米国の国家道路交通安全局(NHTSA)は2025年8月6日、Amazon.comの自動運転部門Zooxの車両に対しデモンストレーション使用の適用除外を発行し、連邦要件への適合調査を終了したと発表した。
NHTSAは2023年3月から従来の運転制御装置を欠くZooxの自動運転車両が連邦安全要件を満たしているかどうか調査していた。Zooxは6月に一部要件からの適用除外を申請し、NHTSAが承認した。
現在米国の公道で運行しているZoox製造の全専用車両は同機関発行の適用除外に基づき運行している。トランプ政権は6月、最大2,500台の自動運転車両展開のため適用除外要請処理の迅速化を発表した。
5月にZooxは4月8日にラスベガスで無人ロボタクシーが乗用車と衝突した事故を受け270台の無人運転車両をリコールした。4月にはブレーキ問題で258台のZoox車両への調査が終了した。
From: US issues exemption for self-driving Zoox vehicles, closes probe
【編集部解説】
今回のZooxへの適用除外承認は、米国の自動運転車業界において極めて重要な転換点です。最も注目すべきは、これが国内製造車両に対する初の適用除外認定であることで、従来は海外製車両のみが対象だった制度が拡張された意義は計り知れません。
トランプ政権は6月に適用除外プロセスの迅速化を発表し、この政策変更により従来数年を要していた審査期間が大幅に短縮されました。これまでGeneral MotorsやFordからの類似申請は長期にわたって滞り、最終的に撤回された歴史があります。今回の迅速な処理は、新たな規制枠組みが実効性を証明した事例と言える。
技術的な観点から見ると、Amazon傘下のZooxの車両は従来の自動車の概念を根本から覆すものです。ハンドルやペダル、サイドミラーさえ存在しない完全な専用設計は、自動運転技術の完成度の高さを示しています。対称的な双方向デザインにより、車両は前進も後進も同等に行える革新的な構造を持ちます。
一方で、安全性への懸念も残されています。2024年5月に起きた2件の追突事故では、Zoox車両の急ブレーキによりオートバイ運転手が軽傷を負いました。また、2025年4月のラスベガスでの衝突事故は、システムが他車両の動きを正確に予測できない状況があることを露呈しました。これらの問題に対し、Zooxはソフトウェア更新により対応していますが、完全自動運転の技術的課題を浮き彫りにしています。
規制面では、適用除外の条件としてZooxは連邦安全基準への適合表示をすべて削除する必要があります。これは、現行の安全基準が自動運転車の実態に適していないことを間接的に示しており、将来的な規制体系の抜本的見直しの必要性を示唆しています。
商業化の観点では、現在の承認はあくまでデモンストレーション使用に限定されており、本格的な商用サービス開始には追加の承認が必要です。しかし、Zooxは年間10,000台の生産能力を持つカリフォルニア工場の建設を進めており、規制環境の整備とともに急速な事業拡大が予想されます。
【用語解説】
NHTSA
米国の国家道路交通安全局である。道路交通の安全性向上を目的とする連邦政府機関で、自動車の安全基準、リコール指導を担当する。
自動運転車
人間の運転手なしで自動的に運転を行う車両である。センサーやAI技術を用いて周囲の状況を把握・判断する。
デモンストレーション使用適用除外
通常の連邦自動車安全基準を満たさなくても、公道上で技術の実証を目的とした運行を特別に許可する制度である。
リコール
製造メーカーが製品の安全性に問題がある場合に、所有者に対して無償修理や交換を呼びかける制度である。
【参考リンク】
Zoox公式サイト(外部)
Amazon傘下の自動運転ロボタクシー企業の公式サイト。ハンドルやペダルを持たない専用設計車両の最新技術やサービス情報を掲載。
米国NHTSA公式サイト(外部)
米国連邦道路交通安全局の公式ページ。自動車の安全基準、公道走行に関する規制情報が得られる。
【参考動画】
NHTSAがZooxのロボタクシーを公道走行のために認可したニュースを解説している。技術と規制との関係をわかりやすく説明している。
【参考記事】
NHTSA Issues First-Ever Demonstration Exemption to American-Built Automated Vehicles(外部)
NHTSAがZooxの専用自動運転車両に対し、初めて米国内製造の車両としてデモンストレーション使用適用除外を発行した背景と経緯を解説。
Amazon’s Zoox robotaxi unit clears regulatory hurdle, safety probe(外部)
Zooxの適用除外承認と過去の衝突事故調査の終了について報告。テクノロジーの進展と規制対応の最新動向を伝える。
【編集部後記】
今回のAmazon傘下Zooxの承認は、私たちが想像していた「未来のクルマ」がついに現実になった瞬間かもしれません。ハンドルもペダルもない完全自動運転車が公道を走る時代が、もう目の前まで来ています。
しかし、この記事を執筆していて改めて感じたのは、日米の規制アプローチの根本的な違いです。米国の「適用除外型」と日本の「段階的適合型」、この差は単なる制度の違いを超えて、技術革新に対する社会の価値観そのものを反映しています。
Zooxが日本のフレームワークで言えば「レベル4実証実験・社会実装初期段階」に相当するとすれば、福井県永平寺町での取り組みと本質的には同じ段階にあります。ただし、技術的完成度と展開規模では大きな差があるのも事実です。
みなさんは、こうした技術革新をどのように受け止めていらっしゃいますか?便利さへの期待と同時に、安全性への不安も感じられるのではないでしょうか。
私たちinnovaTopiaでは、この日米の規制フレームワークの違いをより詳しく分析し、日本の自動運転産業が国際競争力を維持するための課題と展望について、近日中に特集記事を企画したいと考えています。読者のみなさんからのご意見やご質問もお待ちしており、ぜひ一緒にこの変化の意味を考えていければと思います。