米陸軍が師団あたり1,000機のドローン配備へ 2026年末までに戦術航空を根本変革

米陸軍が師団あたり1,000機のドローン配備へ 2026年末までに戦術航空を根本変革 - innovaTopia - (イノベトピア)

米陸軍は2026年末までに各師団あたり約1,000機のドローンを配備する陸軍変革イニシアチブを実施する。

この計画はダニエル・ドリスコル長官が主導し、ピート・ヘグセス国防長官が承認した。現在約90%を占める有人航空機から無人システムへの大幅な転換である。ドローンはISR監視、攻撃、兵站、電子戦、戦術支援の機能に分割され、3つの試験旅団で既に実装されている。

AH-64Dアパッチなど1時間あたり10,000ドルのコストを持つ有人攻撃ヘリコプターの削減も計画される。レプリケーター・イニシアチブは2025年8月までに数千の自律システムを提供予定で、自爆攻撃ドローンに10億ドル、小型戦術UASに11億ドル、対ドローンシステムに5億ドルの資金が含まれる。

Skydio X2D/RQ-28やRed Cat Black Widowなどの戦術ドローンが対象システムとなる。月間10,000機のドローン生産能力を持つ生産ラインが構築され、変革計画全体の予算は5年間で約360億ドルである。

From: 文献リンクThe US Army is shifting to 1,000 drones per division and redefining tactical aviation

【編集部解説】

米陸軍の師団あたり1,000機ドローン計画は、単なる数字の話ではありません。この変革は、戦場における戦術思想の根本的な転換を意味しています。

従来の有人攻撃ヘリコプター1機の運用コストが1時間あたり10,000ドルであるのに対し、新たに導入される消耗可能ドローンシステムは従来の航空機よりも大幅に安価な設計となっています。この「消耗可能」という概念こそが、今回の変革の核心部分です。従来の航空機のように数十年間運用する前提ではなく、戦闘で失われることを織り込み済みの設計思想へと転換しています。

注目すべきは、この計画が単なる机上の論議ではなく、既にヨーロッパで実地検証が進んでいることです。ドイツのグラーフェンヴェア訓練場では、第3歩兵師団の兵士たちがFPV(First Person View)ドローンの実弾射撃訓練を実施しており、2025年9月のセイバー・ジャンクション演習では実戦的な検証が予定されています。

技術的な側面では、Skydio X2Dのような高度な自律性能を持つドローンが既に配備段階に入っています。重量1.3キロ(バッテリー込み)で、1分以内に運用開始可能、通信範囲として6~10キロメートルを持つこのシステムは、障害物回避機能を備えており、兵士がパイロット技術を習得する必要性を大幅に軽減します。

一方で、この変革には重大な課題も存在します。中国の大規模なドローン生産能力に対し、米国は生産能力の拡大が課題となっています。この課題に対応するため、議会では軍事ドローンの生産と輸出を促進する法案が審議されており、民間企業への直接融資や前払い購入契約などの支援策が検討されています。

長期的な視点では、この変革は同盟国との軍事協力関係にも影響を与える可能性があります。米国製ドローンの輸出促進を目的とした法案も議会で審議されており、軍事技術の輸出管理体制の見直しも含めた包括的な政策転換が進行中です。

しかし最大のリスクは、この大規模な投資が実際の戦闘効果に結びつかない可能性です。ウクライナ戦争の教訓を基にした変革とはいえ、米軍の官僚的で構造化された組織文化が、小規模で機敏な運用を前提とするドローン戦術と適合するかどうかは未知数と言えるでしょう。

【用語解説】

陸軍変革イニシアチブ(Army Transformation Initiative)
米陸軍が推進する軍事組織の近代化計画で、従来の有人航空機中心の戦術から無人システム中心の戦術へと根本的に転換することを目指している。

ISR監視
Intelligence, Surveillance, and Reconnaissance(情報収集、監視、偵察)の略称で、軍事作戦における基本的な情報収集活動を指す。

徘徊弾薬
目標を発見するまで空中で待機し、発見後に攻撃を行う自爆型ドローンの一種。「神風ドローン」とも呼ばれる。

レプリケーター・イニシアチブ(Replicator Initiative)
米国防総省が推進する大量の低コスト無人システムを迅速に配備する計画で、中国の軍事能力に対抗することを目的としている。

NDAA(国防授権法)
National Defense Authorization Actの略称で、米国の年次国防予算と政策を定める法律。近年は中国製ドローンの政府機関での使用を禁止する条項も含まれている。

Blue UAS List
米国防総省が承認したサイバーセキュリティと供給チェーン基準を満たすドローンシステムのリスト。政府機関はこのリストから調達することが推奨されている。

FPV(First Person View)ドローン
操縦者がドローンに搭載されたカメラ映像を見ながらリアルタイムで操縦するドローンシステム。まるでドローンに搭乗しているかのような視点で操縦できる。

【参考リンク】

Skydio公式サイト(外部)
AI駆動の自律飛行技術を持つ米国製ドローンメーカー。X2Dは米軍の短距離偵察要件を満たすよう設計され、360度障害物回避機能を搭載している。

Red Cat Holdings公式サイト(外部)
Black WidowやFANGなどのNDAA準拠ドローンを開発する米国企業。子会社のTeal DronesとFlightWave Aerospaceを通じて軍事・政府向けシステムを提供。

Skydio X2D製品ページ(外部)
重量1.3キロ(バッテリー込み)でありながら35分の飛行時間と6km~10kmの通信範囲を持つ軍事・防衛用ドローン。カラーカメラとFLIR熱画像センサーを搭載している。

【参考記事】

The Drones the US Military is Looking for Now(外部)
米軍が求める消耗可能ドローンシステムについて詳しく解説。従来の航空機とは異なる運用思想や設計コンセプトについて分析している。

FPV Drone Training in Germany Continues drumbeat of the Army’s transformation initiative(外部)
第3歩兵師団がドイツでFPVドローンの実弾射撃訓練を実施。2025年9月のセイバー・ジャンクション演習での実戦検証計画についても言及。

Parsing the Pentagon’s July 2025 Guidance on Drones(外部)
国防総省のドローン政策について分析。米国のドローン生産能力拡大の課題や政策的な取り組みについて詳述している。

US Army Enhances Tactical Reconnaissance Capabilities with New Skydio X2D Drone(外部)
Skydio X2Dの技術仕様について詳述。重量1.3キロ(バッテリー込み)、1分以内の運用開始、通信範囲6~10キロメートルなどの具体的な性能数値を提供。

Congress Moves to Fast-Track U.S. Military Drone Production and Exports: LEAD Act(外部)
米国製ドローンの輸出促進と生産拡大を目的とした法案について報告。軍事ドローンの生産・輸出促進に向けた政策動向について解説。

【編集部後記】

今回の米陸軍の変革は、戦争の形が根本的に変わる転換点かもしれません。1機数億円のヘリコプターから、数十万円のドローン群への移行は、まさにテクノロジーが軍事戦略を書き換える瞬間です。

皆さんはこの変化をどう見られますか?民間でもドローン技術が急速に発展する中、軍事用途での大規模運用が民生技術にどんな影響を与えるでしょうか。また、AI搭載の自律ドローンが戦場で群れをなして飛び回る未来は、SF映画の世界だけのものではなくなりそうです。この技術革新が、私たちの日常にどのような形で還元されるのか、一緒に考えてみませんか。

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TaTsu
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