Last Updated on 2025-05-22 14:40 by さつき
世界電気通信・情報社会日の由来
5月17日は「World Telecommunication and Information Society Day(世界電気通信・情報社会日)」です。この記念日は、1865年5月17日に世界初の国際電信条約が調印され、国際電気通信連合(ITU: International Telecommunication Union)が創設されたことを記念して制定されました。
ITUは、当初は「国際電信連合」として発足し、世界最古の国際機関として現在の国連の専門機関として世界の通信技術の標準化や発展に取り組んでいます。2025年は創設160周年という記念すべき年に当たります。
この記念日は元々1969年から「World Telecommunication Day(世界電気通信の日)」として祝われていましたが、2005年の「情報社会に関する世界サミット(WSIS)」を機に、2006年11月にトルコのアンタルヤで開催されたITU全権委員会議において、「World Telecommunication and Information Society Day」として統合されることが決定されました。初めて統合された形で祝われたのは2007年のことです。
この日は、インターネットやその他の情報通信技術(ICT)が社会や経済にもたらす可能性について認識を高め、デジタルデバイド(情報格差)を埋めるための方法を考える日として位置づけられています。2025年のテーマは「Gender equality in digital transformation(デジタル変革における男女平等)」です。
インターネット黎明期の通信事情
1990年代:ダイヤルアップ接続の時代
1990年代、一般家庭でインターネットが利用され始めた当初は、電話回線を使ったダイヤルアップ接続が主流でした。「ピーヒョロロ〜」というモデムの接続音は当時を知る人にとって懐かしい音です。この方式では、インターネット接続中は電話が使えず、また通話料金も加算されるため、多くの人が接続時間や料金を気にしながら利用していました。
通信速度も非常に遅く、当初は14.4Kbpsほどであり、最終的に56Kbpsまで向上したものの、現在の高速回線と比べると信じられないほど低速でした。日本では「テレホーダイ」(深夜早朝帯の電話料金定額制)がNTTから1995年に開始され、夜間のインターネット利用が増えていきました。
1995年にはWindows 95が発売され、TCP/IPプロトコルやダイヤルアップ接続機能、Webブラウザがプリインストールされていたことで、一般ユーザーのインターネット利用が爆発的に拡大しました。この時期には「ホームページ」の作成ブームも起こり、個人が情報発信できる時代が幕を開けました。
1990年代に登場した主なサービス
- 検索エンジン:1994年にWebCrawlerが登場し、1990年代後半には日本でもYahoo! JAPAN(1996年)やAltaVista(1995年、日本語対応の初の検索エンジン)が人気を集めました。
- 掲示板(BBS):「ティーカップ」(1997年)や「2ちゃんねる」(1999年)など匿名掲示板が登場し、インターネット上での新たなコミュニケーション文化が形成されました。
- Webブラウザ:Netscape Navigator(1990年代前半)がシェアを拡大しましたが、後にInternet Explorerが台頭。いわゆる「第一次ブラウザ戦争」が起こりました。
- インスタントメッセンジャー:ICQ(1996年)などのリアルタイムにメッセージをやり取りできるサービスが登場し、後のチャットアプリの基礎となりました。
- Webメール:Hotmail(1996年)などのISP登録なしでも利用できるメールサービスが登場し、個人のコミュニケーション手段が広がりました。
2000年代:常時接続と高速化
2000年代に入ると、ADSLやISDNなどの常時接続サービスが普及し始め、インターネット利用環境は大きく変化しました。特に2001年にソフトバンクが提供を開始した「Yahoo! BB」は破格の料金設定で、一般家庭への常時接続環境の普及を加速させました。
その後、光ファイバーを用いた接続サービス(Bフレッツなど)も登場し、通信速度は飛躍的に向上しました。これにより、写真や動画などの大容量コンテンツの共有が可能になり、2006年には「ニコニコ動画」、2007年には「YouTube」日本語版など、動画共有サービスも次々と登場しました。
2010年には、国内でモバイル端末からのインターネット利用者数がパソコンからの接続者数を上回り、インターネット利用の中心はパソコンからモバイル端末へと移行していきました。
2000年代に登場・普及した主なサービス
- SNS(ソーシャルネットワークサービス):mixi(2004年)が日本で大ヒットし、その後Facebook(2008年日本語版)やTwitter(2008年日本語版)などが登場、人々のコミュニケーション方法を大きく変えました。
- 動画共有サービス:YouTube(2005年設立、2007年日本語版)、ニコニコ動画(2006年)、Ustream(2007年)などが登場し、個人による動画配信が一般化しました。
- オンラインショッピング:Amazon.co.jp(2000年開始)や楽天市場の拡大により、eコマースが一般消費者に広く浸透しました。
- ブログサービス:アメーバブログ(2004年)やLivedoor Blog(2003年)など、個人が簡単に情報発信できるプラットフォームが普及しました。
- IP電話:Skype(2003年)などのインターネット経由の通話サービスが登場し、国際通話のコストが大幅に下がりました。
- クラウドサービス:Googleドキュメント(2006年)やDropbox(2008年)などのクラウドベースのサービスが登場し、データの共有や協働作業のあり方が変わりました。
- スマートフォンアプリ:2008年のiPhone登場とApp Store開設により、モバイルアプリケーション市場が爆発的に成長しました。
情報社会の現在と未来
当たり前になった高速・大容量通信
現在では、高速・大容量通信は私たちの生活に完全に溶け込み、当たり前のものとなりました。5G(第5世代移動通信システム)の普及により、モバイル環境でも超高速・大容量通信が可能となり、クラウドサービスの利用、高精細な動画ストリーミング、オンラインゲームなどが場所を選ばず楽しめるようになっています。
特にコロナ禍を経て、テレワークやオンライン会議、遠隔教育、遠隔医療など、物理的な距離を超えたコミュニケーションやサービス提供が社会に定着しました。情報通信技術は単なる便利なツールではなく、社会経済活動を支える基盤インフラとしての役割を強めています。
また、SNSの普及により個人の情報発信力が飛躍的に高まり、世界中の人々とリアルタイムでつながることが可能になりました。このように、情報社会は私たちの生活様式や価値観にも大きな変化をもたらしています。
2010年代以降に発展した主なサービス
- スマートスピーカー&AIアシスタント:Amazon Echo(Alexa)、Google Home、LINE Clova などの音声操作型AIアシスタントが家庭に浸透しました。
- 動画ストリーミングサービス:Netflix、Amazon Prime Video、Hulu、Disney+などのサブスクリプション型動画配信サービスが映像コンテンツの視聴スタイルを変革しました。
- ライドシェア&フードデリバリー:Uber、DiDi、Uber Eats、出前館などのシェアリングエコノミーサービスが拡大し、移動や食事の入手方法が多様化しました。
- モバイル決済:PayPay、LINE Pay、楽天ペイなどのQRコード決済やApple Pay、Google Payなどの非接触型決済が普及し、キャッシュレス化が進行しました。
- クラウドゲーミング:GeForce NOW、Xbox Cloud Gaming、PlayStation Nowなど、高性能な機器がなくてもハイエンドゲームを楽しめるサービスが登場しました。
- オンラインコミュニケーションツール:Zoom、Microsoft Teams、Slack、Discordなどが登場し、コロナ禍を経てリモートワークやオンライン教育の標準ツールとなりました。
- サブスクリプションサービス:音楽(Spotify、Apple Music)、電子書籍(Kindle Unlimited、読み放題)、ソフトウェア(Adobe Creative Cloud、Microsoft 365)など、所有からアクセスへの移行が顕著になりました。
- メタバース&ソーシャルVR:VRChat、cluster、Horizon Worldsなど、仮想空間での交流サービスが発展し始めています。
次世代通信技術と社会の変革
今後は、6G(第6世代移動通信システム)の研究開発が進み、2030年頃には実用化が見込まれています。6Gではより高速・大容量な通信が可能になるだけでなく、通信の遅延(レイテンシー)が極限まで削減され、あらゆるものがリアルタイムで連携する社会の実現が期待されています。
また、IoT(Internet of Things)の更なる進展により、交通システムや物流システムをはじめとした様々な社会システムが最適制御の対象となり、自動運転車の普及や社会インフラのスマート化が進むと予測されています。
さらに、VR(仮想現実)・AR(拡張現実)技術の発展と通信技術の融合により、物理的な距離を超えた新たな体験や教育、エンターテイメントが生まれる可能性があります。脳情報通信技術の研究も進められており、人間の感覚や思考を直接通信に結びつける技術も模索されています。
こうした技術の発展は私たちの生活をより豊かで便利なものにする一方で、デジタルデバイドの拡大やプライバシー問題、セキュリティリスクなどの課題も顕在化させています。「World Telecommunication and Information Society Day」は、これらの技術がもたらす恩恵を最大化しつつ、誰もが取り残されない包摂的な情報社会の実現に向けて考える機会でもあります。
未来に期待される通信技術とサービス
- ホログラフィック通信:3D映像が空間に投影され、遠隔地にいる人があたかもその場にいるかのような通信体験が可能になると期待されています。
- タクタイルインターネット:触覚や力覚なども含めた五感の情報を遠隔地と共有でき、遠隔手術や技能伝承などへの応用が見込まれています。
- 量子インターネット:量子暗号通信により盗聴や改ざんが理論上不可能なセキュアな通信ネットワークの構築が期待されています。
- 脳-コンピューター・インターフェース(BCI):思考だけで機器を操作したり、脳同士が直接情報をやりとりする技術が発展する可能性があります。
- スマートシティ・インフラ:都市全体がセンサーネットワークで接続され、交通・エネルギー・環境などを最適化する都市設計が進むでしょう。
- デジタルツイン:現実世界の物理的対象をデジタル空間に複製し、シミュレーションによる予測や最適化が可能になります。
- 拡張現実(AR)グラス:日常生活において常時装着可能なARグラスにより、現実世界とデジタル情報が融合した新しい体験が生まれるでしょう。
- インプランタブルデバイス:体内に埋め込み可能な超小型通信デバイスにより、健康管理や身体機能の拡張が進む可能性があります。
まとめ
5月17日の「World Telecommunication and Information Society Day」は、1865年の国際電信条約の調印とITUの創設を記念する日であり、情報通信技術の重要性を再認識する日です。
ダイヤルアップ接続の時代から高速光回線、そして5G時代へと急速に進化してきた通信技術は、私たちの生活や社会のあり方を大きく変えてきました。今後も6Gやその先の技術開発が進み、さらに革新的な情報社会が形成されていくでしょう。
テクノロジーの進化は止まることを知りませんが、大切なのは技術そのものではなく、それを通じて実現される人と人とのつながりや、より良い社会の構築です。この記念日を機に、情報通信技術と社会の関係性について、改めて考えてみるのはいかがでしょうか