フロリダ大学開発のmRNAがんワクチン、マウス腫瘍を完全消失させる「第3のパラダイム」を実証

フロリダ大学開発のmRNAがんワクチン、マウス腫瘍を完全消失させる「第3のパラダイム」を実証 - innovaTopia - (イノベトピア)

フロリダ大学の研究チームが開発した実験的mRNAがんワクチンが、マウスモデル研究において免疫療法の効果を向上させることが判明した。

研究結果は2025年8月19日にNature Biomedical Engineering誌で発表された。筆頭研究者のエリアス・サユール医学博士らは、特定の腫瘍タンパク質を標的とする従来のアプローチと異なり、免疫システム全体を活性化する手法を採用した。

mRNA製剤をPD-1阻害剤と組み合わせた場合、メラノーマの治療抵抗性腫瘍で有望な結果を示した。さらに皮膚がん、骨がん、脳がんのマウスモデルでは、mRNA製剤単独でも有益な効果が確認され、一部のモデルでは腫瘍が完全に除去された。

この技術は腫瘍内でPD-L1タンパク質の発現を刺激することで作用する。研究は国立衛生研究所を含む複数の連邦機関と財団の支援を受けている。共著者のデュアン・ミッチェル医学博士は、このアプローチががんワクチン開発の第三のパラダイムを示唆すると述べた。

研究チームは現在、人間の臨床試験への移行を目指している。

From:文献リンクA new cancer vaccine just wiped out tumors in mice

【編集部解説】

このニュースで最も注目すべき点は、従来のがんワクチン開発の常識を覆す「第三のパラダイム」が提示されていることです。これまでがんワクチンは、特定の腫瘍抗原をターゲットにするか、患者ごとに個別化するかの二択でした。しかし今回の研究は、がんを特定的に標的とせず、単純に免疫システム全体を「ウイルス感染と同様の状態」に活性化させるという全く新しいアプローチを示しています。

技術的な仕組みを詳しく見ると、このワクチンは腫瘍内でPD-L1タンパク質の発現を刺激することで作用します。PD-L1は通常、がん細胞が免疫システムからの攻撃を回避するために利用するタンパク質ですが、この研究では逆にそれを利用して免疫反応を増強させています。特にI型インターフェロン反応を早期に活性化することで、免疫システムの「リセット」効果を狙っているのが特徴的です。

この技術が実用化されると、がん治療に大きな変革をもたらす可能性があります。「既製品」として幅広いがん患者に適用できるため、個別化医療のコストや時間的制約を大幅に軽減できるでしょう。また、手術、放射線治療、化学療法に代わる第四の治療選択肢として位置づけられる可能性もあります。

一方で、潜在的なリスクも考慮する必要があります。免疫システムを非特異的に活性化することで、自己免疫疾患のリスクが高まる可能性は否定できません。また、マウスモデルでの成功が必ずしも人間での有効性を保証するものではないため、臨床試験での安全性確認が重要になります。

サユール博士の研究チームは既に昨年、膠芽腫患者4名を対象とした世界初の人間臨床試験で個別化mRNAワクチンの有効性を実証しており、今回の汎用アプローチへの発展は自然な流れといえます。現在、研究チームは製剤の改良と人間臨床試験への迅速な移行を目指しており、がん治療の新時代の幕開けが期待されています。

この研究は単なる基礎研究の域を超え、実用化への明確な道筋を示している点で、がん医療の未来を大きく変える可能性を秘めています。

【用語解説】

mRNA(メッセンジャーRNA)
細胞内でDNAからタンパク質を合成するための設計図として機能する分子。COVID-19ワクチンでも使用された技術である。

免疫チェックポイント阻害剤
がん細胞が免疫システムの攻撃を回避するために利用する「ブレーキ」機能を解除する薬剤。PD-1阻害剤もこの一種である。

PD-L1
がん細胞が発現するタンパク質で、通常は免疫細胞からの攻撃を回避するために利用される。今回の研究では逆にこれを利用して免疫反応を増強している。

膠芽腫(グリオブラストーマ)
最も攻撃的な脳腫瘍の一種で、予後が極めて不良とされる。現在の標準治療では根治が困難である。

脂質ナノ粒子
mRNAを細胞内に効率的に送達するための運搬体。COVID-19ワクチンでも同様の技術が使用されている。

T細胞
免疫システムの中核を担う白血球の一種で、感染細胞やがん細胞を直接攻撃する機能を持つ。

第三のパラダイム
従来の「特定標的型」「個別化型」に続く、「汎用免疫活性化型」という新しいがんワクチン開発のアプローチ。

【参考リンク】

フロリダ大学(外部)
アメリカ・フロリダ州にある州立大学。医学部や工学部を擁する総合大学で、特に脳腫瘍研究分野で世界的な成果を上げている。

Nature(外部)
世界最高峰の科学雑誌の一つ。今回の研究成果は系列誌の*Nature Biomedical Engineering*に掲載された。

プレストン・A・ウェルズ・Jr.脳腫瘍療法センター(外部)
フロリダ大学内の脳腫瘍専門研究センター。アメリカ最大級の脳腫瘍センターの一つで、100名以上の専従スタッフを擁している。

マックナイト脳研究所(外部)
フロリダ大学内の神経科学研究の中核機関。250名以上の研究者が在籍し、脳がん研究から認知症研究まで幅広い分野をカバーしている。

【参考記事】

Surprising finding could pave way for universal cancer vaccine(外部)
フロリダ大学の公式発表として、今回の研究の背景と意義について詳細に解説。特に「第三のパラダイム」の重要性と、既製品ワクチンとしての可能性に言及している。

‘Universal’ cancer vaccine heading to human trials could be useful for all forms of cancer(外部)
Live Scienceによる詳細な技術解説記事。I型インターフェロン反応の活性化メカニズムと、従来のがんワクチンとの違いについて科学的観点から分析している。

Promising First Steps Toward a Universal mRNA Cancer Vaccine(外部)
精密医療専門メディアによる記事。研究の技術的詳細と臨床応用への道筋について、医療従事者向けの観点から解説している。

Researchers move closer to a universal cancer vaccine(外部)
CNBCによる経済・産業的観点からの分析記事。がんワクチン市場への影響と商業化の可能性について言及している。

UF-developed mRNA vaccine triggers fierce immune response to fight malignant brain tumor(外部)
サユール博士の過去の研究成果(個別化mRNAワクチン)について詳述した記事。今回の汎用ワクチンへの発展の基盤となった研究である。

【編集部後記】

がんとの闘いが「個別化医療」から「汎用治療」へと大きく舵を切ろうとしています。
この研究が示す「第三のパラダイム」は、従来の常識を覆すアプローチとして注目されますが、同時に免疫システムを非特異的に活性化することのリスクも気になるところです。

皆さんは、この「既製品ワクチン」のアプローチをどう思われますか?
また、個別化医療とのバランスをどう取るべきでしょうか?がん治療の未来について、ぜひご一緒に考えてみませんか。

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TaTsu
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