8月21日からGoogle SearchのAI Modeは180か国・地域に拡張され、agentic AI機能は米国のGoogle AI Ultra加入者向けに開始された。この新機能により、ユーザーは「水曜日に最低4つ星評価の最寄りのラーメン店で6人用のテーブルを予約して」といった複雑な要求を一度に伝えるだけで、AIが複数のステップを自動実行し、実際の予約まで完了させることができる。
従来のAI Modeは質問への回答提供に留まっていたが、今回のアップデートでマルチステップのアクション実行が可能になった。システムは2024年12月に発表され、Google I/O 2025で機能拡張が発表されたProject Marinerの技術を基盤とし、Search、Maps、Knowledge Graphのデータを活用してユーザーの代わりに行動する。
現在はレストラン予約に特化しており、OpenTable、Resy、Ticketmaster、StubHub等と提携している。今後はイベントチケット検索や地元サービス予約にも拡張予定で、ユーザーの活動履歴から学習して個人の嗜好に合わせた提案も行う計画だ。
From: Google Search gets an AI trick plucked straight out of a sci-fi film
【編集部解説】
この発表はエージェント型AIの実用化における重要なマイルストーンです。これまでのAIシステムが情報検索や回答生成に特化していたのに対し、GoogleのAI Modeは実際のタスク実行まで行う「デジタルエージェント」へと進化しています。技術的には、Project Marinerで開発された ウェブブラウジングエージェント技術がSearchに統合され、仮想マシン上で最大10のタスクを並行処理できる能力を持ちます。
競合他社との比較では、OpenAIのOperator、AmazonのNova Act、AnthropicのComputer Useなどと直接競合する分野ですが、Googleは既存のSearchエコシステムとの統合により優位性を確保しています。Gemini APIやVertex AIへの展開も予定されており、開発者コミュニティでの活用も期待されています。
ビジネス的なインパクトは多面的です。レストラン業界では顧客獲得のチャネルがGoogleプラットフォーム内に集約される可能性があり、OpenTable、Resy、Tock等の予約プラットフォームにとって新たな競争環境が生まれます。GoogleのAI Ultra(月額249.99ドル)という高額サブスクリプションモデルの採用も注目に値します。
一方で懸念材料も存在します。AIエージェントが自動的にウェブサイトを操作する際の同意やプライバシー保護の問題、誤った予約や取引が発生した場合の責任の所在、さらにはウェブサイト運営者にとってのスクレイピング対策の必要性などです。また、180カ国での展開が予定されているものの、各国の消費者保護法や商取引規制への対応も課題となります。
長期的な視点では、これはインターネット利用パラダイムの根本的変化の前兆と捉えられます。ユーザーが直接ウェブサイトを訪問するのではなく、AIエージェントが代理で行動する「zero-click search」の時代が本格化する可能性があります。これは従来のウェブトラフィックモデルやSEO戦略の大幅な見直しを必要とし、デジタルマーケティング業界全体への波及効果が予想されます。
【用語解説】
agentic AI(エージェント型AI)
人間の代わりに複数のステップを自動実行し、実際のタスクを完了させるAI。従来の情報提供型AIから行動実行型AIへの進化を示す。
Project Mariner
GoogleのGemini 2.0を基盤とした実験的なブラウザ用AIエージェント。Chromeブラウザ上でウェブサイトの操作を自動化し、最大10のタスクを並行処理できる。
Gemini 2.0
Googleが開発した最新の大規模言語モデル。エージェント時代に特化して設計され、マルチモーダル対応と native tool use(ネイティブツール使用)機能を持つ。
AI Mode
Google Searchに今年導入された機能。従来の青いリンクリストではなく、ChatGPTのようなチャットボット形式で回答を提示する。
OpenTable
1998年創業のオンラインレストラン予約サービス企業。世界55,000以上のレストランと提携し、年間10億人以上の顧客にサービスを提供する最大手。
Resy
2014年創業のアメリカのレストラン予約プラットフォーム。2019年にAmerican Expressが買収し、約16,000のレストランが利用可能。
Tock
Squarespaceが運営するレストラン予約システム。前払い予約機能により業界最低のno-show率を実現し、イベント管理機能も提供する。
Knowledge Graph
Googleが構築した巨大な知識データベース。人物、場所、事物の関係性を構造化して格納し、検索結果の精度向上に活用される。
【参考リンク】
Google DeepMind – Project Mariner(外部)
GoogleのProject Marinerの公式ページ。研究プロトタイプとしてのエージェント型AIの特徴や機能を詳しく解説している。
Google Cloud with Gemini(外部)
GoogleのGemini AIエコシステムの公式サイト。Google AI Studio、Vertex AI、開発者APIなどの各種サービスへのアクセスポイント。
OpenTable公式サイト(英国版)(外部)
世界60,000以上のレストランを検索・予約できる最大手プラットフォーム。verified dinerによるレビューシステムも提供。
Resy公式サイト(外部)
American Express傘下のレストラン予約プラットフォーム。ハイエンドレストランとの強いパートナーシップが特徴。
Tock公式サイト(日本語)(外部)
Squarespaceが運営するレストラン予約システム。前払いシステムによる低いno-show率と包括的なイベント管理機能が特徴。
【参考動画】
【参考記事】
AI Mode in Search gets new agentic features and expands – Google Blog(外部)
Google公式ブログによるAI Modeのエージェント機能拡張の発表記事。180カ国への展開と個人化機能について詳述。
Google AI Mode Adds Agentic Booking, Expands To More Countries – Search Engine Journal(外部)
SearchエンジンJournalによるGoogle AI Modeの新機能解説。レストラン予約機能の技術的詳細と業界への影響を分析。
Google’s AI Mode can now find restaurant reservations for you, how it works – ZDNet(外部)
ZDNetによるAI Modeの予約機能の仕組み解説。ユーザーエクスペリエンスの変化と技術的実装について詳細に報告。
Google’s AI Mode is expanding to 180 countries and adding an agentic restaurant finder – Engadget(外部)
EngadgetによるAI Modeの国際展開とエージェント機能の解説。競合他社との比較とユーザーへの影響を分析。
Google Search’s AI Mode is going global and getting smarter – The Verge(外部)
The VergeによるAI Modeのグローバル展開とスマート機能の詳細報告。技術的進歩と将来的な可能性について考察。
【編集部後記】
Googleのエージェント型AI導入により、私たちの検索体験は情報取得から実際のタスク実行へと根本的に変化しました。レストラン予約が自動化される一方で、ウェブサイトへの直接アクセスが減少し、従来のSEO戦略やデジタルマーケティングはどう変わるのでしょうか。AIが代理で行動する際のプライバシー保護や誤操作時の責任問題、さらには予約プラットフォーム各社の競争環境の変化も気になります。月額249.99ドルのAI Ultraサブスクリプションが示すように、高度なAIサービスの価格設定も注目点です。皆さんはこの変化をどう受け止めますか。