する次世代PC VRデバイス。
Dream Air SE:Dream Airの廉価版モデル。6.5MP(2,560×2,560)ディスプレイを採用することで、コストを抑えながら高品質なVR体験を提供する製品。
micro-OLED:マイクロディスプレイ技術の一種で、自発光するOLEDを超小型化したもの。従来の液晶と比べて高コントラスト、高速応答、軽量化を実現し、VR用途に最適化されている。
Sony製micro-OLEDパネル:Sonyが製造する高性能マイクロディスプレイ。Apple Vision Proにも採用されており、片眼あたり13.6MPの超高解像度を持つ最先端パネル。
Bigscreen Beyond:アメリカのBigscreen社が開発した超軽量PC VRヘッドセット。127gという世界最小クラスの重量とmicro-OLED採用が特徴の競合製品。
Shiftall MaganeX Superlight 8K:日本のShiftall社が開発した軽量8K VRヘッドセット。パナソニックと共同開発し、200g未満の重量と8K解像度を両立した製品。
【参考リンク】
Pimax公式サイト(外部)
高解像度・広視野角VRヘッドセット専門メーカーの公式サイト
Sony Semiconductor Solutions – OLEDマイクロディスプレイ(外部)
SonyのOLEDマイクロディスプレイ製品情報と技術仕様を詳細に紹介
Bigscreen公式サイト(外部)
世界最小クラスのPC VRヘッドセットBigscreen Beyond開発元の公式サイト
Shiftall公式ストア(外部)
日本のVRハードウェア企業ShiftallのMeganeX Superlight 8K製品情報
【参考動画】
【参考記事】
Pimax Delays Thin & Light ‘Dream Air’ PC VR Headset to Q3 2025(外部)
Dream AirとDream Air SEの発表時における延期発表とSony製micro-OLEDパネル供給問題についての詳細レポート
What Makes Sony Micro OLED Displays Stand Out?(外部)
Sony製micro-OLEDディスプレイの技術的優位性について解説した技術記事
Near-Eye Display Technologies and the Future of AR/VR(外部)
近眼ディスプレイ技術の市場動向とVR産業への影響を分析した投資視点からの記事
Quest 3 PCVR Connection Methods vs DisplayPort(外部)
DisplayPort直接接続とワイヤレス接続の技術的比較分析記事
Understanding SLAM in Robotics and Autonomous Vehicles(外部)
SLAM技術の基本概念と動作原理についてVRヘッドセット理解に役立つ技術解説
How does foveated rendering work, and what are its benefits in VR?(外部)
Foveated Rendering(視線追従レンダリング)の仕組みとVRにおける利点を詳細に解説
SteamVR Tracking Technology – Valve(外部)
ValveによるSteamVRトラッキング技術の公式説明と技術仕様
【編集部後記】
VRデバイス開発や流通だけでなく、micro-OLEDパネル調達やサプライチェーン全体に業界が直面している課題が浮かび上がってきました。今後、先端部品が多数の競合製品へどのように分配されるか、あなたは気になりませんか?また、超高解像度が日常の体験としてどこまで価値を発揮するのか、そしてワイヤレス化やAI連携は今後どれほど普及速度を加速させるのでしょうか。現状の課題が今後の体験や市場競争をどう変えるか、あなたはどの点に注目しますか?