ワールドゲームズ2025のドローンレーシング競技が中国・成都で開催される。19カ国から31名のアスリートが参加し、オリンピック以外では最大規模のマルチスポーツ競技大会である。競技は8月13日に開始し8月16日まで実施される。
8月13日は機体処理と公式練習飛行、8月14日は10:30-22:27に予選ラウンド1-5、8月15日は18:45-22:49に敗者復活戦とセカンドチャンス・シーケンスラウンド、8月16日は18:30-21:42に敗者復活戦とセカンドチャンス・シーケンスラウンド、21:10-21:42に決勝レース、22:00に表彰式が行われる。(日本時間)
競技はワールドゲームズの公式放送局によってライブストリーム配信される。視聴方法は「The World Games LIVE」アプリまたはFAI公式ウェブサイトでの配信となる。FAIがFacebookとInstagramでも情報を提供している。
From: How to watch the Drone Racing at The World Games 2025
【編集部解説】
今回のワールドゲームズ2025でのドローンレーシング競技は、単なるスポーツイベントを超えた重要な意味を持っています。オリンピック以外では最大規模のマルチスポーツ競技大会という舞台で、ドローンレーシングが正式種目として採用されたことは、この新興技術分野の社会的認知度向上において画期的な出来事といえるでしょう。
競技で使用されるレーシングドローンは、時速150kmを超える高速飛行が可能で、4つの前方向きモーターと機首に搭載されたカメラを装備しています。パイロットは頭部装着型ディスプレイ(ゴーグル)を着用し、ドローンのカメラからのライブ映像を見ながら操縦するFPV(First Person View)技術を駆使します。この技術により、パイロットと観戦者の両方が、地上に足をつけたまま高速飛行の疑似体験を楽しめるのです。
注目すべきは、成都で開催される会場のコースデザインです。トラックはジャイアントパンダの頭部をモチーフにした設計となっており、開催地への敬意を表現しています。このような文化的要素の取り入れは、グローバルなテクノロジースポーツに地域性を組み込む新しいアプローチとして興味深い試みです。
技術面での革新も見逃せません。最近の研究では、深層強化学習を活用した自律飛行システム「Swift」が人間の世界チャンピオンレベルの飛行を実現したと報告されています。このシステムは人間パイロットよりも短い感覚運動遅延(40ms対220ms)を実現し、一部のレースでは最速記録を樹立しました。
ただし、現在の自律システムには限界も存在します。環境条件の変化への適応性や、クラッシュ後の復旧能力において、人間パイロットの方が優れている側面があります。特に照明条件の変化は機械学習システムにとって大きな課題となっており、実用化に向けてはさらなる技術革新が必要です。
規制面では、ドローンレーシングの普及に伴い各国の航空当局が対応を迫られています。アメリカのFAAは夜間飛行の商用利用を一部解禁するなど、規制緩和の動きを見せており、これがドローンレーシングイベントの開催時間帯拡大につながる可能性があります。
長期的視点では、ドローンレーシングは自動運転車や配送ドローンなど、より広範囲な自律システム開発の試験場として機能しています。競技で培われる高速・高精度な制御技術、リアルタイム画像処理、障害物回避アルゴリズムは、将来的に様々な産業分野での実用化が期待されます。
特に注目したいのは、この競技がアジア地域で開催されることの意義です。中国をはじめとするアジア諸国は、ドローン技術の製造・開発において世界的な優位性を持っており、今回の大会は技術力を国際的にアピールする絶好の機会となるでしょう。
ライブストリーミング技術の活用も見どころです。「The World Games LIVE」アプリやFAI公式サイトでの配信により、世界中のファンがリアルタイムで競技を楽しめる環境が整備されています。これは従来のスポーツ観戦の概念を拡張し、デジタルネイティブ世代に向けた新しいエンターテインメント体験を提供するものです。
【用語解説】
FPV(First Person View)
ドローンのカメラからのライブ映像をリアルタイムで見ながら操縦する技術。パイロットは頭部装着型ディスプレイ(ゴーグル)を装着し、ドローンと一体になったような感覚で飛行する。
深層強化学習
機械学習の手法で、AIが試行錯誤を通じて自ら学習する技術。Swiftシステムでは、シミュレーション環境で何千回もの練習を重ねることで、人間レベルの飛行技術を獲得した。
感覚運動遅延
視覚情報を受け取ってから実際に行動するまでの時間差。人間は平均220msかかるが、Swiftシステムは40msと大幅に短縮している。
セカンドチャンス・シーケンスラウンド
敗者復活戦。一度敗退した選手が再び上位ラウンドに進める機会を提供するトーナメント形式。
【参考リンク】
FAI(国際航空連盟)公式サイト(外部)
航空スポーツを統括する国際組織。ドローンレーシングの世界選手権や技術規則を管理している。
The World Games 2025公式サイト(外部)
オリンピック以外では最大級のマルチスポーツ競技大会。4年に一度開催される。
米国連邦航空局(FAA)(外部)
アメリカの航空安全を管轄する政府機関。ドローンの飛行規則を定めている。
チューリッヒ大学ロボティクス・知覚グループ(外部)
Swiftシステムを開発した研究チーム。ドローンの自律飛行技術の先端研究を行っている。
【参考動画】
【参考記事】
Champion-level drone racing using deep reinforcement learning(外部)
Nature誌に掲載された論文。Swiftシステムの技術詳細と実験結果を記載。
Swift AI Drones with Deep Reinforcement Learning (RL)(外部)
ACMによるSwiftシステムの技術解説記事。人間チャンピオンとの対戦結果を詳述。
Air sports at the 2025 World Games(外部)
ワールドゲームズ2025の詳細情報を掲載。31名の選手参加とコースデザインを記録。
Drone Flying at Night: FAA Rules, Lighting Requirements, and Penalties 2025 Guide(外部)
2025年最新のFAA夜間飛行規則を詳述。規制緩和の動きを解説している。
Key Updates to FAA Drone Regulations in 2025(外部)
2025年FAA規制の主要変更点をまとめた記事。Remote ID義務化などを詳述。
【編集部後記】
ドローンレーシングが世界最高峰の舞台で競技種目として認められた瞬間を、私たちは目撃しています。時速150kmを超える機体を操る人間パイロットと、40msの超高速反応を実現するAIシステム。
この技術革新の先に見えるのは、どのような未来でしょうか。自動運転や配送ドローンの進化、そして私たちの日常生活への影響を一緒に考えてみませんか。皆さんは、人間とAIが競い合うこの新時代のスポーツに、どのような可能性を感じられますか?