台湾軍は2025年8月14日、軍事ニュース機関のウェブサイトに投稿された動画で、新たに開発された2機のドローンと105mm砲を搭載した車輪式戦車を公開し、同国の国産防衛技術の進歩を強調した。
この2機の無人航空機(爆弾投下型と固定翼徘徊型攻撃機)は、兵器局202工場と民間企業が共同で開発したと、同機関が発表した。
両システムは非対称戦争向けに設計されており、迅速な組み立て、量産性、費用対効果、運用効率に重点を置いている。爆弾投下型ドローンはマルチローター・プラットフォームを使用してより大型の弾薬を運搬し、目標上空でホバリングして爆発物を投下することができる。
一方、徘徊型攻撃機はカタパルトで発射され、衝突時に爆発し、長距離攻撃能力を提供する。
車輪式戦車D3プロトタイプは兵器局と国家中山科学研究院が共同開発し、105mm低反動戦車砲を搭載する。有効射程は2km以上で500mmの装甲を貫通する能力を持つ。開発費用はNT$2億9,000万(約967万米ドル)である。最高速度100km/h、航続距離500kmで、30mm徹甲弾に耐える能力を備える。
From: DEFENSE/Taiwan unveils 2 indigenously developed drones, tank
【編集部解説】
台湾が公開した軍事技術開発は、現代の戦場における技術革新の最前線を物語っています。今回公開された2種類のドローンと車輪式戦車D3プロトタイプは、単なる兵器の更新にとどまらず、台湾の防衛戦略の根本的な転換を示すものです。
非対称戦争への対応と技術的独立
台湾軍が「非対称戦争」を前提とした設計を採用していることは、地政学的現実を踏まえた合理的判断といえます。数的劣勢を技術的優位で補う戦略は、ウクライナ戦争で実証されたドローン技術の有効性を直接的に取り入れています。特に注目すべきは、開発における高い国産化率です。車輪式戦車D3プロトタイプでは外装を兵器局が製造し、砲塔を国家中山科学研究院が開発するなど、技術的自立という戦略目標が具現化されています。
量産性と費用対効果の革新
今回公開された技術で特筆すべきは、量産を前提とした設計思想です。台湾政府は大規模なドローン製造体制の構築を進めており、民間企業との協力体制も含めた包括的な産業基盤を整備しています。NT$2億9,000万(約967万米ドル)という車輪式戦車の開発費用は、従来の主力戦車と比較して大幅に抑制されており、予算制約下での効率的な防衛力整備を実現しています。
技術的側面での革新ポイント
爆弾投下型ドローンのマルチローター・プラットフォームは、ホバリング機能により精密な攻撃を可能にします。一方、徘徊型攻撃ドローンのカタパルト発射システムは、長距離攻撃能力と運用コストの最適化を両立させています。車輪式戦車D3の電気制御砲塔駆動システムとハンター・キラー能力は、M1A2T主力戦車と同等の先進的な火器管制システムを小型化されたプラットフォームで実現したという点で技術的意義があります。
戦術運用における優位性
最高速度100km/h、航続距離500kmという車輪式戦車の機動性は、台湾の道路インフラを活用した迅速な戦力展開を可能にします。これは従来の履帯式戦車では実現困難な戦術的柔軟性を提供し、「撃って逃げる」戦術や分散配備による生存性向上を実現します。
潜在的課題と今後の展望
一方で、105mm砲の火力については、将来的な120mm砲への換装も視野に入れた改良が検討される可能性があります。また、ドローン技術については、サプライチェーンの安全保障を重視した部品調達体制の構築が課題となっており、技術的自立と国際協力のバランスが問われています。
長期的な技術発展への影響
台湾の無人航空機開発は、AI搭載のドローン群制御技術の実用化を加速しており、大規模な自律ドローン配備計画は、戦場におけるAI技術の実用化レベルを大幅に押し上げることになります。これは軍事技術にとどまらず、民生用ドローン技術の発展にも大きな影響を与える可能性があります。
【用語解説】
非対称戦争
戦力の劣勢を補うため、より迅速かつ柔軟な戦術・兵器を活用し、敵の弱点を突く戦い方を指す。
徘徊型攻撃ドローン
目標付近を旋回し、最適なタイミングで攻撃を行う無人航空機の一種。英語ではLoitering munitionと呼ばれる。
電気制御砲塔駆動システム
砲塔の回転や照準を電動モーターで制御し、射撃精度を向上させる技術。
ハンター・キラー能力
戦車の火器管制システムで、砲手と指揮官が異なる目標を同時に追尾・攻撃できる機能。
兵器局202工場
台湾国防部軍備局に属する工場の一つで、大型火砲や弾薬の設計・製造を担う。
【参考リンク】
台湾国防部(外部)
台湾の国防を統括する政府機関。兵器局を含む複数の部局を管轄し、国防政策の策定と実行を担っている。
国家中山科学研究院(NCSIST)(外部)
台湾の国営兵器開発機関であり、最新鋭の防衛技術や兵器システムの研究開発・製造・メンテナンスを行う。
【参考記事】
Taiwan Reveals Advanced D3 Prototype of 105mm Wheeled Combat Vehicle(外部)
D3プロトタイプの車高低減と装甲改良で安定性が向上。最高速度100km/h、500kmの航続距離を持つ高機動性を実現。
Taiwan’s drone industry advances with AIDC tech transfer deal(外部)
国家中山科学研究院がAIDCに無人機の複合素材エアフレーム技術を移転。台湾のUAV産業発展とグローバル供給網構築に向けた動き。
Taiwan Army rejects wheeled Leopard tank prototype(外部)
台湾陸軍が以前の車輪式戦車プロトタイプを拒否した経緯を説明。D3プロトタイプの開発背景と改良点の詳細。
【編集部後記】
台湾の防衛技術開発が示すように、地政学的な緊張が技術革新を加速させる現代において、私たちは軍事技術と民生技術の境界が曖昧になる時代を迎えています。
今回公開されたドローン技術や車輪式戦車の設計思想は、災害救援や物流、建設分野への応用可能性も秘めています。読者の皆さんは、このような「デュアルユース技術」が私たちの日常生活にどのような変化をもたらすと考えますか?
また、技術的自立を目指す台湾の取り組みから、日本の技術産業が学べることはあるでしょうか?ぜひSNSでご意見をお聞かせください。皆さんの視点から見た「技術と安全保障」について、一緒に考えていきましょう。