中国科学院遺伝発生生物学研究所(IGDB)の研究チームが、世界初の全プロセス型インテリジェント育種ロボット「GEAIR」を開発した。2025年8月15日に発表され、研究成果は学術誌「Cell」に掲載された。
GEAIRは、AI視覚認識と位置決定技術を用いて作物間を正確に移動し、交配作業を実行する能力を持つ。バイオテクノロジーとAI技術を深く融合させることで、農業分野のインテリジェント育種に革新をもたらす。
IGDB研究者のXu Cao氏は、AIとロボットが交雑育種を精密農業にシフトすることで作物収量向上、コスト削減、持続可能な取り組み促進に大きな可能性をもたらすと述べた。
同氏は、この研究がバイオテクノロジー・AI・ロボット労働を統合したインテリジェント育種モデルの始動であり、中国としてインテリジェントロボット化交雑育種のクローズドループ技術システム構築における先駆的成果だと説明した。
中国科学院オートメーション研究所准研究員のYang Minghao氏は、GEAIRが気候変動に強い作物育種の自動化・高速化により効率向上とコスト削減の潜在能力を実証したと発表した。
From: Chinese scientists develop world’s first full-process intelligent breeding robot
【編集部解説】
従来の植物育種は熟練した作業者の経験と直感に大きく依存してきました。しかし、世界人口の増加と気候変動の影響により、より効率的で精密な育種手法が急務となっています。GEAIRはまさにこのタイミングで、経験主導型から精密農業への大転換を可能にする技術として登場しました。
技術の核心部分について
GEAIRの最も革新的な点は、AI視覚認識と位置決定技術により、花を正確に識別し、ロボットアームで交配作業を完了する能力です。これは単なる自動化ではありません。研究チームは「作物とロボットの共同設計」という概念を提唱し、遺伝子編集技術を用いて花の構造自体を「ロボットに優しい」形に再設計しました。
この技術が実現すること
GEAIRによって可能になるのは、従来の手作業では不可能だった24時間体制での精密育種です。大豆育種での実証実験では、構造的雄性不稔系統を記録的な短時間で作成することに成功しています。これは育種の効率化だけでなく、気候変動に強い作物の迅速な開発を可能にします。
ポジティブな側面と潜在的な課題
技術の利点は明確です。作物収量の向上、コスト削減、持続可能な農業の促進が期待されます。しかし、この技術の普及には課題も存在します。高度な技術を要するため、導入コストや技術者の育成が必要となります。また、農業の自動化が進むことで、従来の農業従事者の雇用への影響も考慮すべき点です。
規制と将来への影響
AIとロボティクスの融合により、農業分野の規制枠組みも変化が求められるでしょう。特に遺伝子編集を伴う技術であるため、各国の規制当局による慎重な検討が必要です。長期的には、この技術が世界の食料安全保障に与える影響は計り知れません。
「AI for Science」の実現
研究者らが強調する「AI for Science」という概念は、科学的発見そのものをAIが加速させる時代の到来を意味しています。GEAIRは、この概念を農業分野で具現化した先駆例として、他の科学分野への波及効果も期待されます。
この技術は現在大豆での実証段階ですが、研究チームは他の作物への応用も計画しており、近い将来、私たちの食卓に並ぶ作物の多くがこの技術によって生み出される可能性があります。
【用語解説】
バイオテクノロジー
生命科学の技術を用いて生物の特性を改良・活用する技術体系。農業では作物の品種改良や病害抵抗性の向上に使われる。
AI(人工知能)
人工的に作られた知能で、人間の学習や判断の能力をコンピュータに持たせる技術。画像認識や自動制御などに応用される。
交雑育種
異なる品種の植物を交配して、新しい品種を作り出す育種方法。収量や品質の向上を目指す。
精密農業
IT技術やAIなどを活用して、農業を科学的・効率的に管理・運営する方法。必要な場所に必要な資源を最適に配分する。
スピード育種
成長条件を制御して発育を早める技術で、育種サイクルの高速化を可能にします。
雄性不稔系統
花粉を生産しない植物系統で、交配を効率的に行うために使われる。
クローズドループ技術システム
育種の各工程が自動化され、連続的に行われる一連の技術システム。効率的な育種が可能となる。
【参考リンク】
中国科学院遺伝発育生物学研究所(外部)
中国科学院の傘下にある生命科学研究所で、遺伝子や発生生物学の分野で研究を行っている。
【参考記事】
New robot transforms plant breeding(外部)
中国科学院の研究チームが開発したGEAIRによる植物全プロセス自動化と育種効率向上について紹介。
Chinese Researchers Develop World’s First AI-Based Breeding Robot(外部)
GEAIRがゲノム編集とAIロボティクスを組み合わせた大豆育種のブレークスルーを実現。
China unveils world’s first AI robot for full-process crop breeding(外部)
24時間稼働可能なGEAIRによる自動化精密育種と気候変動耐性作物開発の加速について解説。
【編集部後記】
AIとロボティクスが農業の現場に本格参入する時代がついに始まりました。GEAIRのような技術は、私たちの食卓に並ぶ作物の品質や価格にも影響を与える可能性があります。皆さんは、こうした農業革命が進む中で、どのような食の未来を想像されますか?
また、テクノロジーによる食料生産の効率化と、従来の農業が持つ価値のバランスについて、どのようにお考えでしょうか?ぜひSNSで、皆さんのご意見や疑問をお聞かせください。一緒に未来の農業について考えてみませんか。